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内実2

「……私としましては、いまの状況は、ライナス殿下の母君が前陛下と結ばれたことから始まったと考えております」


 話し始めたエドガルドを、ロルフが信じられないとばかりに見る。ロルフは責任感が強く、エドガルドを大切に思っているが、時としてそれは枷となる。

 バルカ侯爵家の跡継ぎとしての威厳を見せ、エドガルドは続けた。


「マリーアンジュ様……ライナス殿下の母君の生家であるダイソン伯爵家は、名家ですが没落寸前でした。権力も人脈もなにもかも足りないダイソン家だけでは、マリーアンジュ様が皇后となる後ろ盾としては心もとない」

「そうだ。だから母は、王の最大の支持者であるエヴァット公爵家の養女となったのち、皇后となった。エヴァット公爵家とダイソン伯爵家が王の味方となったのだ」

「ええ。貴族内で最大派閥でした」


 そこで一度会話が途切れ、部屋に沈黙がおりる。


「うまくいっていたのはほんの少しだった。兄上が生まれると、後ろ盾にエヴァット公爵家がついた。そして、私にはダイソン伯爵家が。兄上は優秀で、次期国王になるだろうと早くから言われていたし、私も異論はなかった。むしろ、王となった兄上を支えたかった」


 口を噤んでしまった私の後に発言したのはロルフだった。遅ればせながら腹を括ったらしい。


「エヴァット公爵家とダイソン伯爵家は、同じ派閥とはいえ、持っている権力は雲泥の差でした。権力が偏りすぎないよう、マリーアンジュ様は心を砕いておられました」

「そうだ。そして……これ以上派閥が大きくならないよう、王族が力をつけないよう……母は、反乱勢力に毒殺されてしまった。母を愛していた父は、早々に次期国王を兄上にすると発表して隠居の準備を始めた。私は臣下として育てられることが決定し、エヴァット公爵家はますます力をつけた。そして、ダイソン伯爵家は追いやられていった」

「ダイソン伯爵家は、反乱勢力と手を組んでいると聞いたことがあります。ただの噂ですが」

「ロルフの言う通りだ。いまだ証拠はないが、反乱勢力と結託し、私を王にしようとしている。かつての権力を取り戻すのだと息まいてな」


 エドガルドとロルフは息を吞んだ。思っていた以上に大事だと気付いたのだ。


「……ですが、ライナス殿下は騎士を目指すと公言しておられます。我が国は、他国より武力が劣る。それを補強するのだとおっしゃっていたではありませんか」

「その志はずっと私の心にある。騎士になれば、ダイソン伯爵家も私を王にするのを諦めるのではと思っていた。だが……私が武力を手にすると知り、反乱勢力は喜んだのだ。これで兄上を制圧できると」

「なんてことを!」


 思わず立ち上がりかけたエドガルドの横で、ロルフが強く手を握り締めている。震えは怒りからだ。


「兄上はすでに王となり、子もふたりいる。私の王位継承権は3位だ。王にするために……兄上も、兄上の子も、すべて亡き者にする計画をたてているのだ」

「……だから、この騎士団にいらっしゃるのですね」

「ロルフは敏いな。この第四騎士団は、兄上が私のために作ってくださったものだ。ここに身を潜め、機をうかがい、せめて自分の身を守れるように鍛錬を、と。私の側近はほぼダイソン伯爵家の者だ。その中から信頼できるシーロとアーサーを連れ、力になってくれる者を探している」


 エドガルドが納得したと頷く。


「道理で、ここにいるのは、エヴァット公爵家にもダイソン伯爵家にもついていない家の者ばかりなはずです。そこから更に、騎士団に所属している者がいる家となれば、これだけ少なくもなるでしょう」

「ノルチェフ嬢もそういった事情で選ばれたのですね。ノルチェフ家は代々王党派で、権力争いにも参加していない。キッチン・メイドといえば、騎士団を見合いの場だと思って来ているレディばかりなのに、その様子のないノルチェフ嬢が不思議だったのです」

「キッチン・メイドをしてくれる令嬢がいなかったので、ノルチェフ嬢が働きたいと聞いたときは驚いた。タイミングが良すぎて疑いもしたが……ノルチェフ嬢はノルチェフ嬢だった」


 ふっと空気がゆるむ。顔を見合わせてわずかに微笑む私たちの頭にいるのは、ノルチェフ嬢だ。

 近づけば怯え、話しかけると距離をとり、視線が合わないご令嬢。こちらが下心なしに何度も話しかけ、敵意はないと示し、異性として見ていないと振舞ってようやく、ノルチェフ嬢から隣に座り、微笑みかけてくれる。

 仲良くなりたいという令嬢とは正反対で、それが心地いい。


「私は、反乱勢力と共に戦ってくれる者を、側近として迎え入れたい。己が権力を手にするために反乱を起こす者たちの操り人形となって、王になるわけにはいかない。どうか私と戦ってほしい」


 ふたりがどんな返事をしても受け入れるつもりだ。だが、味方になってほしい。いま私が信頼できる者は、あまりに少ない。

 先に動いたのはエドガルドだった。ソファからおりて跪き、首を垂れる。


「私はいまだバルカ家の跡継ぎに過ぎません。いまはバルカ家の助力は得られないかもしれませんが、当主となった暁には、ライナス殿下をお支えし、道を切り開くことを誓います」


 エドガルドが顔をあげて、ふわりと微笑む。


「私が見たライナス殿下は、いつも何かを学び、鍛錬しておられました。誰よりも先に起きて本を読み、誰よりも遅く鍛錬を終える。その姿を見ておりました。微力ではございますが、ライナス殿下の目指すもののため、お役に立ちたいと存じます」

「私もです」


 ロルフも跪く。エドガルドと違い、はじめから見上げてきたロルフの目には、いまだ迷いが見える。


「ご存じのとおり、私はオルドラ伯爵家の者ではありますが、疎まれております。私の行動がオルドラ家の意向と思われてはならないのです」


 ロルフの苦悩が伝わってくる。

 オルドラ家と縁を切ることもできるが、伯爵の身分を失ったロルフが私の側にいることは難しくなる。騎士団にもいられなくなるだろう。 


「私が欲しいのはオルドラ家ではない。ロルフだ」

「……っ! お言葉、しかと、我が胸に」


 ロルフは深々と首を垂れた。


「我が命は、ライナス殿下のために」

「ふたりは、私を庇わなければならない。状況によっては、私がそなたらを見捨てることもあるだろう。だが、これだけは忘れるな。自分を守れ。命を軽率に捨てるな」


 わざと口調を軽くして続ける。


「でないと、側近の死をあまりに嘆く私を見て、みながあらぬ噂をするだろう。私たちはただならぬ関係だったと」


 うろたえるエドガルドの横で、ロルフが笑う。


「さあ立ってくれ。シーロもこちらへ来て、一緒に飲もう。たくさん話し合わなければならないことがある。今後について、そして我々について。さあ、語り合おうではないか」

「そう思ってお酒を用意してあります! アーサーには悪いけど、運が悪かったということで!」


 シーロがグラスとワインを持ってきて、ソファに座る。

 今日が休みなのが少し惜しい。いつもならノルチェフ嬢が何かしら作ってくれていて、夜食がはやく出来たときはこっそりくれるのだ。

 ワインのコルクが、小気味いい音を立てて抜かれた。今日は朝から酒盛りだ。



よくわからない方は「ロアの本名はライナスだった!後ろ盾のダイソン伯爵家が反乱しようとしているぞ!」とだけ覚えてくれたら大丈夫です。


以下、読まなくてもいいキャラ設定です。

ライナスは銀髪おでこお茶目で器が広いムキムキ。

エドガルドはサラサラ黒髪眼鏡が似合う内気で実直な青年。

ロルフは派手で女遊びしてそうに見えますが一途。

レネはきゃるるんアイドル腹黒です。

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