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密室1

 話が聞きたいと言われたのは、王城に到着してから五日後のことだった。貴族言葉で「できるだけ詳しく話をしてもらいたい」と言われて、ようやくわたしの番かとほっとした。

 王城に着いてから、いつ話を聞かれるか、ずっと緊張している状態だったのだ。やましいことはないので胸を張っていいのだけど、緊張するものはする。


 侍女に案内されて、部屋を出る。後ろでドアが閉まり、ロイヤルブルーが見えなくなった。

 ……この豪華な部屋のシーツや賭け布団、枕までロイヤルブルーだったんだよね。王家の色で揃えられたベッドで寝るのは不敬だから変えてほしいとお願いしたけど、侍女さんは「そのまま眠っていただいて構いません」と言うだけで、変更してくれなかった。

 これから会う人に、このことをツッコまれたらどうしよう。


「こちらでお話をお伺いいたします」


 案内されたのは、使っている部屋のふたつ隣だった。思っていた以上に近くてびっくりしたけど、あまり歩かなくていいように配慮してくれたみたいだ。

 割と高めのヒールで長く歩くのはきついので、ありがたく気遣いを受け取る。


「ありがとうございます」

「中でお待ちでございます」


 ついてきた侍女さんが一緒にいてくれるらしいので、ちょっと安心だ。

 部屋の中はあたたかみのあるアイボリーや、淡い薄緑色が多く使われていた。大きな窓から風が入ってきて、白いカーテンを揺らしている。

 部屋の真ん中にソファとテーブルがあり、ソファに座っていた男の人が立ち上がって出迎えてくれた。


「アリス・ノルチェフ嬢、よくいらしてくださいました。軽く聞くだけですので緊張なさらないでください。ご気分がすぐれないなどありましたら、すぐにおっしゃってくださいね」

「はい。よろしくお願いいたします」

「私はスコット・アーモンドと申します。覚えやすい名でしょう?」


 緊張しているわたしを笑わせようとしてくれているのが伝わって、小さく笑う。アーモンドというだけあって、スコットの目も髪もローストしたそれにそっくりだ。

 親しみを込めて、スコットの目が細められる。アーモンド色の目には、わたしを気遣う色が感じられるだけだ。

 スコットもイケメンだけど、第四騎士団に行ったばかりの頃のように、目を合わせられないことはない。

 それはスコットがわたしを尊重してくれているからで、わたしがイケメンに慣れたからで、何より第四騎士団の騎士さま達が男性は怖くないと教えてくれたからだった。


「腰かけてください。お茶を飲みながらお話しましょう」


 スコットが一番聞いてきたのは、意外にも第四騎士団に入るまでのことだった。貴族学校に逃げてからのことを聞かれると思っていた。

 さりげなく聞くと、スコットは


「他の方からも聞いておりますので」


 と答えてくれた。

 なるほど、学校に行ってからは、わたしは基本的に誰かと一緒にいた。行動が筒抜けだから、根掘り葉掘り聞かなくていいってことだよね。


「では、ノルチェフ嬢は結婚相手を探すためではなく、働くためにキッチンメイドになったと」

「はい。アーモンド様はもうご存じだと思いますが、わたくしがキッチンメイドとして働きだした時、ノルチェフ家は金銭的に困窮しておりました。貴族令嬢としては、結婚して援助を受けるべきだとわかっていました。しかし……あんなことがあったので」


 わざと言葉を切って視線を下に向けると、人のいいスコットは慌てたように少し身を乗り出した。


「話しづらいことは秘めたままで結構でございます!」

「いいえ、それでは疑問が残ることもあるでしょう。わたくしの中では過去のことなので大丈夫でございます」

「ノルチェフ嬢……」

「今思えば、父はわたくしが働きたいと言うことを見越して、キッチンメイドの職を見つけておいてくれたのでしょう。わたくしが結婚すると言い出したら、働く道もあると言えるように。家族は、わたくしが男性が苦手であることに気付いていましたから……」

「ご家族の愛で、第四騎士団で働くことになったのですね」


 話しながら時折スコットに質問をしてみると、案外いろんなことを教えてくれた。

 実は、わたしはダイソンの手先ではないかと疑われていたらしい。すこぶる驚いたが、理由を聞いて納得した。


「学校で、ノルチェフ嬢に危害を加えた商人と会いましたよね。ノルチェフ嬢はダイソンの手先として商人を知っており、それを告げることでライナス殿下の信頼を得てダイソンを裏切り、手柄を立てた。あるいは商人を自分で呼び出し、ライナス殿下に甘えてみせ、御心を手に入れようとした。そういうことも考えられたのです」

「な、なるほど……」

「ノルチェフ嬢を入念に調査した結果、それは有り得ないとなったのでご安心ください。キッチンメイドになる前のノルチェフ嬢はダイソンと会っていないと確認が取れました。キッチンメイドになってからは、こちらがダイソンの監視を強めたので、やはり会っていないとわかっています。それにノルチェフ嬢は、休日はどなたかと一緒にいることが多かったようですしね。

 商人もすでに尋問が行われており、ノルチェフ嬢に反撃されてからは逃げ回っていたと供述しており、証拠も揃っています」


 キッチンメイドになる前のわたしは、あまり外に出なかった。

 貴族令嬢として公の場に出るのは、友人の家でするお茶会と、建国祭の一日目くらいだ。商人に襲われそうになってからは、市場へ買い物もトールと一緒に行っていた。

 年頃の令嬢たちはいろんなところへ行くけど、わたしはわりと引きこもっていたおかげで、ダイソンに会っていたかもしれない疑惑が晴れたらしい。

 商人に関しても同様だ。わたしがひとりでふらふら出かけていたら、商人と会っていたと思われたかもしれない。

 家からあまり出ずに、家事をしたり母さまの世話をしていてよかった。


 最後に軽く雑談して、スコットは部屋を出ていった。

 わたしはどうすればいいんだろう。ちらっと後ろにいる侍女さんを見てみると、にっこり微笑まれた。


「そのままおかけになってお待ちください」


 なにを、と聞ける雰囲気ではない。

 お茶を飲みながら何かを待っていると、数分後にドアが開いた。ドアを見て凍りつく。

 そこには、わたしでもわかる人物がいた。


「コレーシュ陛下……」



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