プロローグ カノジョができました
高校二年の春、俺には三人の彼女ができた。
どうせ付き合い始めて一日もしないうちに別れて、すぐに違う彼女ができたとかそういうことだろうって?
ある意味、そっちの方がすごい気もするけど違う。そうじゃない。
三人同時に、彼女ができたんだよ。
もちろん、彼女ってのは「あの子」って意味の代名詞として言ってるわけでもない。
ちゃんと恋人っていう意味での彼女。
いい加減なことを言うな?
つまらない妄想はその辺にしとけ?
そのギャルゲーのタイトル教えて?
それが違うんだよな。
幸か不幸か、これは年齢イコール彼女いない歴の男子高校生による妄想でもなければ嘘でもなんでもない。
正直、俺自身でも信じられない気がしないでもないけれど、れっきとした事実だ。
それでも信じられない?
じゃあ、そうだな……三人の彼女たちのことを紹介したら少しは信じてもらえるかな。
まずは三年生の宇都宮花香さん。
長身で一見するとスレンダーな体型だけど、胸元は豊かで目を離せない。
琥珀色の瞳に見つめられながら、「碧人くん」と呼ばれると、ついつい視線が下がってしまうのをこらえるのが大変。
それに、肩下まで伸びるゆるっとした縦ロールの明るめの茶髪は艶やかだし、長いまつ毛を瞬かさせる様子は隣でずっと見ていたくなる。
もちろん、俺が花香さんと付き合うことにしたのは、そんな見た目だけが理由じゃない。
内面も尊敬できる人なんだ。
花香さんは、二年連続で生徒会長に選ばれている。
面倒見が良くて、男女問わず生徒たちからの人望が厚い。生徒会長としての決断力や判断力も優れているって評判なんだ。
つまり、最高の容姿に、非の打ちどころのない性格の持ち主。
だから、男子からの人気が高いのも当然で、花香さんと付き合いたいって願っていたのは、俺だけじゃない。
そんな花香さんが俺の彼女になってくれたのは、ほんとに幸運としか言いようがない。
次は、俺と同じ二年の朝霧月奈。
本人は気にしているから彼女の前では絶対に口にできないけど、身長は低めで小学生と大して変わらない。ただし――胸は花香さんに負けずとも劣らずといった感じで実に素晴らしい。
そんな朝霧は、俺も庶務として所属する専門委員会の委員長――略して専門委員長を務めている。専門委員長ってのは図書委員とか美化委員とか財務委員とかのまとめ役で、いつも元気よく校内を駆け回っている。
ちょこまか動くたびに、赤茶けた髪をアップ目で束ねたポニーテールが揺れる様がとてもかわいい。
性格について言うと、責任感が強くてリーダーシップがすごいんだよな。専門委員長っていうのは、管轄する委員たちからなめられると、大変らしいんだけど、朝霧はなめられるどころか絶大なる信頼を寄せられている。
「伊達」なんて俺のことを苗字で呼ぶのはちょっと男っぽいけれど、かわいらしい見た目とのギャップが、またいい。
なにより朝霧が隣にいてくれると、いろんな場面で心強く感じる。
学校での仕事だけじゃなくて、プライベートでもきっとそうだ。
そんな朝霧と交際できるのは、俺にとってまさに夢みたいなことなんだ。
三人目は、浮羽つぐみ。
中学時代からの知り合いで、俺のあとを追うようにこの春、私立令明高校に入学してきたばかり。
俺のことを「アオくん」と呼んでくれるかわいい後輩だ。
黒髪ボブカットに差した二本の青いヘアピンが、あどけなさの残る笑顔にアクセントを加えている。
身長は平均的で、胸は……まぁ、先に紹介した二人と比べると、年相応ということにしておこう。本人の名誉のためにも。いや、まぁそれも彼女の慎ましさの表れだと思うと、いいものなんだ。
そんなつぐみに関して特筆すべきことは、彼女が入学早々、風紀委員長に任命されたことだろう。
前の風紀委員長が四月初めに突然退任して、一年のつぐみが就任するって聞いた時はびっくりしたけど、もともと誠実で曲がったことは許せないって性格だから適任だと思う。
上級生ばかりのほかの風紀委員からも一目置かれていると聞いている。
でも、仕事から離れると、甘え上手な一面もあって一緒にいると癒される。
そんなつぐみと付き合えるのは、俺にとって最高の幸運だ。
彼女たちの紹介はこんなところでいいかな?
ほんとに三人が三人とも、理想の彼女なんだ。
ええっ?
まだ信じられないって?
そんなうまい話があるはずないって?
頭がおかしいんじゃないかって?
そう言われても、三人が俺の彼女だっていうのは本当のことなんだから仕方ないだろ。
――ただ、ちょっと面倒なことになったってことは、自分でもちゃんと自覚している。
世の中のほとんどの男子高校生のように、俺も彼女がほしいとずっと思っていた。
なんせそれまで彼女どころか、友達すら少ない生活を送っていたからね。
だから、花香さんか、朝霧か、つぐみのうちの誰か一人でも彼女になってくれたら最高の高校生活になるって想像していた。
けど、それは本当にただの想像というか妄想だったし、その妄想の中でも彼女は誰か一人で良かったんだよ。
三人と同時に付き合うことになるなんていうのは、これっぽっちも考えていなかったし、俺が望んだことじゃない。
――じゃあ、なんでこんなことになったのか。
全ては一週間前の出来事が始まりだった。