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藍色のサンドグラス  作者: 新島 深智
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プロローグ2

朝。目覚める。眠い。寝る。

これが二度寝というものだ。今の季節は春。春眠暁を覚えずという偉大な言葉もある。その言葉を大義名分に、俺は今日も今日とてその抗いがたい人間の本能に身を委ねていた。

「6時……さんじゅさんぷん……ねる……」

「いや……起きないと遅刻だよお兄ちゃん」

やばい……妹の攻撃きた……効果はばつぐんだ……

「……まだ……舞える」

経験上、あと7分は大丈夫なはず……

「舞えないから。あ、それよりもなんか面白いニュースやってたよ?」

「……なに?」

会話をしていたらちょっと目が覚めてきた。

「なんかね、お兄ちゃんの好きな歌い手さんについてのニュー……」

「起きるわ」

俺はバッと布団を翻し、人間の本能に抗った。

その勢いのまま階段を降りてテレビを見てみると、妹が言っていたニュースはやっていなかった。同じく階段から降りてきた妹を見ると、それはもうにんまりと(ちょろいなコイツ)みたいな顔をしてやがった。

「おい」

振りかえって妹を睨みつける。完全に安眠を妨害された八つ当たりである。

「起きないのが悪いと思うよ、実際やってたし、お兄ちゃんが起きる前にね」

ぐうの音も出ない。

実際にそのニュースがやってたかどうかは証明のしようもないし、俺は諦めて珈琲を入れた。

珈琲を飲んで一息つく。それから顔を洗って着替えて朝食の席に着いた。

味噌汁を飲む。ズズっ……おいしい……

「あれ……このニュースなんだろう?」

テレビでニュースを見ていた妹が呟いた。

「どうした?ココ」

美味しい珈琲と味噌汁のおかげで俺の機嫌はすっかりリセットされていた。

「えっと……なんか、砂時計?が東京の高校に現れたみたい。サイズ大きめの。」

「大きい砂時計?なんだそれ」

「さぁ? 見てごらん?」

そう言われてテレビに目を向ける。


『──現在この砂時計は誰がどのような目的で設置したかが不明となっています。この砂時計が危険なものかどうか現在調査を進めております。決して興味本位で触れたり、何か物を投げたりなどして刺激を与えないようにしてください。もし他に同じようなものを見つけたとしても、危険ですので不用意に触れたりしないようにしてください。繰り返します。──』


なんというか変なニュースという印象しかない。

「変なニュースだな」

「ほんとにねー……でもなんで全国ニュースでこんなことを流すんだろ」

「そうだなぁ……危険なのかなー」

「まだその辺がわかってないのかもね〜……それより今日こそ友達作ってきなよ?ぼっちのお兄ちゃんっ」

「作れるから。その俺のコミュ力無い設定はどこから出てくるんだよ」

「いやぁ~そうじゃなくてお兄ちゃんをぼっち呼ばわりできるのも今のうちかなぁーって思って」

「……性格曲がってるな」

なんというかホント……いい性格してるよ……我が妹よ。


「じゃあ、いってきまーす」

「「行ってらっしゃーいっ」」

妹と母にそう告げて、俺は家を出て駅に向かう。家の目の前の田んぼを見て、今日もここは田舎だと実感する。だが、そこから見える山の景色はいつ見てもそこそこに綺麗だ。決して都会では出会えない景色だと思う。だから俺はこの場所がそんなに嫌いじゃない。

「よし、今日も頑張るか」

俺はそう呟いてまた歩き続けた。


 ここは最寄りの無人駅。もちろん電子マネーは対応してないし、改札もなく、なんなら切符売り場すらない、そんな無人駅だ。じゃあどうやって運賃を払うかと言うと、学生は定期券か回数券を前もって購入する。それを降車時に見せるor渡すことで運賃を払うことができる。

そんなに電車乗らねぇよ!って人は駅員さんに声をかけてもらった時にお金を払って切符を買うか、降りた駅で駅員さんに直接乗った分の運賃を払うという方法となる。このような生活を当たり前としている我々田舎の民は、都会に出るだけでカルチャーショックを受けることになる。これも都会では出会うことが出来ない田舎の魅力、もとい面倒くささである。

都会の場合、電子マネーでピッとやるだけ。

そりゃ楽なんだろーな。やったことないけど。でもお金のない田舎の電車に文句を言ったところで、なんの意味もないことは明らかである。田舎の民は不便な生活を甘んじて受け入れる、「うけながしのかまえ」を習得しているのだ!……確か某RPGゲームでは、なかなか高レベルで習得していた技な気がする。つまり田舎の民は高レベルプレイヤーなのだ。そんな事を考えているうちに、電車は俺を乗せて走り出した。


 数十分で目的の駅に到着した。朝の電車では、都会でも田舎でも通勤ラッシュが存在する。俺は人の波を避けるべく、真っ先に電車を降りて階段を駆け上がった。そのまま駅員さんに定期券を提示し、人に飲まれることなく駅を出た。

そのまま歩いて学校へ向かい、錆びついた下駄箱で靴を履き替え、教室へ向かう。二回目の登校なのだが、まだどうも浮き足立っている感覚がある。やはり、高校生活にわくわくしている自分もいるらしい。


ガラガラッ

扉を開けてクラスに入る。特にまだ挨拶もするような仲の友人もいないため、そのまま席に着く。ちょうど真ん中の席だ。可もなく不可もなくって感じか。

荷物を置いて、辺りを見渡す。どうやら昨日のうちに打ち解けた人はほとんど居ないようで誰もが周囲を伺いつつある。数人話している人もいるが、やはり少数派だ。

このまま読書タイムに入ってもいいが、昨日のクラスメイトとの交流するはずだった時間を取り戻すため、そして何より帰宅後に妹に馬鹿にされないためにも友達を作ろうと決意する。

隣を見ると、一人の女子生徒と目が合った。

「「…………」」

互いの一瞬の沈黙の後、俺は慌てて自己紹介をする。

「……えっと、初めまして。俺は橘奏汰(たちばなかなた)。これからよろしく。あーっと、あなたは?」

時間の割に情報量が名前だけという悲しい自己紹介であったが、まぁ初対面の相手への自己紹介なんてこんなものだろう。開き直っておかないと自己嫌悪に耐えられない。

「……私は柊柚木(ひいらぎゆずき)山城(やましろ)中学校出身。……こちらこそよろしく」

隣の女子、柊柚木は淡々と自己紹介をしてくれた。自己紹介ってこんなに淡泊だっけとも思ったが、自分も名前しか伝えていないことに気づき、またまた慌てて付け加える。

「あ、俺は風角(ふうかく)中学校出身」

「……やっぱり他中の人……改めてよろしく」

そう言ったっきり、柊さんは読んでいた本に目を落としてしまった。

なんか会話が途切れるの早くないですかね。ここは勇気を出してもう一度話しかけてみるか……。

「……柊さんは同じ中学の人、上長原(かみながはら)高校に何人いる?」

柊さんはこちらをちらっと見た後わざわざ本を閉じて、考えている様子。え、そんなに同級生多いの? 山城中ってそんなに大きい中学じゃないような……。

しばらくすると柊さんが答えてくれた。

「3人……いや4人……私を入れると5人。おそらく」

そのくらいだよなぁ。ちなみに俺んところの風角中は俺を入れて4人だ。……というか、

「おそらく?」

「あまり覚えてなくて、、ごめんなさい」

市内の人数の多い中学とかは同級生が多くてあまり覚えられないのか? まぁ俺は市内の中学じゃないからからなんとも言えんな。

「……あ、柊さん、その本はどんな本な」

俺は会話を途切れさせまいと、矢継ぎ早に次の質問を投げかけようとした。

「なんだあれ!」

そこに大きな声が割り込んできた。俺も柊さんも声のする方へと目を向ける。そこには、外を指さして、驚きの表情で固まっている、まだ名前も知らないクラスメイトがいた。ほかのクラスメイトも一人、また一人と不思議そうに窓際に集まっていく。

「「……」」

俺と柊さんも顔を見合わせ、同じように窓際へと移動する。



目に入ったのはだだっ広い校庭に異様に佇む、今朝のニュースで見た砂時計(サンドグラス)だった。

月一回は投稿していく予定です。

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