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モーリスの思い1

  指示が飛び交う中、凛とした声が響いた。ロアさまの声だ。


「陛下はアルヴァ・ダイソンを捕まえた!」


 慌ただしく行き交う騎士さま達の邪魔になるので、道の端に移動したわたしにも、よく聞こえた。

 わあっと歓声が上がり、すぐに静かになる。


「モーリスから離れることで発動する魔道具はない! モーリスの研究室の魔道具もすべて停止させた! 我らの勝利だ!」


 さっきよりもっと大きな歓声で、地面が揺れる。

 研究室の魔道具を止めたってことは、向こうに行った人たちも無事ってことだよね? ちょっと心配だけど、今聞くことはできない。

 モーリス・メグレは捕まえたんだし、今は素直に喜ぼう!


 必死にぱちぱちと拍手していると、いつの間にか後ろに来ていたシーロに話しかけられた。


「ワンコ様! 研究室に行った人たちは無事なんですか!?」

「ええ、みんな無事です。ご安心ください。ノルチェフ嬢、モーリス・メグレが話したいことがあるそうです」

「ええー……。騙していたとか言われるんですか?」

「それはなさそうです。ノルチェフ嬢じゃないと駄目だと言い張るので、ちょっと相手をして、自白するように促してください」

「また気持ち悪いことを言うようなら、口をふさいでくれますか?」

「善処します」


 それ、絶対にしないじゃん。


 シーロに連れられて、モーリスのところへ行く。モーリスは、どうしても今ここでわたしと話したいらしい。

 人に囲まれた真ん中で、モーリスは手足と目と口を縛られて座らされていた。せめてもの情けで、上半身にはシャツを、下半身には大きなタオルがかけられている。


 わたしが来たことに気付き、ロアさまが申し訳なさそうな顔をした。


「すまない、アリス。先ほど頑張ってくれたというのに」

「いえ、わたしで力になれるのなら」


 これは本心だ。

 ずっとロアさまやみんなのために頑張ってきたのだから、最後まで気合いを入れていこう。わたしじゃないと駄目なら、なおさら。


「ありがとう、アリス。感謝する」


 ロアさまの合図で、モーリスの猿ぐつわが外される。

 目隠しをされているのに、わたしのいる位置がわかるように、モーリスの顔はまっすぐわたしに向けられていた。


「……そういえば、きみの名前も聞いていなかったね」

「そうでしたね」


 偽名も考えていたけど、結局モーリスに名前を尋ねられることはなかった。


「きみは、アルヴァ・ダイソンが回りくどいことをする理由を知っているかい?」

「回りくどい……ですか?」


 マリーアンジュ様が亡くなって前陛下が離宮に引きこもってから、ダイソンは離宮に行きたいと訴えた。

 それが却下され、離宮への行き方さえも教えてもらえなかったから、ロアさまを王にして離宮へ行こうとした。

 ロアさまが王になる前に、コレーシュ陛下から離宮のことを聞き出せるように、即効性のない毒を使っている。


「離宮に行くだけなら簡単だ。コレーシュにすぐ効く毒でも飲ませるだけだ。あるいは魔道具で脅してもいい。どちらでも、すぐに離宮への行き方を聞ける。コレーシュも離宮へ連れ込み、遺品をマジックバッグに入れマリーアンジュ様を連れて、コレーシュも一緒に離宮から出る。そのあとは変身の魔道具でも使って逃げればいい」

「それはそうかもしれないですけど……すぐ捕まりますよ?」

「アルヴァ・ダイソンが周到に用意したのなら、逃げ切れるさ」


 やけに自信のある声だった。


「じゃあ、なぜダイソンはそうしなかったんですか?」

「……現実から逃げたかったんだろうね」


 モーリスは嘲笑した。目が隠されているから、その笑いが心からのものなのかわからない。


「マリーアンジュ様に会ってどうする? 話しかけても、女神のような声は聞こえない。微笑んでくれることもない。何をしても喜んでくれることは……もうない。それを突きつけられるだけだ」

「……それでも会いたかったのでは?」

「それはそうさ。腐った王の元にいるのは、マリーアンジュ様にとってあまりに不幸なことだ」


 マリーアンジュ様と元陛下って、お互いに好きだったんじゃなかったっけ?

 実際の夫婦仲がどうだったか知らないけど、モーリスはマリーアンジュ様の意志を無視しているように思える。

 ……マリーアンジュ様は亡くなっているから、もう意志は聞けないけど。


「マリーアンジュ様に会いたい。けれど、会ったらマリーアンジュ様がこの世にいないことを突きつけられる。今なら、まだ淡い希望にすがっていられる。マリーアンジュ様を独り占めするために、あの男が離宮にこもっていると」

「でも……国葬までしたのに」

「した。けれど、そこにマリーアンジュ様はおられなかった」

「えっ、国葬なのに肝心のマリーアンジュ様はいらっしゃらなかったんですか?」

「離宮へ連れ去られてしまったからね」


 ……まあ、それならマリーアンジュ様が実は死んでいなかったと思ってしまうのも無理はないかもしれない。


「だから、アルヴァ・ダイソンは回りくどいことをしているのさ。離宮に行くことを生きがいにしている間は、マリーアンジュ様の死を認めずに済む」

「……あなたはどうなんですか?」

「私はもう狂ったから。狂ったまま、こうして生きている」

「あなたも、回りくどいことをしたかったんですか?」

「まさか! そうだ、きみに感謝を伝えたくて呼んだんだ。アルヴァ・ダイソンのことを話したんだ、もう少し話していてもいいだろう?」


 ちらっとロアさまを見ると頷かれたので、モーリスに向きなおる。



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