プロローグ1
―電車内でのひと時をどのように感じるだろうか?
退屈、暇、と感じて、スマートフォンに目を落とす人もいれば、窓の外の過ぎ去る景色に目を向ける人もいるだろう。
自分はどちらかと言えば後者に当たる。
正確には、電車特有の一定間隔の走行音と振動を楽しみながら、外の景色を眺める。
これがなかなかどうして飽きないものなのだ。
外を見ると、いつも通りの田園風景があった。
ただの田園風景であっても、風景を眺めるのはそれはそれで趣があっていい。
電車の心地よい振動が聞こえる。
電車の走行音や振動を心地よく感じる理由は、胎児だった時に聞く音や感じる振動に酷似しているかららしい。
そんなものを再現している乗り物なんて、なんとも不思議なものだ。
全くの偶然だろうけど。
そんなことを考えながら、まだまだ続く田園風景を眺める。
さて、
スマホに目を落とすか、外に目を向けるか…
この2択の選択肢が、どちらも1人で電車に乗ることを前提にしているのは、「まだ」一緒に登下校するような友人がいないからである。
決してコミュニケーションに障害を持っている訳では無い、断じて。
これは、よくある小説とかの振りではなく、今日が高校生活の初日で、自分の家が隣町の田舎にあるからに過ぎない。
一応、同じ中学校からの同級生はいるにはいるのだが、仲のいい友人は自転車で1時間もかけて登校している。
俺にはそんな気力も体力もない自信がある。
そんな事毎日していたら学校に行って帰ったら寝るだけの生活になってしまうことが目に見える。
そう考えると、やはり電車通学にしてよかったと安堵する。
その他の友人は、話しかけられない限りは、必要最低限の会話しかしないので必然的に独りになってしまうのだ。
まぁ1ヶ月後には違ってるかもしれない。
期待しておこう。
それにしても、これからの高校生活で、俺という人間はどのように変化するのだろうか。
駅が近づいてきて、田園風景は住宅地の風景へと変わってしまった。
電車の音と振動を目をつぶって感じながら、3年後の未来の自分の姿を想像する。この電車のように揺れて揺れて、たまに大きく揺れて、目的地に辿り着くのだろうか?
そんな思想にふけっていると、自分の街に着いたので電車を降りる。
降り立った田舎の無人駅から、俺は皆になんて話しかけようか考えながら、自分の家へと帰って行った。
「奏汰おかえりー」
「ただいまー」
母親に軽く挨拶し、荷物を自分の部屋に置きに行く。
入学初日は荷物が多くて困る、重くて肩こるし。
「プリント多いなぁ…ん?」
少し手の甲に違和感を感じた。
蚊にでも食われたのだろうか?
「お兄ちゃん、おかえり〜」
「あー、ただいまぁー」
妹の心音にも無難に返事を返す。
「あ、そーえば来月お前の読んでるラノベ新刊発売らしいぞ」
「え?まじ?!ナイス情報提供〜助かった〜」
俺の妹、橘 心音は中学2年で、中学校でもトップクラスとは言わないまでも万人受けする顔立ちの持ち主だ。
それにもかかわらず、兄の影響でライトノベルの世界の底なし沼にハマってしまったらしい。
なので家では結構痛い発言を聞くことがあるのだが、学校では大丈夫なのだろうか?
「おい、ココ。あんまり学校で家みたいなことするなよ?兄として恥ずかしいから。」
「するはずないからね?!お兄ちゃんあたしをなんだとおもってるの!?」
「痛々しい発言をする妹」
「ふっふっふっ、お兄ちゃん程じゃないさっ」
俺はそれなんだよなぁとつぶやくが、妹は聞き捨てならないことを言っていた。
「おい、捏造するな…俺がいつ痛々しいことを言った」
俺はそんなやつではない。断じて。
妹よお前とは違うのだ。という目線を送る。
すると妹は、溜息をつきながら
「自分の言ったことを覚えてないなんて…こりゃ重症かなぁ…」
「信じたくないものなんだよ、自分の若さゆえの過ちは」
「あーそれね…お兄ちゃん、てゆか言ってること認めてるし」
妹がジト目を向けてくる、何故だ…
「まー細けーことは気にすんな、人生は楽しんだもん勝ちらしいぞ。よーするに、学校で痛い発言をしない程度に楽しみなって話」
「まぁクラス替えあったけど、約3分の1は去年と同じクラスメイトだからね。そこそこ楽しめそうだよ。そっちは?」
妹の学年は3クラスだからそんなもんか。
「んー、よく分かんなかった。」
「え?どゆこと?」
「えっと…自己紹介がなかった…」
「え?なんで?入学式だよね?」
「そーだよ。入学式やって、教科書配ったら放課後だったんだけど、電車の時間がやばくてすぐに帰ってきたんだよ。」
「あーその電車逃すと次までめっちゃ長いからね〜。でも、ちょっとくらい話す機会はあったんじゃない?」
「いや、全力で駅まで行ってギリギリだったぞ。学校から駅まで歩いて20分かかるところを15分で行ったから。めっちゃ疲れたからな。」
あれはほんとにきつかった。間に合うかどうかギリギリだったから精神的にもきつかった。
田舎の電車のスパンは恐ろしい程長い、1本逃すと次は4時間後になってしまう。だから俺は学校が終わってすぐに駅へ向かい、ギリギリのタイミングで電車に滑り込むことができたというわけだ。
「なるほどね〜、お兄ちゃんはラノベでよくあるぼっち主人公と。よかったね!」
「よくないんだよなぁ、言っておくが俺はコミュニケーション能力はあるぞ。今日は偶然話す機会がなかっただけだ。あと主人公っていうのは何かしらの特出すべき何かを持っている。一見なんの取り柄のなさそうに見える人でも飛び抜けている何かを持っている。それがなくても、神か女神かに何かを与えられて異世界でチート無双ってのは十八番だろ?」
「ま、確かにそうだね。そー考えるとお兄ちゃんは主人公じゃなかったよ。ごめんね。現実って残酷だけど…強く生きてね…。」
「思いっきり否定してきたな…現実が残酷なのには同じく同意だが。まぁそーゆー事だ。明日には友達作ってみせるさ。」
とは言ったものの、できるだろうか?
中学校入学以来、積極的に友達を作ろうとした覚えがない。
まぁ沢山いてもなぁって思って、仲のいい奴とずっといたからなんだろうけど。
だが、俺はさっきも言った通り、ぼっち主人公でもなければコミュ障でもない。
普通に友達を作ろうとすればそれなりに作れるはずだという結論に至り、少し安堵する。
流石に中学校からの友人1人のみと言うのは心もとない。
その後、軽く勉強し、夕食を食べ、風呂に入った。
そうして、明日にできるであろうまだ知らぬ友人が、どのような人物なのか想像を膨らませながら、俺は眠りについた。
今日は偶然友達と話すタイミングがなかった。
明日は普通に友達を作ろうとすればそれなりに作れる。
だから次の日は普通にやってきて普通の生活を送るんだろうと疑わなかった。
しかし、この世界は胎児の時に聞く音や振動が、電車の音や振動と酷似する偶然が起こるような世界である。
たかが偶然、されど偶然。
どちらの偶然も同じく偶然である。
その偶然がたまたま偶然、奏汰の高校生活の2日目に起こった。
砂時計が、現れた。
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