動画投稿を始めた理由
ミツが動画を撮ろうと思った理由、それは自己表現のためだった。
自分を表現したいというのは高校生なら誰しもが抱く衝動だろう。動画を介して自分という人間を見てほしくなったのだ。
だが、ミツがそう考えていることは周囲の人間にとって少し意外なことかもしれない。
撮影の手助けを頼まれたとき母親はびっくりした。ミツが反抗期もなければ思春期もない、とても感情の乏しい子供だと感じていたからだ。そんな子が動画を投稿したいと言い出すなんて、少し不安で苦い気持ちになった。
純粋な子供がインターネットの悪影響を受けた。はっきり言ってしまえばそういう感覚を抱いたのだ。
しかしミツが自己を表現しようと思ったのはもう少し弱くて打算的な動機だった。
「自分のことを面白がってくれる人間がいたらいいな」
彼女は普段あまり喋らないが、色々なことを考えていた。
その中で自分のことをいわゆる「変わった人間」であると認識していた。そしてそういう人間はもの珍しさから価値があるのではないかと思ったのだ。
ミツはインターネットに毒されない程度にはしっかりとした自我を持っており、同級生に比べても自分の行為を客観的に見ることが出来る方だった。
ミツには友達がいない。だから自己表現の場が学校からインターネットの世界に移るのは自然なことだった。
彼女は虐められているわけでもあからさまにぞんざいな扱いを受けているわけでもなかった。先生はよくしてくれるし、同級生も必要があれば笑顔で話しかけてくれる。
そしてミツも話しかけられればそれ相応に笑顔で返事することが出来たのだ。
だから彼女は自分に友達が出来ない理由が分からなかった。
友達など誰でも作れる。基本的に明るい人間であれば明るい人間と、暗い人間であれば暗い人間とでグループが出来る。はぐれ者ですらはぐれ者同士で集まっているのをミツは知っていた。
しかし自分は15年間生きてきて誰ともグループが組めなかった。同類を発見したことがない。
そこで彼女は自分は「変わった人間」であると気付いたのだ。
彼女のクラスメイトに、どうして彼女には友達がいないのか、と聞いても恐らく皆首をかしげる。「一人でいるのが好きなんじゃないか」と言う人もいるだろう。
「なんとなくそうなっている」というのが共通の意見だ。
その、ミツが「なんとなくそうなっている」理由、その「なんとなくさ」が彼女が変人たる所以だった。
彼女は「初めて会話するクラスメイト」には「初めて会話するクラスメイト」として対応する。
すると学年の初めは教室中「初めて会話するクラスメイト」だらけで、そしてそんな相手にわざわざ話しかけなければならない状況など、普通に学校生活を送っている限りなかなか訪れなかった。
一年後、クラスが終わるときにはほとんどの人間が「2,3回話したことのあるクラスメイト」になっていて、それだけだった。
気付けば皆いつの間にか「友達」というものを作っていて、自分が入る余地などなくなっているのがミツには不思議だった。
もしミツに一人でも「友達」が出来ていれば、彼女はその人に毎日話しかけに行っただろう。彼女にはそれくらいの社交性がある。
ミツには「友達」に対して話す話題はたくさんあったが、「2,3回話したことのあるクラスメイト」に話しかける話題は一つももっていなかったのだ。
「友達」に何気ない日常のことについて話しかける環境さえあれば、『日記』と題した動画を上げることもなかっただろう。
彼女は「友達」に話すように、なんの話題にもならない動画を積み重ねていって、そうして教室には作ることのできなかった「何の話をしてもいい環境」というものを作ろうとしているのかもしれない。
もっとも彼女としてはそんな風にインターネットを「友達」の代わりにしようとは考えていなかった。
ただ、自分という「変わった人間」を面白いと思う価値観が存在していてくれたらいいなと思うのだ。
昨日上げた動画『日記 1』は再生回数13回で高評価も低評価も0だった。
昨日の動画を見返していて、ミツは少し顔が赤くなった。
夕暮れの橋の上で、短い黒髪を振りまいて笑う自分が少し無邪気すぎるように見えたからだ。
それでも彼女は動画を消そうとは思わなかった。ただ、次の動画を早く上げてしまおうと思った。少し大人しめの自分を撮って、バランスを取ろうという作戦だ。
彼女は無意識のうちに行っていたが、それは最も健全なコミュニケーションの一つといえた。
そういう風に、失敗したと思う出来事を見返して、次訂正するために行動するということはとても前向きで進歩的な行為だ。
距離感や対応を間違えないようにと思うあまり他人に話しかけることの出来なかった彼女に、インターネットはとても良い方向に作用するのかもしれない。
『日記 2』は基本的に水場を映した動画になった。
~~~~~~~~~~
こんにちは。
お疲れ様です。
今日はやっぱり雨が降りましたね。
でもそんなに大降りにはなりませんでした。水たまりを飛び越えなきゃいけないこともなかったです。
実は雨は嫌いではありません。でも、明日雨だなぁと思うと嫌なんです。いざ当日になるとそこまで気になりません。
そういえば、体育が普通にありました。その時もちゃんと小雨が降っていたので肌寒かったです。
一人でぶるぶるとシバリングしていると、後ろにいた人がクスリと笑うのが聞こえました。もしかしたら私が歯をカチカチ鳴らしていたのがみっともなかったのかもしれません。もしくは全然関係なかったのかも。
笑ってもらえるのは嬉しいことです。
今映っているのは我が家のシンクです。きれいな銀色でしょう。日頃のお母さんの頑張りが伺えます。
では、また明日。頑張ります。