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カレーパーティー

「はじめまして、アリス・ノルチェフです。イアン様からカリーを作るよう頼まれました。よろしくお願いします」


 第一騎士団の騎士たちが去ってすぐ、カレー作りに取りかかることにした。

 案内されたキッチンは、広々として綺麗に保たれている。

 ずらっと並んだ料理人は全員女性で、きちっと並んで出迎えてくれた。


 わたしが作るので、シェフには嫌な顔をされるかと思ったけど、意外にも歓迎された。


「これからはバルカ家の方が本当にお好きなものをお出しできると聞きました! イアン様もエドガルド様がお嫌な顔をする食事を作るのは、こちらもなかなか堪えて……」


 ここの料理長だという、はきはきした女性は、涙ぐみながらイアンとエドガルドのことを喜んでいた。


「カリーは作ったことがないので、指示をくださいますか?」

「わかりました。みんなでおいしいカリーを作りましょう! よろしくお願いします!」


 貴族のお屋敷なので、下ごしらえくんも調理器くんもいなかったけど、そのぶんここは人がいる。

 玉ねぎだけ先に切って炒めてもらって、お肉をヨーグルトに漬け込んでもらいながら作り方を簡単に説明する。

 作り方はそこまで手の込んだものではない。みんな手慣れた様子で、野菜を切ってくれた。


「これが、モーリスに作ったカリーです。お米を炊いて、パンも用意して……そうだ、ナンは作れますか?」

「どんなものですか?


 説明したらわかったのか、ナンも作ってもらえることになった。わたしはあんまりすることがない。

 まあわたしは客人だし、シェフじゃなくて元キッチンメイドだ。あんまりでしゃばるのはよくない。


 イアンにメイド服を着ていいか聞いたら、すごく驚かれたしね……。

 客人に使用人の服を着せるなんて! と言われたので、シンプルなデイドレスを貸してもらった。

 服は汚してもいいと言われたけど、汚すのは悪い気がして、こうして後ろで見守っている。


 カリーを作る人以外は、ほかの料理を作っているようだ。

 それぞれの素材のことを考え、綺麗に仕上げていくのはさすがのプロだ。


「お嬢様、今よろしいでしょうか」


 料理長がどこかおずおずと話しかけてきた。暇だったので、喜んで応じる。


「このカリーですが、今後も作ってもいいのでしょうか……?」


 料理人が作ったレシピは、基本的に公開しない。

 オリジナルはスペシャリテになることが多い。人に教えて、自分の味を盗まれることを嫌うのだ。


「もしイアン様たちがお気に召したのなら、ぜひ作ってください。元はわたしが考えたものではないですから」

「い、いいんですか!?」

「はい! 改良もしていいので、バルカ家の方々が好む味にしてくださいね」

「ありがとうございます、お嬢様!」

「もしイアン様方が気に入ったら、ノルチェフ式カリーって呼んでくださいね!」

「かしこまりました!」

「ごめんなさい、冗談です! 呼ばなくていいです!」


 必死に止めたけど、料理長の目は本気だった。

 ……どうしよう。ダイソンを捕まえられたから、ちょっとテンションが上がりすぎてた。

 こんな馬鹿な名前が広がらないように、あとでイアン様に伝えて謝っておこう……。



 夕食前にはたくさんの料理が出来上がり、庭に運ばれた。

 今日は無礼講だということで、みんなで庭で食べるんだって。バルカ家は騎士との距離が近めなので実現したらしい。

 使用人たちは後で食べるって聞いたから、そのぶんもたっぷり作っておいた。


 たくさんの人の注目を浴びながら、イアンが進み出た。


「無事にモーリスを捕まえることができた! 本日はお祝いだ! ライナス殿下もいらっしゃる!」


 イアンの横にいたロアさまが、軽く手をあげる。


「みなのおかげで、モーリスとダイソンを捕まえることができた。素晴らしい功績を誇ってほしい」


 ロアさまは続けてみんなの苦労をねぎらい、協力してくれたバルカ家や騎士さま達に礼を述べていた。

 みんなが嬉しそうに誇らしそうにロアさまを見つめているので、なんだかわたしまで嬉しくなってきた。


 最後にイアンがパーティーの開始を告げ、歓声があがった。お腹がすいたムキムキな騎士さま達が、さっそくカレーを食べていく。


「食べるのを躊躇する見た目だが、おいしそうな匂いには抗えない! 俺は食べるぞ! ……うまい!!」

「これはおいしい……! なんだこれは! スープだと思ったが、そうではない!」

「パンを一緒に食べるんだ! それがうまい!」

「待て、米も合う! カリーはすごいな!」


 みんなおいしいと言ってくれて、ほっとする。口に合わない人もいるようだけど、そういう人は普通のご飯も用意してあるので、そっちを食べているようだ。


「このカリーを作ったの、アリスでしょ? おいしいよ!」

「レネ様! よかった、レネ様とロルフ様用のカリーを食べてくれたんですね」

「もちろん、すぐわかったよ! アリスがずっと作ってくれたものだもん」


 わたしが食べているのは中辛だ。さすがにレネ用の辛いものは食べられない。

 しばらくレネと話していると、少しだけ息を弾ませたロルフがやってきた。


「アリス、ここにいたんだな! カリーを作ってくれてありがとう。これでアリスのカリーも食べ納めだから、直接お礼を言いたかったんだ」

「バルカ家のシェフたちにレシピを教えましたから、また食べられますよ」

「……そっか。ありがとう、アリス。ずっと、心から感謝してる。これからまた忙しくなりそうだから、先に言っておきたかったんだ」

「こちらこそ、ありがとうございます。ロルフ様のおかげで、ウインクに耐性がつきました」

「それはよかった。さ、レネも行くぞ!」

「仕方ないな。じゃあアリス、また後でね」


 最後に綺麗なウインクを残して、ロルフは行ってしまった。オルドラ家の息子として、ロアさまの側近として、ここでやることがたくさんあるみたいだ。

 一緒に行ったレネも、口では仕方ないと言いながら、ロルフの手助けをしている。レネはずっと働きづめだったから、ちょっと休憩してカレーを食べられてよかった。


 ソーセージを食べていると、今度はアーサーがやってきた。


「会えてよかったです、アリス。明日の昼前に、王都へ向かいます。魔道具で行きますから、乗っているだけで着くはずです」

「教えてくださってありがとうございます。アーサー様、少し何か口に入れたほうがいいんじゃないですか?」


 ずっとロアさまの補佐をしていたアーサーのきらびやかな顔が、少しくすんでいるように見える。


「ここで頑張らないと、ライナス殿下の側近とは言えませんからね。あとでいただきます。アリス、いい夜を」


 ふっと、アーサーの顔が近づいてくる。耳に近い位置で、アーサーのささやき声が聞こえた。


「カリーを借りる」

「うーん、疲れてるとダジャレもいまいちですね」

「やっぱりそうですか。あまり凝ったものが思い浮かばなくて……。王都に着くまでに考えてみます」


 さわやかに手を振って去っていくアーサーの顔は、ちょっとだけ元気になったように見えた。

 貴公子みたいにふるまうことに疲れて、息抜きにダジャレを言いにきたのかな。わたしは男性が苦手だってことが広まって、騎士さま達が近くに来なくてぼっちだから、まあいいけど。


「エミーリア様は元気かな……」


 モーリスを捕まえたと聞いたエミーリアは、興奮しすぎて体調を崩したらしい。ひとり別荘でお休みだ。

 エミーリアは寂しいだろうけど、わたしも寂しい。一緒に喜びたかった。


 その晩、とっても忙しそうなロアさまとエドガルドと話すチャンスは、結局なかった。



私事で申し訳ないのですが更新が遅れます。

ぎっくり腰になりました。

年配の方がなるものと思ってましたが、そうでもないんですね…。

皆様も腰にはお気をつけください。

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