動画投稿を始めた理由
担任の、数学の先生が個人面談を急に設けてきた。30歳ほどの若い男の先生で授業が分かりやすくて良いとミツは思っている。
「大丈夫か、クラスに友達は出来たか」
不意に聞かれたので、掃除を押し付けられていることを誰かに告げ口されたのかと思った。しかしあんなのはなんてことはない。友達は実際いなかったが、ここでいないと言うと面倒に発展するかもしれない。「はい、クラスの皆さんよくしてくれます」と微笑んだ。
「よくしてくれます、か。白崎は大人だなぁ」
「?」
「そう大人だと、苦労すんだろう。高校生って案外子供っぽいからなぁ……」
先生も独り言のように呟いているのでミツもあまり聞かないようにした。やや目を伏せて微笑んでみる。母にはよく「あんたいつまで経っても赤ちゃんみたいな顔で可愛いわ~」など言われているので大人扱いは珍しい気がする。
結局、特にそれ以上話はなく解放された。
(友達、か)
ミツは小学校の時から友達がいなかった。
彼女は虐められているわけでもあからさまに冷たい扱いを受けているわけでもない。先生はよくしてくれるし、同級生も必要があれば笑顔で話しかけてくれる。
そしてミツも話しかけられればそれ相応に笑顔で返事することが出来たのだ。
だからこそ彼女は自分に友達が出来ない理由が分からなかった。
人によっては、掃除代行を「イジメ」だと感じる人もいるだろう。だが、ミツ本人は全く気にしていなかった。それ以上に、あの女生徒の時間は充実していて貴重なもので、それに対し自分は別に、その日やることが無かったのだ。人の役に立つ時間を用意してもらえて、むしろ得にすら思えた。
友達など誰でも作れる。基本的に明るい人間であれば明るい人間と、暗い人間であれば暗い人間とでグループが出来る。はぐれ者ですらはぐれ者同士で集まっているのをミツは知っていた。
しかし自分は15年間生きてきて誰ともグループが組めなかった。同類を発見したことがない。
そこで彼女は自分は「変わった人間」であると気付いたのだ。
彼女のクラスメイトに、どうして彼女には友達がいないのか、と聞いても恐らく皆首をかしげる。「一人でいるのが好きなんじゃないか」と言う人もいるだろう。
「なんとなくそうなっている」というのが共通の意見だ。
(なんとなく、でしかないはず。運だよ、友達って)
彼女は「初めて会話するクラスメイト」には「初めて会話するクラスメイト」として対応する。
すると学年の初めは教室中「初めて会話するクラスメイト」だらけで、そしてそんな相手にわざわざ話しかけなければならない状況など、普通に学校生活を送っている限りなかなか訪れなかった。
一年後、クラスが終わるときにはほとんどの人間が「2,3回話したことのあるクラスメイト」になっていて、それだけだった。
気付けば皆いつの間にか「友達」というものを作っていて、自分が入る余地などなくなっているのがミツには不思議だった。
もしミツに一人でも「友達」が出来ていれば、彼女はその人に毎日話しかけに行っただろう。彼女にはそれくらいの社交性がある。
ミツには「友達」に対して話す話題はたくさんあったが、「2,3回話したことのあるクラスメイト」に話しかける話題は一つももっていなかったのだ。
「友達」に何気ない日常のことについて話しかける環境さえあれば、『日記』と題した動画を上げることもなかったかもしれない。
家に帰ってからミツは「日記 1」の評価を確認した。
「日記 1」の再生回数は13回、高評価も低評価も0であった。
昨日の動画を見返していて、ミツは少し顔が赤くなった。
夕暮れの橋と、感傷めいたことを言う自分が別人のように見えたからだ。
それでも彼女は動画を消そうとは思わなかった。ただ、次の動画を早く上げてしまおうと思った。少し大人しめの自分を撮って、バランスを取ろうという作戦だ。
彼女は無意識のうちに行っていたが、それは最も健全なコミュニケーションの一つといえた。
そういう風に、失敗したと思う出来事を見返して、次訂正するために行動するということはとても前向きで進歩的な行為だ。
距離感や対応を間違えないようにと思うあまり他人に話しかけることの出来なかった彼女に、インターネットはとても良い方向に作用するのかもしれない。
「日記 2」は基本的に水場を映した動画になった。
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こんにちは。
お疲れ様です。
今日はやっぱり雨が降りましたね。
でもそんなに大降りにはなりませんでした。水たまりを飛び越えなきゃいけないこともなかったです。
実は雨は嫌いではありません。でも、明日雨だなぁと思うと嫌なんです。いざ当日になるとそこまで気になりません。
そういえば、体育が普通にありました。その時もちゃんと小雨が降っていたので肌寒かったです。
一人でぶるぶるとシバリングしていると、後ろにいた人がクスリと笑うのが聞こえました。もしかしたら私が歯をカチカチ鳴らしていたのがみっともなかったのかもしれません。もしくは全然関係なかったのかも。
笑ってもらえるのは嬉しいことです。
今映っているのは我が家のシンクです。きれいな銀色でしょう。日頃のお母さんの頑張りが伺えます。
では、また明日。頑張ります。




