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ホームビデオで顔出ししていた美少女、MMO実況で無事バズる  作者: 妹次郎


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8/11

コミュニケーションエラー

 「日記 5」はゲームの紹介のために作った動画なので、動画のタグに「MHO」と入れた。おかげでこれまでの動画よりは再生回数が多かったが、それでも67回であり、高評価も低評価も相変わらず0だった。

 「MHO」タグで巡回してみると、流石、流行っているゲームだけあって、埋もれている動画が沢山あった。「日記 5」というタイトルの動画では埋もれて仕方ないかもしれない。

 

 人に見られることをあまり気にしていないミツは、再生数がこれまでと比べて多いような気もしたし、話題のゲームにしては少ないような気もした。結局どっちでもよかった。これまで通り自分のペースで作りたくなったら作るのみだ。


 それから相変わらず土を弄る日が数日続いたが、ついに、ミツは草原を出て街に向かう決意をした。それは一つの謎に出会ったからだった。

 

(こんな植物……見たことない)


 濃い緑色の、一枚の大ぶりな葉が目立つ植物で、葉脈は並行。大きな特徴に、先端になるにつれ、ハッキリとした青色になっている。


 採取して名前を見ると「ミュウリン草」と書いてあり、説明欄には「平原地帯でどこでも見られる植物、栄養を含んだ青い葉を持つ。使用時に体力を僅かに回復する」とある。

 見たことも、聞いたこともない植物に疑問が浮かんだ。

 

(これって空想の植物……?でも現実の植物をスキャンしているんじゃ……?)


 もしかしてと、他のミュウリン草を探したが、全て異なった見え方をしていた。たんぽぽ同様、成長段階を含め、何パターンも用意されているようだ。もし一つ一つモデリングしているとしたらとんでもない労力である。


 この謎について、他の人に出会って話を聞いてみたいと思ったのだ。

 

(ついでに……生放送もしてみよう)


 どうせ動画を撮り続けるならば、垂れ流して生放送にしてしまった方が手間が省ける。動画編集、というクリエイティブを楽しんでいるミツにとっては若干の敗北感を抱かないでもなかったが、街に行って人に会うなら、とお守り程度の意味もある。VRMMOには結構対人関係の問題があり、動画が証拠になると聞いたことがある。

 

 『ミツちゃんねる』という飾り気のない名前のYOTUBEアカウントに、赤色のマークがつき、今、初めての生放送が始動した。

 ミツの姿が、世界中にリアルタイムで映し出されたのだ。

 

 

(うわぁ…すごい……)


 門をくぐり、周囲を見渡してミツは感嘆した。とにかくファンタジー世界といったらこれだ、というイメージの町だった。世界史に詳しくないミツにとって、これがいつの時代のどこなのかは分からないが、屋根の形状などポップなところがあって、可愛い街だと一瞬で気に入った。

 「ようこそ、春風の都、イワシロ町シンメ区へ」と門番が話しかけてきた。日本名の町なのが多少気になるところだったが、MHOは日本のゲームなのでそういうものなのかもしれない。

 

 沢山の人が行き来している通りを、流れに乗って歩き始めたその時だった。

 

「ねぇ、君、初心者でしょ?」

 

 見ると、中年の男性がこっちに笑顔を向けている。小太りの身体に、皮の胸当てやダガーを挿していて、冒険者風の出で立ちである。

 ミツが驚いていると男は続けた。

 

「さっき門番に頭下げてたでしょ。あれNPCだから。頭の上に橙色の円がついてるのはNPCなんだよ。それにフレンド申請が完全にオープンになってるし。君みたいな可愛い女の子は手動型に切り替えた方がいいよ。通知うざいから」


 初めての会話。矢継ぎ早に言われてもオンラインゲームに慣れていないミツには混乱があり、咀嚼に時間がかかった。

 

 彼女はゲーム開始時に、UI表示を全てオフにしていたことを思い出した。体力バーや地図などが、景色を見るときに邪魔だったからだ。

 慌ててメニューを開くと確かにフレンド申請が数件届いている。

 

「ほら、来てるでしょ。ブロックブロック。あ、そのカワモトっていうのオレね。それは通しといて。オレ初心者冒険者を助けるのが趣味の奇特なヤツ。てか君全然喋んないね」


 言われるがまま、カワモトをフレンドに承認するボタンを押したとき、指先にチクっと痛みが走った気がした。

 ミツは口をパクパクと動かす。「教えてくれてありがとうございます」と声を出したつもりだったのだが、出ない。

 

 このゲームで声を出すには、VR機に接続する専用のマイクを使って、オプション画面から声紋認証という手続きをとる必要がある。15分ほどかかる作業で、ミツはマイクを持っていなかったので、スキップしていた。

 

 代わりにキーボードを呼び出し文字を打つ。メニュー画面、テキストチャット、と頭の中で動かせばキーボードが呼び出せる。

 

『教えてくれてありがとうございます』


 頭を下げるミツを見て、男は目を細め舌打ちした。


「……ちっ、ネカマかよ……」


 貴重な、可愛い女の子、それもゲームに慣れてなさそうな子が来たと思い、他の連中より先にと話しかけたのだが勘が外れた。

 

 今時テキストチャット、おまけにエルフという耳が尖る以外にいいところのないビジュアルのためだけの雑魚種族。100%アバターを買った男が成りすましているネカマだ。

 

 このカワモトという男、非常に人間が小さい。現実での上手くいかなさをゲームで発散するタイプで、薄くなってきた毛量に比例して、ゲーム内で先輩風を吹かすのがこのところのストレス発散法である。

 

 もっと言うならば、大学を出たが、勉強していた内容とは全く関係のない地方の工場に就職し、意欲もなく、歳だけ重ね、後輩が出来ても、その後輩にもあっさり仕事の質を超えられ、苛立ちから挨拶されても無視している。

 そのような男なので、ゲームにおいても、あまりいい先輩プレイヤーとは言えなかった。

 カワモトは憮然としてミツに声をかけた。

 

「じゃあなに、どんな職業でプレイしたいの」

『えっと……』

「計画ないの?まあなんにせよ金は稼ぐ必要あるよ。クエストがギルドで受けられるからさ。なに?教えて欲しい?」

『はい、お願いします』

「あっそ。でもオレも暇じゃないからさ。金曜日の夜9時にここに来たら教えてあげるわ。遅れたら知らないから。フレンドもブロックする」

『分かりました』


 男は手を上げて去っていった。その背中に「ネカマに騙されてて草ぁ!」とからかいの声がかけられ、「うるせぇ!」と言い返していた。

 この辺りは、ビギナープレイヤーを導いてやろうと先輩冒険者が善意だったり下心だったりで待ち構えている有名スポットであり、ミツは気が付かなかったが、彼女が門をくぐった時から、彼女に声をかけてやろうと沢山の人間が機を伺っていた。

 

 ミツは今の男性が、自分と同じゲームをやっているとは思えなかった。

 「ミュウリン草」の描写方法について意見を聞く、という目的は交通事故に遭ったようにバラバラに引き裂かれて消えていった。

 すっかり気勢を削がれ、当初の目的も忘れてそのまま引き返してすごすご町を出ていった。

 

 初期スポーン地点に帰ってきて、ミツは再び草を弄っていた。一つ一つの植物を見分け、鞄に詰める。彼女のインベントリはたんぽぽ一つ取っても複数のスロットに分けて保存され、彼女にだけ分かる分類法で細かに整理されていた。

 

 ミツはじっと考えた。

 このゲームでの生活は、全てが輝いて見えた……。冒険や、魔法だけじゃない。人と交流することすら楽しみだったのに、結局、現実と同じ人間関係で苦労しなければならないのだろうか。仮にこのまま、ここで草を弄っているだけで自分はこのゲームに満足し続けられるだろうか。

 考え込んでいるうちに辺りが暗くなってきた。このゲームの24時間は現実より早い。

 ログアウトしようと思ったところで生配信をしていたことを思い出しYOTUBEの画面を開いた。コメントが来ていた。

 

 『初見です』

 『喋らないんですか?』

 『ずっと草弄ってるな』

 『インベントリ草ばっかで草ぁ!』

 『コメント見ない感じですか?』

 『また来ます』

 

 全て同じ人物からのコメントだ。気が付かなかった。


(悪い事しちゃった……)

 

 話しかけられたのに、無視したようなものだ。だが、悪いことをしたというより、彼女はまた気疲れした。チャンネル登録が1増えているので、また来るのかもしれないが、そうしたら、前回無視しちゃってごめんなさい、とお詫びしなければいけないのだ。

 

(必要なのかな……)


 カワモトと約束が出来たことが何より心労になった。元々彼女は約束が嫌いな方であった。金曜日、行かなければ、勝手に向こうがブロックしてくれる。そうするべきだろうか……。

 生まれて初めて出来た「フレンド 1」という文字が光っているのが、煩わしかった。

 

~~~~~~~~~~


 嫌なことに限って連続するものだ。

 まあ不満事ほど印象に残るので、その間にある日常を省略して連続した気になるというだけだが。

 

「あのさ、白崎さん、今度のカラオケ来ない?」

「えっ……?」

 

 教科書を片づけていたミツの机にバン!と手をついて女生徒が言った。ミツは少しびっくりして顔を上げた。

 

「えっと……城ケ峰さん……?」

「そうだよー、白崎さんもミツって言うんだよね?ミッちゃんでいい?」

「あ、はい」

 

 この城ケ峰という生徒は、以前から事あるごとにミツに掃除当番を代わるよう頼んできた人物である。茶色に染めた髪をクルクルと指先で弄びながら「単刀直入に言うんだけどさ」と前置きして女生徒は話し始めた。

 

「森山のやつがさ、知ってる?森山。同じクラスの。あいつがミッちゃんのことちょっといいなって思ってるらしくてさ。それでカラオケ呼んでくれって。私も普段、ミッちゃんに掃除代わってもらってるし、私ばっかカラオケ行くのも悪いなーと思ったからさー、その恩返し的な意味でさ。どう?」

「えっと……も、森山くん……?」

「うん、知ってるでしょ?」

「それはもちろん知ってますけど、話したことないんです」

「あ、そう。じゃあいい機会だね。仲良くなればいいじゃん。二人でカラオケ行ったら仲良くなれるよ」

「えっ……城ケ峰さん来ないんですか?」

「いや、まあ最初くらい部屋居てもいいけど、別の部屋でやってるよ。私今回紹介役だし。居たら邪魔なの分かるでしょ?で、どうすんの」


 ミツは「えっと、その……」と言い淀んだ。それは断るべきか悩んでのことではなく、パフォーマンスとしてであった。森山という男子生徒の気持ちなど、初めて知ったし、こんな風に気軽に聞かされるものなのか、と軽いカルチャーショックがあった。


 その動揺というか、そんなことを急に言われたらこんな風に動揺してしまうよ、という意思表示的な言い淀みである。

 答えは最初から決まっているのだった。

 「すいません、今回はやめときます」そうミツが返事すると城ケ峰は本心なのか演技なのか「えーーっ!」と大げさに驚いて、「森山、イヤ?」や「かっこよくない感じ?」など、答えづらいことを何度か聞いて粘ったが、ミツは案外、自我というものがしっかりしている。

 ミツが首を縦に振らないのが分かると城ケ峰は髪をかき上げた。


「ふーん、結構お堅いんだね。そういうタイプか」

「いや、その……」

「ミッちゃんさぁ、可愛いんだからこういう事増えてくるよ。慣れてた方がいいんじゃないの」

「すいません……」

「謝って欲しいわけじゃないけどね。まあいいよ、じゃあ悪いんだけど今日も掃除代わってくれる?」

「はい、それは分かりました」


 「森山になんて言おっか」と少し不機嫌そうなトーンで言うのが、その手間の面倒さに向けているのか、それともその面倒な結果をもたらした自分に向けて言っているのか、ぐるぐる考えてしまってミツは俯いた。城ケ峰はスマホを取り出して弄ると方向転換し、ミツの机から離れていった。

 

 これが友達が出来そうな機会、というやつだったのだろうか。これを断っているから自分には友達がいないのだろうか、変なのだろうか。

 そんな気持ちがフッと胸に去来して、思わずミツは城ケ峰を呼び止めていた。

 

「あの」

「なに?」

「その……森山くんは……本当に知らないので行かないんですけど」

「うん」

「でも、城ケ峰さんとなら、カラオケ行ってもいいと思ってます」

「へ?」


 その呆気にとられた顔を両目に捉える。ミツが彼女に抱く印象より、幼く見える表情だ。

 城ケ峰は少し笑った。

 

「いきなり二人カラオケに誘うとか、やるねミッちゃん」


 今日は予定ある、と手を振る城ケ峰が自分の席に戻ったのを確認して、ミツはこっそり息を吐いた。

 緊張した。やっぱり少し、怖かった。

 あまり陰キャだとか陽キャだとか、カースト上位とか下位とか、そういう言葉に興味がないミツだったが、この時はカーストの違いを感じた。

 

 カラスの声がする住宅街を、とぼとぼ帰宅しながらミツは考えた。

 

 自分は、森山くんから逃げて……城ケ峰さんからも逃げて……そして、カワモトさんからも逃げるのだろうか……。

 

 人間関係から自然と省かれているので独りなのだと思っていた。だが、自分は人間関係が怖いのかもしれない。苦手だから避け続けたのかもしれない。


(金曜日……どうしよう……)

 

 学校のカバンを下ろし、VRゴーグルをじっと見つめて、ミツは椅子に腰かけた。

 薄暗い部屋の中で、ゴーグルは冷たく光を反射しているように見える。


 ふと、脳裏に草原の景色がよぎった。土を踏みしめるあの感じが実感として、椅子に座る自分の方に向かってくる気がした。

 VR機は待機中のランプが黄色く点滅している。

 次第に、ミツの目に決意が滲み始めた。


(この感じじゃ……ダメだ。イヤだ!)


 立ち上がり、ゴーグルを装着し、ベッドに横になる。


 現実の人間関係は、難しいし、怖いし、時には逃げてもいいと思う。でも、「MHO」では、イヤだ!

 

 もしここで逃げたら、金曜日にログインしなかったら、これから先、MHOにログインするたび、カワモトさんとすれ違わないか、ビクビクして生活することになる。ゲームをプレイするたび、人混みが怖くなる。それは……イヤだ。折角見つけた居場所なんだ。

 MHOは、ずっと自分が「胸を張って生きていたい」と思った場所なんだ!


 ゲームの電源をオンにし、意識がゲーム内に吸い込まれていく。それは秘密基地として、現実からの隠れ蓑では決してなかった。


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