十五回目
叫んだ。
咽から血が出る程叫んだ。
両親が来た。どちらも殴り飛ばして在人は外へ駈け出した。
七海を捜した。
七海しかこのつらさも痛みもおぞましさも恐怖もゆるめてはくれない。
七海は居ない。
七海の家に行ったが七海は居なかった。彼女は両親が留守がちなのだ。ほとんどひとりで暮らしているといつかいっていた。付き合った時に鍵の場所を教わっている。誰も居ない。
学校へ行ったが居なかった。寝間着の裸足でうろうろする在人を、事務員が見付け、在人の親へ連絡したようだった。
再び七海の家へ向かうと、登校中の七海に会った。七海は涙ぐんでいた。泣いたあとがあった。
在人は七海を抱き寄せてキスした。七海はいやがらなかった。
ふたりはそのまま駅へ向かった。
電車で終点まで行った。
小雨が降っていて、砂浜があった。在人と七海は砂を踏んで歩き、漁師小屋のようなところへはいりこんだ。在人は七海を求めた。七海ははじめてではないことをはずかしがった。在人はそんなことはどうでもいいといった。君が生きていてくれるだけで充分なんだと。
七海が持っていた金で、民宿に泊まった。
翌朝はやくに警察が来たから、ふたりで窓から逃げた。
砂浜を歩き、七海が食べたがるからかき氷を食べた。
夜はふたりで、神社にもぐり込んだ。
七海と一緒でしあわせだった。
七海だけ居ればいい。
彼女がしあわせならそれでいい。
次の日の朝、朝市で浜焼きを食べていると、両親が来て捕まった。在人は抵抗したけれど、七海が抱き付いてきて、泣いたから、冷静になれた。七海は在人を庇った。自分が、どこか遠くへ連れて行ってほしいと頼んだのだと、庇ってくれた。
家に戻って、いつきを病院へつれていったほうがいいといった。両親はどう考えたのか、在人のいうとおりにしてくれた。いつきは病気が解って、入院した。
七海の親が帰ってきて、七海が妊娠しているのが解って、在人は土下座して七海との結婚を認めてもらった。七海は喜んだ。子どもをおろさなくていいと、泣いて喜んだ。
子どもが生まれて、いつきが退院して、七海は一緒に暮らすようになった。子どもはいつきにそっくりで、遺伝というのはおそろしいと父母が笑った。結婚できる年齢になってすぐに、ふたりは結婚した。結婚式に呼ばないのは不自然だったから、留島や一郎丸、幡野も呼んだ。留島はいつきの見舞によく来てくれていたし、一郎丸は七海と同じ囲碁部で、幡野は七海と親しい。
席が隣になったからか、幡野は留島に、好意を抱いたらしかった。
「お兄ちゃん、どうしよう」
電話の向こうでいつきが泣いている。「どうした? 病院で、なにか」
「違うの。どうしよう。幡野さんを殺しちゃった」
幡野を殺した。
在人はいつきに、どこに居るか訊いた。実家だ。両親は今、旅行に出ている。
在人は実家へ帰った。
そこには目を開けた幡野の死体があり、いつきが座りこんでいた。確認したが、幡野の体は冷たくなっていて、完全に死んでいると解る。
「ど」声が咽にひっかかる。「どうして」
「違うの。違うのよ。殺そうと思ったんじゃないの。本当なの」
妹は平板な調子でいう。
「でも、幡野さん、留島さんとなかよくなって、わたし、それが悔しくて、だって、わたしのほうが先に知り合ってたのに、どうしてって。思うでしょ」
「いつき」
「だから。あのね。幡野さんまだおにいちゃん達がここに住んでると思ってたの。だから来たの。わたしいい機会だと思って、話し合いたくて。でも幡野さんが、留島くんの気持ちがあるって。そんなの幡野さんに解らないでしょ!!」
いつきは泣き出した。
「でも殺すつもりなんてなかったの! わたしなにもいいかえせなかった! その通りだもの! 留島さんはわたしのこと、友達の妹としか思ってない! 幡野さんみたいな綺麗なひとにわたしがかなう訳ないでしょ!! そんなの解ってる! だから、わたし幡野さんのこと突き飛ばして、部屋にはいって泣いてたの……それで、さっき、咽が渇いて、部屋から出たら……そこで幡野さん……動かなくて……」
また俺の所為だな。
在人は叫んで逃げた。どこかへ逃げたかった。走り続けた。
車道に出た。
目が覚めた。




