再会
王城には、予定していたよりも早く着いた。コレーシュ陛下がわたしたち以外の馬車が通らないようにしておいてくれたので、とても早く着いたみたいだ。
楽しい時間を名残惜しみながら、みんなで王城へと降り立つ。わたしは最後に魔道具から降りた。
クリスからもらったボディスーツを着ていたので立ち振る舞いは大丈夫だったと思うけど、あまりに多くの人に注目されているので、変な汗が止まらない。
わたし以外の人は注目されているのに慣れているのか、堂々と歩いていた。特にロアさまとエミーリアは堂に入っている。
「こちらがアリス様のお部屋でございます。お部屋は変えられますか?」
「いえ、こちらで結構です」
王城に入ると、客室に案内された。
コレーシュ陛下は、まずはロアさまとだけお話するらしい。わたしが呼ばれるとしたら、最後かな。
……部屋に何人も使用人がいて、なんとなく落ち着かない。
さすが王城の使用人で、わたしがお茶をほしいと思うと、すぐに淹れてくれる。そのままよりも、ミルクを入れたほうがおいしいと思ったら、次から何も言っていないのにミルクを入れてくれる。
ちらっと窓を見たら、すぐに開けてくれた。
……ロアさまは、こういう環境で育ってきたんだ。
いや、ダイソンに狙われていたからリラックスはできないし、毎日死ぬかの瀬戸際だっただろうけど。
これからロアさまは、安心した生活を送ることができる。
……わたしじゃ、やっぱり釣り合わないや。
好きという気持ちだけじゃうまくいかないことがあるのを、わたしはよく知っている。
王族のロアさまの近くにいる資格さえないのに、ずっと側にいられた。たくさん話ができた。それだけでじゅうぶんだ。
男性が怖かったのに、もう一度恋ができた。わたしにとって、これ以上ないほどの進展だ。
何もすることがなくてぼうっとしていると、ドアがノックされた。
侍女がさっとドアを開け、頷いてから大きく開かれる。そこには、ずっと会いたかった人たちがいた。
「母さま……! 父さま、トール!」
勢いよく立ち上がろうとして、ボディスーツに止められる。この感覚、久しぶりだな!
あの病弱だった母さまが立って歩いている! 父さまが軽く支えているけど、それに頼ってはいない。
すでに涙ぐんでいるトールは、王城ということもあって、走らずにちゃんと父さまの後ろを歩いてきた。
「みんな、無事でよかった……!」
「それはこちらの台詞だ」
母さまをトールに任せた父さまとハグをする。ちょっと痩せたみたいだ。
「こっそりとアリスのことを教えてもらっていたが、気が気ではなかった。詳しいことは教えてもらえなかったから、余計に不安が掻き立てられて」
ハグを終えた父さまの両手に、顔を挟まれる。そのまま顔をぐりぐりと回され、動いてみせるように言われたので適当に歩く。
「……怪我はないようだな」
「うん、怪我はしてないよ。心配させてごめんね」
「アリスは素晴らしいことをした。父親として誇りに思う」
「父さま……」
「あなた、私にも抱きしめさせてくださいな」
「母さま!」
わたしのところまで歩いてきた母さまを抱きしめる。立ったままハグをするのは、随分と久しぶりだ。母さまはベッドにいることが多かったから。
背が縮んで細くなってしまったけれど、前よりも元気だ。
「全部が終わってからアリスのことを聞いたから、もう驚いちゃって! アリスからの手紙もなくて会えなくて、父さまとお医者様にずいぶんとごまかされたのよ!」
「伝えるのは危なかったんじゃないの?」
「そう言われたし、私の体調が悪化するからって! その通りよ!!」
「その通りよね」
「でも、教えてほしいじゃない!」
「ううーん。でも、それで母さまが死んだらみんな耐えきれないし」
「それもそうね」
「でしょ? 母さまの病気は、かなりよくなったのね?」
「ええ、薬が効いているの。このまま飲み続けていれば、ベッドにいなくてもいいの。無理はできないけれど、薬の研究は続いていくから、思ったより長生きできるわ!」
「よかった!」
母さまをもう一度抱きしめてから、ぐっと唇をかみしめているトールを抱きしめた。
「頑張ったわね、トール」
「姉さまが無事で、よかった……! 手紙も来ないし!」
「ご、ごめんなさい。一度出そうと思ったんだけど、思ったより早い展開で……」
あんなに早くモーリスと接触することになるなんて思っていなかったから。
みんなが大慌てていろいろと準備したり整えてくれている時に、トールへの手紙を出したいと言って負担を増やすことはできなかった。
「姉さまからの手紙を待ってました!!」
「ごめんね。本当に悪いと思ってるわ。でも、トールのおかげでモーリスを捕まえられたのよ」
「……本当ですか?」
「ええ! しばらくお話してもいいんでしょう? わたしのほうはあまり詳しくは言えないけど、みんながどうしていたか聞きたいな」
そのあと、わたしが会えなくなってからのことを聞いた。
父さまは寂しくて死にそうで、母さまはけっこう退屈だったらしい。薬を飲んでデータを取っているので、指示に従って動いたり休んだりしたけれど、それも一時間ほどだ。家族がどうしているかを思いながら刺繍をしていたという。
あの母さまが! わりと不器用な母さまが刺繍をするほど暇だったのね!
「僕は、変わりない学校生活を送っていました。姉さまがいなくなってから寂しくて……」
「マリナはどうしたの?」
「そ、それは……」
真っ赤になったトールに、家族全員が色めき立つ。
なんとかトールにお願いして、ちょっとずつマリナとのことを聞いていたら、お話できる時間は終わってしまった。
「あとでもう一度聞きますからね! 姉さまはマリナのことを応援してるから!」
「僕こそ、今度は姉さまのことをしっかり聞かせてもらいますから!」
「大丈夫よアリス。私がしっかり聞いておくわ」
「……ほどほどにな」
賑やかな家族と別れると、途端に寂しさが押し寄せてくる。
……わたしに言えないことが多いから、3人は気を遣ってくれて、あまり聞かれなかった。
こういう時、しみじみと思う。
家族っていいものだな。