表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/164

ヒロイン属性

 視線がマリナに集中する。

 ひえっと小さな声をもらしたマリナは、体を縮めて下を向いてしまった。

 目が見えないほど分厚い眼鏡と三つ編みのせいでわかりにくいが、おそらくマリナは美少女だ。


「お、おら……学校では一人なんだす。気合いを入れたら貴族らしく話せますんが、訛ってるらしいんだす。笑われるのが怖くて話せなくなって、友達もいなくて、ひとりで……。今はトールと、トールのお友達が話しかけてくれるんだす」

「とはいえ、男女別の授業も多いんです。しかもマリナは、放課後に研究室に閉じこもっています。数日いなくても、僕以外気付かない。なにより、マリナは綺麗だ」

「えっ!?」


 マリナの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「眼鏡を外したら、可愛い顔をしていると思います。そこを狙われたのではないかと」


 湯気が出そうなマリナを無視して、トールは話し続ける。

 お願いトール、マリナを見て。わたしじゃなくて! そう、その方向!


「おっ、おらが綺麗だなんて……そんな」

「令息が可愛いと騒いでる顔に似ていると思うよ。姉さまより背が高くて、姉さまより髪が長いご令嬢がいるでしょ? マリナも、少し姉さまに似てるよ」

「そんなご令嬢はたくさんいるのよ、トール……」


 ラブコメの気配が遠のいて、がっかりする。

 自分の弟が、可愛い子を無自覚で落とすラブコメ主人公かもしれないと思ったのに、ただのシスコンだった。


「あのトールが、姉様に例えてくれるなんて……! ありがとうごぜぇます!」


 両手で頬を包み込んだマリナは、なぜか感激していた。

 今のトールの台詞に、喜べる要素があった? わたしがわからなかっただけ?


「マリナ、あの……トールは悪い子じゃないの。今はシスコンが暴走してるだけで、普段から姉さま姉さま言ってるわけじゃないの」

「大丈夫だす! トールの話の半分は、姉様とティアンネ様の話ですだ! おら、慣れてます!」


 そんな状況だったのに、トールにあんな顔ができるの!?


「おらもティアンネ様が好きなんで!」


 うっ、眩しい……!


「トールと料理や化粧品の話をして、一緒に開発して、毎日楽しいだす!」

「僕も、マリナと一緒にいると楽しいんですよ」


 ……わたしは恋のキューピットなの……か?


「……今度……二人で出かけてみたらどう……?」


 わたしに言えるのは、これが精一杯だった。


「そろそろ話を戻そう」


 ロアさまの言葉で、空気が引き締まる。ちょっぴり楽しそうな顔をしていたロアさまは、今はきりっとしていた。

 眉が上がっただけで、凛々しい顔がさらに男らしく見える。


「今からその商人に関しての話し合いを行う」


 ロアさまはみんなを見回し、異論がないことを確認した。


「これからは、トールと呼ばせてもらう。トール、商人がマリナ嬢以外に狙っているご令嬢がいるか、知っているだろうか?」

「いえ、残念ながら……。マリナと一緒にいたから気付いただけなんです」

「ふむ……商人は、この学校に来たばかりなのか?」


 クリスが頷く。


「先ほど聞いてまいりました。つい一週間ほど前に出入りするようになったと」


 おお、さすがクリス。


「助かるよ、クリス。それなら、他のご令嬢に手を出している可能性は低そうだ」

「今まで出入りしていた者が退職するから、代わりに自分が学校の担当になると言ったそうです。ですが、前任となる方から紹介されたわけでもない。そこを聞くと、まだ確定ではなく、学校の雰囲気を感じてみて、駄目だと思ったなら辞退する予定だと言ったそうです。だから前任には言わないでくれと」

「怪しいな」

「はい。その商人は口がうまく、いかにも真実のように哀れっぽく話すので、つい同情してしまったと。親の顔を立てて商人になったのはいいが、人が多い場所が苦手なので向いていないと語ったと聞きました。そのまま世間話をしたと言っていましたが、その時に情報を得ているでしょう」

「なかなか口がうまいようだな。手慣れている印象を受ける」

「いてはいけない場所にいるのを見かけ、注意したこともあるそうです。迷っていたので助かったと、大変感謝されたと言っていましたが……」

「ああ、そういう言い訳が使えるわけか。それでマリナ嬢に目を付けた」

「そこから広げていくつもりでしょう」


 ロアさまは、たまに見せる覚悟した目を、マリナに向けた。ロアさまが女生徒と話しているのは見慣れなくて、胸がざわざわする。


「マリナ嬢には、危険なことを頼んでしまう」

「構いません。悪いことをする奴は許せない!」


 珍しく語気を荒げたマリナは、ふんすと手を握りしめた。


「黙っていても狙われるなら、こっちから行きますだ! 妹たちが学校に来ることがあるかもしれない。その時、そんな奴がいたら危険だす!」

「妹君たちの身を案ずる気持ちは大切だが、何より自分を大事にしてほしい。一番危険なのは、マリナ嬢だ」

「はい!」

「では、みなで意見を出し合ってほしい。私としては、まずはマリナ嬢に何かの魔道具を持たせるのがいいと思う。身を守るものと、録画するもの。相手は変身の魔道具を使っていないから、うまく録画できるだろう」


 みんなから、どんどんと意見が出てくるので、安心した。

 マリナは、わたしみたいに危ない目には遭わない。それが一番だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説3巻(電子のみ)発売中です! サンプル
コミカライズ3巻はこちら! サンプル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ