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10分クッキング

 商人から品物を購入してから一週間、いまだ進展はない。

 もっと商品を買って検証したいけれど、前回購入したのは一週間で消費できる量ではなかった。

 特定の品物を気に入ったという理由で追加購入するのはどうかと提案したけれど、そうすると商人が先回りして同じような商品ばかり用意するかもしれないと言われて、やめることにした。

 いろんな種類を、たくさん欲しいそうだ。


 できるだけいつも通りに過ごすのはロアさまからの頼みだけど、わたしだけ何もしていないようで歯がゆい。

 そんななか、珍しくマリナから連絡がきた。女子寮の使用人が使うランドリー室の前で待ってくれていたらしい。


「彼女は、行動力がありますね」


 マリナにむんずと腕を掴まれたというクリスは、腕をさすっていた。ちょっと痛かったのかもしれない。


 その夜、マリナがこっそり部屋に来た。


「みなさん、夜遅くに申し訳ないだす」

「トールと一緒に、分析してくれているのだろう。本当にありがたいことだ。申し訳ないだなんて思わないでくれ」

「いいえぇ、トールとティアンネ様のためですから!」


 ここで口先だけでも、ロアさまのためと言わないマリナは素直だ。


「マリナ、本当にありがとう。飲み物は何がいい?」


 ずっと分析をしてくれているためか、夜も更けてきているためか、目がしょぼしょぼしているマリナに聞く。

 マリナは、勢いよく首を振った。


「間違っているかもしれませんが、みなさんに見てほしいものがあるんだす! キッチンをお借りしてもいいだすか?」

「構わない」


 ぞろぞろとキッチンへ移動すると、マリナは持参していた瓶を取り出した。


「おら、昔からハーブや調味料に興味があって、どうしたらもっとおいしくなるか研究しとりました。みなさんが城からの結果を知らせてくれたり、トールの分析で、おらにもなじみ深いものがたくさん使われていると知りました」


 マリナが開けた瓶には、それぞれ乾燥させたハーブや薬草、調味料などが入っているようだった。


「このハーブは、天日で乾燥させて粉にしたものだす。これを同じ分量で混ぜ合わせて、こちらの乾燥させていないハーブをすり鉢で混ぜたものを加え、蜂蜜を少し……よーく混ぜてから塩、さらにこのハーブを加えて……」


 マリナが説明しながら何かを作っていくが、工程が複雑で、途中から覚えきれなかった。

 薄く切ったパンに出来上がったペーストを塗り、オーブンで焼いていく。10分以上待ってようやく出来たパンを出して、マリナは輝く笑顔で振り返った。


「はい、毒だす!」

「はい、毒だす!?」


 驚きすぎて、思わずオウム返ししてしまった。

 毒って、こんな料理番組みたいなノリで出てくるものだっけ!?


「ハーブをおいしく食べようとたくさん研究して、おいしい食べ方に出会えたんだす。でも、これを食べているとだんだん調子が悪くなっていって……食べるのをやめたら、元に戻ったんだす。商品に含まれているハーブを聞いた時、おら、真っ先にこれが浮かんで……」


 覚えるようにこちらを窺うマリナは、それでもはっきりと言った。


「これは実体験で、おらの家族にも同じ症状が出ますた。お医者さんに聞いたら、健康に効果があるもんを食べすぎて、逆に体によくなかったんじゃないかって言われました。検証はしてません。商人から買ったやつは他にも色々と、何かよくわからんものまで入ってる。だから参考にならないかもしれないけど……黙ってるよりはいいと思って」


 強い眼差しで顔を上げたマリナは、全員から向けられる鋭い視線に固まった。

 怯えながらわたしににじり寄ってくるので、背中に隠した。


「……マリナ。それは重大な発見だ。よく言ってくれた。礼を言う」

「そ、そんな……頭を上げてください」

「もう一度、作り方を教えてくれないだろうか。城でも検証する」


 ロアさまは、真剣な顔をしていた。


「アーサー、エドガルド、クリス! これを食べ、体調の変化を教えてくれ」

「喜んで」

「かしこまりました」

「体調が悪くなればすぐに横になれるよう準備をいたします」

「ロルフは、マリナに聞いて同じものを作ってみてくれ。一緒に城へ送る」

「いくつか作っておきます」

「レネは、マリナに聞きながら作り方を書いてくれ」

「はい!」

「マリナ、これを食べて気持ち悪くなった時はどうしていた?」

「み、水をたくさん飲めば、楽になるのが早かった気がします。……あの、でも! これを食べても、すぐに変化は出ないんだす!」

「それも含めて検証する。……本当に感謝している」


 ロアさまが深々と頭を下げ、それに倣ってみんなが頭を下げる。

 慌てているマリナにお礼を言いながら、みんなが動き始めた。マリナを気遣ったロルフが軽くウインクをして、わたしの後ろからマリナを連れ出す。


 少し考えて、わたしも食べる係をすることにした。

 ロアさまに止められたけど、みんな何かをしているのに、わたしだけぼーっとしているわけにはいかない。

 頑張って毒を食べるぞ!



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