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コレーシュの独白2

「……実は、兄上にご相談があるんです」


 どこか思いつめた様子のライナスに言われたのは、久々に兄弟水入らずの時間をすごしている時だった。

 もうすっかり大きくなって、体を鍛えているライナスを見上げる。

 ライナスももう20歳になる。細くて折れそうな指はゴツゴツになってしまったが、可愛いものは可愛い。


「そんな堅苦しい言い方しなくってもいいって!」


 ライナスからの滅多にない頼みなら、なんでも叶えてやりたいし!

 わざと明るく言ったのに、ちらっと俺の側近を見たライナスは、俺にしかわからない程度に苦笑するだけだった。


 ライナスは、俺の側近に疎まれていると思っている。側近たちは、俺がライナスに執着するんじゃないかと心配しているだけなのに。

 いい加減、俺が父のようになるかもっていう疑惑を捨ててほしい。妻だって大切にしてるし、子供なんてすっごく可愛がってるし!

 俺が子供のころみたいな思いは絶対にさせない! っていう意志があるからね!


「それで、何が心配なんだ?」

「ダイソンのことです」


 ダイソンに不審な動きはないはずだ。よくない噂があるから、きちんと見張らせている。


「……私を、王にしようとしています」


 部屋にビリリッと緊張が走った。


「なぜそう思った?」

「ダイソンがつけた侍従がそそのかしてくるのです。誰かに聞かれても咎められない言葉で、絶妙に。兄上はダイソンから何か聞いていませんか?」


 そう言われたが、あまりダイソンと会うことはない。


「ダイソンから何回か、離宮に行きたいと言われたな。娘を弔いたいと」

「母上のものは、父上がすべて離宮に持っていってしまいましたからね……」


 保存魔法のかかった大きな魔道具の中に、母は横たわっている。生前と同じ姿だけど、決して目を開けることはない。

 離宮への行き方は俺だけが知っているけど、行っても入れない。父が内側から鍵をかけてしまったからだ。


 離宮には、横たわるだけで入浴を終わらせてくれる魔道具も、スイッチを入れるだけで掃除してくれる魔道具も設置した。

 巨大な保存の魔道具に、食事を盛り付けた皿ごと入れて持ち込んでいるので、外に出ず離宮だけで生活できるのだ。

 食事は三食たっぷり食べても50年は持つ計算だから、おそらく父は死ぬまで離宮から出てこない。


「兄上がいなければと、ダイソンの息がかかった侍従に何度も言われました。兄上がいないメリットを並べ、私をその気にさせようとしている。私の周囲はダイソンの手の者ばかりになりました。私の側近さえも遠ざけようとしていて、監視されていない時間はほんのわずかです」

「それほど……!」

「ダイソンの奥深くに、隠しきれない執念のようなものを感じる時があります。このままでは、私はダイソンの傀儡にされてしまう」


 気付けなかった自分に腹が立つ!

 「普通の家族」に固執して、国のことばかり考えて、肝心のライナスの危機に気付かないなんて!!


「わかった。ライナスは急病になったため療養すると発表する。ライナスは私のいる宮で生活すればいい。あそこなら大丈夫だ」

「申し訳ありません、兄上……。私は、兄上を弑するなど一度も考えたことがないのに……」

「それはわかっている! 俺もライナスを殺すなんて考えたこともない! ライナスがいてくれたから、俺は王になれたのだ」


 俺より大きくなった体を、思いきり抱きしめる。

 赤子の時のように柔らかくはないが、それはそれで嬉しい。きちんと成長した証だからな。


「第四騎士団の話は覚えているか?」

「はい。私が所属するために作ってくださると」

「そうだ。まだ根回しをしている最中だが、さっさと作ってしまおう。ライナスのための騎士団だということは側近しか知らない。変身の魔道具を使って入団すれば、ダイソンもすぐには見つけられない。俺の魔道具を持っていけ」

「駄目です! それは兄上に万が一のことがあった場合に使うものではないですか!」

「今が、その万が一の時だ。ライナスに何かあったなら、俺は王の座など投げ捨ててやる」

「冗談はやめてください」

「本気なんだがなぁ」


 俺が本気で言っていることに気付いている側近がぎょっとした顔をしているが、気付かないふりをする。


「ライナスが変身の魔道具を持って行かないなら、俺は王を今すぐやめる!!」

「ええー……」


 珍しくライナスが困惑しきった顔をしている間にゴリ押しする。


「これは王命だからな! とにかく、すぐに第四騎士団を作るから待っていてくれ。騎士団ができたら、変身の魔道具をつけて隠れる! 以上! ライナスが第四騎士団に所属することは、ここにいる者以外に言っていないから、すぐに見つからないだろ」


 身長以外はすべてを変えられる変身の魔道具をつけていれば、見られてもすぐにライナスと結びつかない。

 まだ渋っているライナスを説き伏せ、変身の魔道具を持っていくことと、俺の宮に住むことを了承させた。久しぶりに思う存分ライナスと話して、俺のやる気はすごいことになった。

 妻や子までライナスと一緒にいたがるものだから、ライナスはずいぶんと困惑していたみたいだけど、これでいい。

 ダイソンに、ライナスが邪魔者だとかいらないことを吹き込まれていたら困るからな。自分が大事な存在だと知っていてもらわなきゃ。



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