第7話 楽しんだもん勝ちだぞ
『いいんじゃないか。面白そうだし』
アマギゴエさんからそんな返信があったのは、夕食後にベッドに横たわってスマホでマンガを読んでいた時だった。
あらかたの事情を説明して、これから俺がとるべき行動を相談していた。
いつもはもっと返信が早いのに、今日は少し反応が遅かった。
でも、まぁ、社会人なら残業やらなんやらで夕方以降に忙しいことだってあるよな。
しかし、問題なのは返信の内容だ。俺はもう一度、画面に映ったままのアマギゴエさんの返信を眺める。
いいんじゃないかって、軽く言ってくれるよな。
『ほんとですか? 周りの人にばれたら、ふしだらだとか責められたりしませんかね?』
今度はすぐにスマホが鳴った。
『大丈夫だろ』
いや、ほんと軽いな。
とはいえ、相談には乗ってくれるようなので、俺は続けて文字を打ち込む。
『まぁ、俺はなんと言われてもいいんですけど、彼女たちのことを考えるとどうなのかなって思うんですけど』
『その辺は彼女たちも覚悟してるんだろ』
『そうかもしれないですけど、ばれたらまずくないですかね?』
『普通だったら、面倒なことになるかもな』
『というと?』
『彼女たちは学校での権力者なんだろ? なら、きっとうまいこといくさ』
……ん?
彼女が三人できたってことは伝えたけど、それがどんな子たちかっていうことは教えてなかった気がするんだが……。
俺が戸惑っていると、すぐに次のメッセージが届いた。
『いや、権力者ってのは、女の子は誰でもそうだってことだからな』
……んん?
やっぱり意味がよく分からない。
けど、まぁ、女子が男子よりも権力を持っているというのは俺も普段から感じないでもない。
電車には女性専用車両があるし、父の日の存在感のなさに比べると母の日は祝われてる気がするし。
きっと、そんなことなんだろう。
別に彼女たちが生徒会長とか専門委員長とか風紀委員長だから権力者だということを言ってるわけではないんだろうな。
『そうですね。彼女たちの方が俺よりしっかりしてるんだから、俺が心配しても仕方ないですよね』
『そうだ。とにかく君はどっしりしていればいい。妙におどおど振る舞うと、そこから周りの人たちにばれることもあるかもしれないしね』
『分かりました。ありがとうございます』
会話を打ち切るつもりで俺は礼を告げたのだが、スマホはもう一度鳴った。
『いいってことよ。とにかくそんな状況は楽しんだもん勝ちだぞ』
語尾には、ハートマークが付いていた。
普段はそんなかわいらしい絵文字を使う人じゃないのに、珍しいな。
まぁ、俺が恋愛相談なんてするのは、初めてだからアマギゴエさんもテンションが上がったんだろう。
俺は再び『ありがとうございました』と送ると、スマホをスリープモードにした。
カチャリと音が響き、画面が暗転する。
――『楽しんだもの勝ち』か。
確かにそうなのかもしれない。
花香さんも、朝霧も、つぐみも、だれ一人をとっても最高の彼女だ。
その三人ともが俺の彼女になってくれるっていうのに、楽しまないのは損だ。
これから先、俺たちの関係がどうなるかなんて分からないけど、今はとにかくこの状況を楽しもう。
そう心に決めて、俺は眠りについた。