お料理しましょ
また隣がうるさい。
昼間も何かあったのか、警察のサイレンが、うるさかったのに。
うちのアパートは、壁が薄い。
隣の生活音が、まる聞こえである。
しかも、隣は変な女が住んでいる。
挨拶はしないくせに、朝でかけるときは、かならずドアの隙間から、こちらを見てやがる。
俺が男だから、警戒しているのだろうか。
興味のない女に警戒されると、かなりイラつく。
「さぁ お料理しましょ」
ったく、あの女、黙って料理くらいしろよ。
「あら、随分いきがいいわねぇ」
なんだよ。魚かな。
最近魚、食べてねぇな。
さんまとか食いたいな。
「しっかりと血をぬかないとねぇ」
あぁ、死んだ魚だと、血抜きしてもあんまり意味がないんだよな。
臭み取りに、ショウガやネギや、日本酒なんかで臭みを消さないと。
「やっぱり、新鮮なお肉はおいしそうねぇ」
なんだ、肉かよ。
肉で血抜きだと、ジビエかな。
塩水につけておくと、血の臭みがきえるんだよなぁ。
イノシシで牡丹鍋、最高にうまいよな。
腹が減ってきたが、もう時間も遅い。
時計を見ると22時。
もう食べないほうがいいよな。
これ以上太ると、また、ズボンを買い直さないといけないし。
ったく、聞きたくなくても聞こえてくるしなぁ。
勘弁してほしいよ。
ドンドンドンっ
何かを叩きつけるような音がする。
こんな時間に、肉を叩くんじゃないよ。
確かに叩いたほうが、筋がほぐれて食べやすいけどさ。
これは抗議しても、当然のことだろう。
思いっきり壁を蹴とばすと、音はようやく止まった。
「もも肉はぷりぷりして、美味しいのよね」
鶏肉か。
上手に調理すれば、胸肉だって結構いける。
唐揚げなら、しっかりと漬け汁につけこめば、胸肉のほうが、うまかったりする。
ザンギ揚げと竜田揚げの違いは、何なんだろうな。
しかし、うるさいな。
もう一発、壁を蹴る。
「耳もコリコリして、美味しいのよね」
あれか、ミミガーとかいう沖縄料理か。
確か豚の耳だったような気がするな。
てか、一般家庭で豚の頭とか調理するか。
あんなもん、どこで売ってるっていうんだ。
頭のおかしな女だな。
俺は腹が立ったので、もう一発壁を蹴った。
「手は、お肉がしっかりしているわ」
手か・・・。
なんだろうな。
蹄じゃないのか。
耳があって、もも肉があって、手がある。
俺は、自分の手を見つめながら考えた。