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前衛的

「アリス、似顔絵ができたよ。見て! やっぱりみんなに見せるのはやめよう!」

「そうですね、やめましょう!」


 わたしの似顔絵があまりに似ていないのでレネも描いてみたら、二人してなかなか前衛的な絵ができた。


「これは何ですか? ひげ?」

「鼻毛」

「途中から、似せることを諦めてるじゃないですか」

「うん! 鼻毛もっさり!」

「もう、笑わせないでくださいよ!」


 レネの描いた似顔絵がほしいけど、どうしてもくれなかった。


「レネ様、どうしても駄目ですか? すごくほしいです」

「だーめ。アリスのもくれなかったじゃん」

「あれは駄目です。無理です」

「ボクのも無理!」


 そこまで言われたら、引き下がるしかない。

 ほしかったけど、自分のあの絵と引き換えにはできなかった。あれは燃やして消してしまわなければ。


 ふたりしてたくさん笑ってから、部屋を出ることにした。

 ドアを開けると、みんな帰っていて、すごく凝視された。思わずびくっとする。


「アリス、落ち着いて。ボクが言うから、アリスは座ってて。アリスは、不足があれば付け加えてくれる?」

「わたしから言います」

「だめ。アリスは平気な顔してたけど、やっぱり辛いものは辛いよ。側で聞いておくのが嫌なら、部屋にいていいから」

「いえ。わたしが無理を言っているんですから、ここにいます」


 こほん、とロアさまがわざとらしい咳をした。


「二人は……随分と仲がいいな?」

「レネ様に相談していました。本当ならわたしから言うべきなんですが……」

「ボクのほうが客観的に言えるよ。さ、アリスは座って。あたたかいお茶を飲んで、お菓子も食べて」

「これ以上食べると大変なことになるので、お茶だけいただきます」

「アリスは丸くなっても可愛いから、ちゃんと食べて!」


 クリスに入れてもらったお茶を飲みながら、レネのわかりやすい説明を聞く。

 最初はみんな訝しい顔をしていたけど、そのうち目じりが釣り上がってきた。全身から怒りのオーラのようなものを漂わせていて、そばにいるだけで怖い。

 クリスさえ、とても怒っている。美少女の姿だからか、余計に恐ろしく感じる。美人が怒ると怖いって本当だったんだ。


「どういう経緯で学校に来たかわかりませんが、このまま放置していてもいいことがあるとは思えません。アリスは、ダイソンに関係ないからと迷っていましたが、きちんと報告してくれました」

「……言いにくいことを報告してくれたアリスに感謝する。これは兄上に伝えるべき案件だ。確かに私はダイソンのことを第一としたが、他をおろそかにするという意味ではない」


 燃えるような怒りはそのままに、ロアさまの瞳に懸念が揺らめく。


「この件について、アリスは関わらなくてもいい。どうしたい?」

「もちろん、ボコボコにしたいです」

「……平気なのか?」


 私に前世の記憶がなくて、うぶな貴族令嬢だったら、今も恐怖で動けなかったかもしれない。

 でも私は、世の中にはクズがいると知っている。襲ってきても、潰れろ! と思うだけだった。きちんと反撃もした。

 たぶんあれ、しばらく使い物にならなかったと思う。


「わたしは本当に大丈夫です。それよりも、トールに気を付けてください。トールがあの男を見つけたら、たぶん、殺します」

「ああ……そうだろうな」


 ロアさまは深く頷く。トールのことがわかってきたようだ。


「そんなの、僕だって殺してやりたい! 今すぐに!」

「落ち着け、エドガルド。すぐに殺してどうする? それは俺たちの自己満足だ」


 エドガルドをなだめるロルフの手は、震えるほど握りしめられている。


「そうですよ。そういった輩は、反省しません。心から反省して謝罪して自分から引きちぎるまで生かしておかないと」


 アーサーが怒るのを初めて見た。いつも笑顔で落ち着いているアーサーが怒る姿は、ちょっと怖い。


「トール様のところへ行ってまいります。嫌な予感がしてきました」


 やや青ざめたクリスが、急いで部屋を出ていく。


 みんなで商人を捕まえる方法を相談していると、クリスが帰ってきた。


「お嬢様、すぐにおいでください。トール様はその商人に気付き、刃物や縄を用意しているところでした。マリナ様が必死に止めておいでです」

「行きます」

「全員で話したほうがいい。クリス、どこかに会談に適した場所はあるか? アリスが来ると伝え、弟君とマリナ嬢をそこへ連れてきてくれ。マリナ嬢には、弟君の足止めを頼む」

「かしこまりました。では、学校の一階にある、談話室においでください。申請すれば誰でも使えますので、トール様にお伝えしたら申請してまいります」

「頼んだ」

「クリス、トールに伝えてください。姉さまもボコボコにしたいから、ちょっと待ってと。これで多分止まるはずです」


 たぶん。


「かしこまりました」


 急いで出ていったクリスを追いかけるように、みんなで部屋を出た。ロアさまの手が、そっと背中に置かれる。


「そんなに申し訳ない顔をしなくてもいい。アリスが伝えてくれて、本当によかった。これで被害者が出てしまったらと考えると……いや、もう出ているのかもしれない。一刻も早く対策をたてなければ」

「はい。……思い切って言って、よかったです」


 これで令嬢は傷付かないし、トールが人殺しにならなくて済む。


「本当によかった……」


 さすがに、トールに人を殺してほしくない。



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