精一杯の口説き文句
「あー、思い出したらカリーが食べたくなったな」
ロルフの声に、はっと我に返った。
いつの間にか食べ終えてしまったらしい焼き鳥に、がっくりする。味の勉強をしにきたのに、普通に買い食いを楽しんでしまった。
「エドガルドも食べ終えたな。よし、ケーキ屋に行こうぜ」
「待って、まだ決めてない」
「なら、行きたいところに全部行こうぜ」
エドガルドの顔がパッときらめく。
甘いものをそんなに食べないロルフは、仕方ないなぁという顔をして、目一杯の親しみを込めてエドガルドの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。驚きつつ、年相応に「なんだよ!」と言うエドガルドは、それでも笑って愛情表現を受け入れている。
うん、よきかなよきかな。
焼き鳥を食べ終え、3人でケーキ屋まで歩く。エドガルドとロルフは、いつも乗り物で移動しているそうで、楽しそうに街や人を見ている。
ふたりとも騎士らしく、脚の短いわたしに合わせて歩いてくれていた。できるだけ速足で、しかし息を切らさず優雅に見える速度で歩いているのに、ふたりは長い脚を持て余し気味だ。
エドガルドが微笑みながら顔を覗き込んできた。
「ノルチェフ嬢は、脚も可愛らしいのですね」
おまえ脚短いな、という遠まわしな嫌味かと思ったけど、エドガルドはそんな性格じゃない。と思う。正直、脚は太いのであんまり見ないでほしい。
ちょっぴり息が上がってるけど、そんなことありませんとばかりに澄ましてみせた。
「ありがとうございます」
この返事で正解かわからないけれど、エドガルドが笑みを深めたので、悪くはなかったのだと思うことにした。ロルフが肩を震わせながら笑うのを、エドガルドが笑顔のまま肘でどつく。
ふたりがじゃれあっているうちに目当てのケーキ屋さんについた。深々とお辞儀して出迎えてくれる店員さんに、個室でとお願いする。割と質素な服を着ているふたりから隠しきれない貴族オーラを察知したのか、なにも言われることなく個室へと案内してくれた。
店舗の二階にある個室は白を基調とした広めのお部屋だった。女性客がメインなのか、パステルカラーの可愛らしい内装となっている。
椅子を引いてもらって座ると、案内してくれた店員さんはさっと退出してしまった。最初からスタンバイしていた店員さんがひとり、壁際に残っている。
「きみ、本日の品は」
「店内のみで食べられるケーキが4種類ございます」
店員さんはすらすらとケーキの説明をしてくれた。朝採りの果物だとか、しぼりたての牛乳を店で生クリームにしたとか、数時間前に生んだばかりの卵だとか、おいしそうな単語が並ぶ。
「では、それを3人分」
「あと、軽食もいくつか頼む。もう下がってくれ」
「かしこまりました」
店員さんが退出すると、ロルフがにやりと笑ってエドガルドを見た。
「ちゃっかり俺のぶんまで注文しやがって」
「それはロルフのほうだろ。ノルチェフ嬢、勝手に注文してしまいましたが、よかったですか?」
「そんなに食べられませんので、バルカ様さえよければ、お好きなケーキを3つほど食べていただけませんか?」
「そんな、3つもなんて……ノルチェフ嬢、我慢しないでください」
「いえ、本当に食べられないんです」
「俺もそんなに甘いものは食べられないぞ。ノルチェフ嬢がこう言ってるんだ、ありがたく受け取っておけ」
「……わかりました。ノルチェフ嬢、ありがとうございます」
なごやかで明るい雰囲気のなか食べたケーキは、すこぶるおいしかった。
トール、姉さまは少し異性に慣れることができたよ。トールは喜んで……くれるかな……? 嫁いでどこかの家とつながりをもたないと、貴族の女性としては意味がないのに、男嫌いで結婚しないのを喜んでる節があったからなぁ……。
今度家に帰った時、学校で気になる人ができたか聞いてみよう。