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君鳥文庫 短編集

暗闇

作者: 君鳥いろ

【暗闇】


僕は彼女に捨てられた。僕は彼女が大好きだった。彼女の一番じゃないと嫌だったし、別れたくなかった。僕のその重い気持ちが、浅はかな恋愛を繰り返し楽しんでいた彼女にとっての害悪となったのだろう。

『……××区のマンションのゴミ置き場で発見された、切断された下半身についてですが、DNA鑑定の結果、松岡武人さん(32歳)の遺体であると判明しました。しかしまだ他の部位は発見されておらず、警察は引き続き捜索中です……』

ニュースキャスターの声が、物騒な事件を告げた。

「こえーなー…」

まるで他人事であるかのように僕はそのニュースを聞いていたが、実際はその逆だった。

『なお、今回の事件の容疑者として花田美智子さん(28歳)が今朝逮捕されました。花田容疑者は警察の調べに対し…』

「えっ」

花田美智子。僕はこの女性の名前をよく知っている。

「あいつ、まじかよ…」

彼女だ。テレビで今、凶悪殺人犯として取り上げられている彼女こそが、僕が愛してやまなかった元恋人だった。

彼女は正直言って浮気者だった。僕と付き合っている間も、彼女が他の男とデートしていたのを僕は気づいていた。あるいは、僕が浮気相手だったのかもしれない。冷静になった今ならよく分かる。彼女は最悪の女だった。

「この前美智子と別れて良かった。事件の時にまだ付き合っていたら、疑われちまうもんな」

しかし、彼女との最後の口論の際は、僕は必死で彼女に縋った。お願いだから別れないでほしい、僕は君がいなきゃダメなんだ、頼むから…なんて、いかにも彼女を引き止めるのに無意味そうな言葉を並べて。だから彼女は余計に僕のことを疎ましく思ったのだと思う。それがいけなかった。それから僕はしばらく、暗い暗い闇の中に放り込まれた。自分では抜け出すことのできない暗黒の中で、誰かがこんな僕を見つけて、救ってくれるのを待っている。彼女にはもう会えなくても構わないから、光を見たかった。

「そういや、まだ美智子に合鍵返してもらってなかったな…」

彼女の浮気相手は何人いたんだろう。きっとこの男も、美智子と遊んでいた男なんだろう。最悪だ。そう思うと闇が一層濃くなった気がした。

「てか、なんか昨日の晩からずっと臭うよな…台所のゴミ箱か?」

今まで一人でぶつくさ言っていたこの男の声がだんだん近づいてきた。彼の足音が僕の目の前で止まった次の瞬間、僕は光を見た。知らない男の部屋の電気が眩しかった。

「えっ、おい、え、なんだよ、おいおいおいおい…」

男は動揺して尻餅をついた。不恰好だ、彼女はこんな男とも遊んでいたのか。


僕は彼女に捨てられた。

下半身は公園に、上半身はどうやらこの男の部屋のゴミ箱に。

僕の名前は松岡武人だ。

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