コレーシュの独白5
ノルチェフ嬢はモーリス・メグレに話しかけられ、その後の対応を一手に引き受けてくれた。
もちろん、ライナスの側近の働きも大きい。誰が欠けても、この結果はなかった。
特に今回は、バルカ家がよく働いてくれた。自領だということもあるだろうが、それを抜きにしてもいい働きだ。
モーリスの研究所にあった音声を録音したものを聞いた時は、ついにダイソンの証拠を掴んだという高揚感があふれ出た。
つい、思いきりジャンプしちゃったよ! あとで側近に叱られたけど、それが気にならないくらい喜んだね!
モーリスとダイソンの会話は、労わっていると見せかけて感情のないダイソンの声から始まる。
「モーリスは、よく娘と話していてくれたな」
この頃のモーリスは、母の死で狂いかけているはずだ。現に、モーリスは会話にならない言葉を発している。
「……マリーアンジュに、会いたくないか?」
「会いたい! なにを? 彼女はいつでもそばにいる。ほら、歌声が」
「マリーアンジュに会いに行こう。それには、モーリスの発想と記憶力が必要だ。私の手足となる覚悟ができたなら、私を尋ねてくるがいい」
次は、音声だけでなく映像もついていた。
「彼女に! 彼女に会いたい! 生きていることすらおこがましい王め!! 彼女を独り占めするなんて死ね!」
随分とストレートな悪口を、ダイソンは軽く肩をすくめて流した。
「マリーアンジュの一番の友だった君に、作ってほしいものがある」
「なんだ?」
「体にいい薬だ。料理に使えるものがいい。それで体が健康になりすぎるのは、よくないと……私は思うね」
証拠にはならない言葉だが、聞いた者はすぐにわかる。
これは「体によすぎる毒を作れ」だ。いくら素晴らしい薬でも、摂取しすぎたら毒となる。
一度ここで映像が途切れる。
ダイソンは用心深い。モーリスと会う時は、録音も録画もできないよう対策をしていたはずだ。それを見越して魔道具を改造し、ダイソンとの会話を残したモーリスは、やはり優秀だった。
母に傾倒しており、この頭脳を持っているモーリスをほしがるダイソンの気持ちもわかる。
モーリスが優秀すぎて、こうして証拠を残されてるわけだけどな!
最後の映像は、おそらくバルカ領にある研究所で録画されたものだ。
「アルヴァ様の言う通り、毒を作り続けてきました。まだ必要ですか?」
「私は体にいいものを、と言ったはずだが?」
「そうでしたね、すみません。それで、まだ希望は叶わないのですか?」
「時間がかかる。すぐに会えなくなってしまったら、行く手段すら聞けないままに終わる」
訳:俺がすぐに死んでしまったら、離宮への行き方が聞けないだろ。
「……いつまで続くのでしょう。体の半分がなくなってしまったような喪失感に、狂いそうになります」
「……時が来るまで待て」
短い会話は、今までで一番重要なものだった。
モーリスが作っているものが毒だと確定すれば、それを指示したダイソンも捕まえられる!
俺や家族の食事に、モーリスが作った毒が混ぜられているのはすでに確認済みだ。
毒入りだと気づくまでに少しだけ食べてしまったが、体に影響がない程度だった。よかった。
モーリスの研究所にある毒の調査をして結果が出れば、いつでもダイソンを捕まえられる。
あと少しなのに、研究所内のモーリスの管理は細かくて、ほんの少しでも毒がなくなればすぐ気付くと報告が来た。
研究所の爆破を止め、防犯の魔道具を解除し、それから調査になる。
モーリスが捕まった時に、ダイソンに連絡がいくようになっている可能性が高い。それゆえ、ダイソンとモーリスを同時に捕まえる。
みなが自分の役割を必死にこなしてくれるはずだ。
そう信じる。俺も一生懸命する。
「でもなぁ……ライナスが結婚すると寂しいよお!!」
これがうまくいけば、ノルチェフ嬢との結婚を許してほしいとライナスにお願いされた。
妻がぽつりと呟いた「死亡フラグ……」というのはなんとも不吉な響きだったので、聞かないことにした。