初めての3人パーティ
ミツちゃんねる『今日は街で人と会う約束をしているのでコメントは見れないと思います。ご了承ください』
ミツちゃんねる『また、相手の方から配信の許可が降りなかった場合、予告なく配信を中止いたします』
配信を開始してすぐにコメントにそう打ち込んだ。まだ視聴は0だ。最後まで0かもしれないが律儀に書いておいた。
よし、行こう。ミツは若干緊張をにじませながらそう呟いた。
「魔法使いになりたいんですけどどうすればいいですか」
「魔術師ギルドはどこにありますか」
「これだけは知っておいた方がいいっていうオススメの場所とか設定とかありますか」
質問をいくつかあらかじめ用意して、自分でも本当にそれが聞きたいのか分からないが……初心者らしく今日一日振舞って、感謝を告げて円満に別れよう。
ミツはいつものスポーン場所から、初心者の町イワシロに向かった。
~~~~~~~~~~
金曜日、夜の九時。
門から少し入った、石像や噴水のある通りの中心付近で、約束通りカワモトが立っているのが見えた。それを見て、ホッとするような残念なような複雑な気持ちを抱えつつ、ミツは配信用カメラを地面に向けながら近づいていった。
『カワモトさん。こんばんは』
「あ……あ~お前マジで来たのかよ。まあいいけどさ」
『すみません。今日はよろしくお願いします』
カワモトは声をかけてきたミツを見て呆れたように舌打ちをした。皮のベルトが中年太りの腹を持ち上げている。その男の目元には明らかに面倒そうにしわが寄っていた。
教える、と言って近づいてきたのはカワモトの方なのに、相手は最初から不機嫌を隠そうともしていない。ミツは既にくじけそうな気がしたが、ここで逃げては、もうMHOを起動するのが嫌になってしまう。そう思って堪えた。
ミツは、自分にこのような態度をする人間に出会ったことがない。それでも、今日は自分のために来てくれたのだ。なぜか態度は冷たいが、初心者に手ほどきしよう、という親切なプレイヤーには違いないのだ。
彼女は対面する人間全てに敬意と好意を持つよう習慣づいている。それで彼女はまだ果敢にも話しかけた。
『あの……配信をしているんですけど、いいですか?』
「配信?YOTUBE?MHL?」
『YOTUBEです』
「どれくらい見てんの」
『えっと……今は0人です』
それを聞くと鼻で笑って「どうでもいいよ」と言った。分厚い舌がまとわりつくような喋り方だ。
「俺は別にいいけど、お前これからもう一人来るから。その人がダメっつったら消せよ」
『分かりました』
「その人は女性で、しかもマジモンの美人だけどお前くれぐれも浮かれて調子乗ったことすんなよ。お前は初心者で、チルチルさんは『俺に』このゲームのいろはを教えてもらいに来てるんだから。お前は黙ってついてこいよ」
『はい』
「てかさぁ」と不機嫌そうにカワモトが言った。
「お前さぁ、今時テキストチャットとか無いから。お前が一々メニュー開いてチャット打ってるのラグがあってムカつくんだわ」
『すいません』
「声がキモイのは分かったからマイクつけて喋れよ。ボイチェンでもなんでも用意して喋れ。金かけてネカマするならそれくらい用意しろよ。だから視聴者いねぇんだよ」
『すみません。マイクないんです』
「はぁ……」
ネカマという文化に明るくなく、まさか自分が男だと勘違いされているなどと夢にも思わないミツは自分の不備を詫びた。
(そっか、カワモトさんは私のために待っていたんじゃなくて、他の人を待ってたんだ)
男の言い回し一つ一つに視界が狭くなるような苦しさを感じながら、自分が悪いのだと身を縮こまらせながら男の愚痴を耐えていた。
(今日一日頑張ったら、義理を果たしたことになるはずだから……)
その時、ややざわめいて人混みが割れた。誰かが近づいてくる。
人影を見極めるとカワモトが一転して笑顔になった。
「あっきたきた!チルチルさん、こっちです!」
「お、はいはい、カワモト?だっけ、今日はよろしくー」
「はい!よろしくお願いします!」
そこには、長身の女性が立っていた。睫毛の長い釣り目気味の目。現実がそうなのだろうプロポーションの良さと、恐らく現実通りではない、ゲーム内で変えたらしき赤のロングヘアー。初期装備が盗賊で、引き締まったへそなどを惜しげもなくさらしている。堂々たる態度だけで美人の風格があった。
「来てくれて感激です!今日はMHOの面白さをいっぱい伝えますよ~!」
「あんた、ここら辺にいる連中で一番自分が上手いって豪語したんだから今日は頼むわよ」
「任せてくださいよ。俺教えんの上手いんで」
「はいはい」
あの不機嫌さはどこへやら、カワモトはへこへこと、まるで取引先と会話するように揉み手までしてへりくだっている。よろしくお願いするのは初心者側だろうに、カワモトの方がよっぽど腰が低い。
分かる人には、それが当たり前の光景なのだ。教えたがりの上級者など山ほどいる。それも美人相手ならなおさらだ。カワモトはいつでも解雇され得るが、美人は引く手あまただ。
ミツとは違い、そのことをちゃんと理解している態度でチルチルはカワモトの様子を適当に受け入れている。
「で、隣の子は……」とチルチルの鋭い眼光が、光景を不思議そうに眺めていたミツの姿を捉えた。目が合ったので、杖を胸の前で握る動作に緊張をにじませながらペコ、と頭を下げた。
途端、チルチルの眼が輝いた。
「え~~!何この子可愛い~~!!」
カワモトを押しのけてグイっと身を寄せてくる。手をいきなり握られたのでミツは驚いた。
「耳尖ってるの超かわいい~~なんで尖ってるの?」
「えっと種族がエルフだからっすコイツ。あの、でも……」
「エルフだからか~うわ、いいな~~あたしもしたい!この子もカワモトの弟子なの?あんたやるじゃん!」
「そんな風に触っちゃダメっス。そいつあれなんで。ネカマなんであんま触れない方が良いっすよ」
「えっ」
『よろしくお願いします』
元気の良い人だと思ったのは最初だけで、ミツがチャットで挨拶をすると今度はうってかわってよそよそしくなる。「あっ……ふ~~ん、なるほどね……」と握っていた手を気まずそうに離しながら、それでも興味深そうに顔を覗き込んでくる。
「へぇ~~こんなに綺麗にモデリング出来るものなんだ。すごいなぁ」
『あの……』
「あぁ、ごめんごめん、じろじろ見て失礼だったよね。職業柄気になってさ。まあよろしく」
『はい、あの……配信してるんですけど、映して大丈夫ですか』
「配信?YOTUBEで?」
『はい』
「あ~~~、ちょっとまずいかな~~……あのあたし自分も配信者になる予定があるからさ~他人のに先に映りたくないっつーか」
「あぁ大丈夫っすよチルチルさん、こいつ視聴者0なんで」
「あ、そうなの?」
『あの、おイヤでしたら止めます』
「いや、やっぱいいや、大丈夫!考えてみれば有名になる前に他人の配信に姿映ってた、みたいなの面白いし。綺麗に撮ってよ」
『ありがとうございます』
ひらひらと手を振って離れていく。
ミツはカメラの角度を地面から正面に向けながら、興味の移り変わりの激しいチルチルというこの女性の雰囲気にどことなく怖い印象を抱いた。
「じゃあ早速ギルドに行きましょうか!」と先導するカワモトの後ろ姿を追いながら、折角の冒険の始まりが、あんまりワクワクしないと悲しかった。
~~~~~~~~~~
最初は、それでも「良い感じ」だったのだ。
二人が並んで歩く後ろを置いていかれないように着いて行く。前方で二人は楽しそうに話していて、ミツは修学旅行を思い出したりした。
町中を歩くのはミツにとっても凄く興味をそそられるもので、(どうやって表現してるの?どうやって?どうやって?)と、ニンジンを垂らされた馬のように走り回りたい気持ちだった。
不思議な匂い、この家々は誰の持ち物?貼り紙がはがされた跡、柱についた切り傷。
だから、決して退屈ではなかった。特にカワモトが得意そうに梯子について小ネタを語り始めた時はミツは内心目を輝かせていた。
「あの梯子を登ったら城壁の向こうに行けます。後で使いますよ。でもあれプレイヤーが用意したやつで使用に1Gかかるんですよね」
「へぇ、無料のはないの?」
「そうっすね、公式が用意したのは無いっす。プレイヤーが置いたものは使用に大抵金がかかって、最低金額が1Gなんすよね。いちいち門まで歩いていくのは面倒なんであれ使うのがいいっすね。ゲームが進んでくればファストトラベルとか出来るようにはなるっちゃなるんですけど、消費アイテムだったりするし初心者のうちはあの梯子使うのが一番です」
「へぇ~」
「梯子置いたやつマジで頭いいっすよ。真似して他の場所に置いたってあっこより不便だし、1Gだから値段で負けないし、皆使うから一生金に困らんまでありますよ」
得意そうなカワモトに対し、チルチルは退屈そうに相槌を打つ。興味のない話題のようだ。だが、ミツにとってはこんな話が心底面白い。
ゲーム内の歴史、というと大袈裟かもしれないが、それをプレイヤーが自発的に作っていって他のプレイヤーが楽しむ。梯子一つで尊敬される。こういう話がもっと聞きたい。
だが、少しづつ違和感がごまかせなくなってきた。
クエストを受けるとき、チルチルが「これ受けたい!」と言ったのを「それ報酬まずいんで無駄っす」と一笑に付したり、チルチルの持っている装備を「それ弱いっす」と一蹴したりする度に彼女の口数が目に見えて減っているのがミツには分かった。
「お前何もたもたしてんの?ここに丸するだけじゃん」
『すみません』
「マジでとろいな。仕事出来ねぇだろお前。足手まといになるなら帰れよ」
『すみません』
「どう思いますチルチルさん、こいつ。俺たち二人だけの方が良かったっすかね」
「そうかもね」
(……これでもうクエストを受注したの?)
カワモトの初心者講座はツアーのようなもので、受講者に何のクエストが受けたいかなど聞くことはなく、初心者のうちはこれかこれが良い、と効率の良さを説明する。
先輩冒険者が言う事なのだから正しいのだろうが、ミツにはマッピングをおざなりに、無数の宝箱を無視して歩いていくプレイに見えた。
そしてついに最後のゴブリンが倒された時、チルチルが不満そうに言った。
「あんたさぁ、全部自分でやんないでよ」
「えっ」
「ちょっとはあたしたちにもやらせてよ。あたし待ってたじゃん。バカみたいなファイティングポーズでナイフ抜いてさ。気付かなかったの?」
「いやでも……ゴブリンは危険なんで……」
「は?初心者にオススメのクエストなんだよね?何が危険なの?」
「いやその……ゲーム上手い人なら初心者でもいけるんですけど……チルチルさんがどんくらい上手いかって知らないんで……」
「そりゃそうよね、アンタ聞かないもん。じゃあ誰でもいけるようなやつじゃないじゃんこれ」
「いや、でも報酬美味いんで……」
「報酬美味いんでじゃないわよ!」
「そんな突然怒んないでくださいよ……まいったな……」と頭をかくカワモトを見て、チルチルが更に苛立っているのをミツは見て取った。確かに、ミツにも急に怒り始めたように見えた。それでミツは『落ち着いてください』とチルチルを止めようと身を乗り出したが、それを手で制して彼女は続けた。
「突然とか癇癪とか思ってんでしょ、それはあたしが笑顔で我慢してただけね。あんた一々いらいらすんのよ。この子に対する態度とかさ。偉そうに怒鳴ってさ。なんでちょっと早く始めただけのあんたがこの子に偉そうにすんの?そのくせあたしには敬語とか、あんな態度見た後じゃ機嫌とられても微塵も嬉しくないから。当たり前でしょ」
「いやいや……まあまあ」
「あんたのやり方をさ、勉強しようと思って黙って着いてってたけどさ、これじゃあたしいつゴブリン倒せるようになんのよ」
「いやまあそれは着いてきてもらって、俺がゴブリン倒したらレベル上がって、みたいなのがあるから……まだ説明してないだけ」
「じゃああたしら暫くおんぶにだっこされてろってわけ?」
「ま、戦闘はね……男に任せてくださいよ」
そう言ってカワモトは胸を張って笑ったが、反対にチルチルは表情が消えた。
「もういいわ……分かった」
「えっと……」
「あんたに悪気がないのは分かったから。教えてくれて感謝してる。じゃあね」
「あの~まだ終わってないんですけど~」
「…………続きは次の金曜!」
「今日はもう疲れたからログアウトするわ」と言い残しチルチルは消えていった。
洞窟の浅瀬に二人で取り残され、静寂が満ちる。はぁ、と大きくカワモトがため息を吐く。ぶつくさぶつくさといくつか愚痴のようなものを吐いた後、振り返って「マジで女って情緒不安定だよな。なぁ?」と共感を求めてきたが、ミツは返事が出来なかったので黙って見返すだけになった。ミツにとっては自分も女なので責められている対象である。
怒涛の展開に息が詰まる。こういう言い争い、小学校の頃は半年に一回くらいは見た。だが自分は教室の隅で無関係で見ていただけだし、先生が何とかしてくれたのだ。
チルチルが自分をかばうような発言もしてくれたが、それも怒りに任せて出ただけで、自分をダシに怒っているだけだと思った。
それでミツはチルチルもカワモトもどっちも怖かった。
ミツが黙っているので「ちっ」と舌打ちをしてから、ゴブリンの死体に近づいて、耳を剥ぎ取ると、さっさと帰り道を歩き始めた。ミツは黙って後ろを着いて行く。
(なんでケンカをしなくちゃいけなかったの?これだったら、これだったら……ソロの方が、楽しかった……)
例の梯子に来た時だった。
行きと帰り、上りと下りで計4G必要になる。3G目を入れた上りの梯子だった。
(この梯子の話をしてくれた時のカワモトさんは、かっこよかったなぁ)
梯子の途中でそう思った。ぼんやりと立てかけられた部分に目をやると削れている。
思わず城壁を触った。触れればざらざらとしているし、手に石の粉がつく。花粉を触ったことがあるから、こういった粉がちゃんと有限なのを知っている。では、手で城壁を擦り続けたら?手の形に城壁が凹んでしまうのだろうか。現実よりも3Dピクセルの方が数に限りがあるはずである。この梯子はとてもよく使われていて、であれば、立てかけてある部分は体重がかかり大きく削れていくはずだ。実際、削れているように見える。しかし、致命的なほど損壊はしていない……なぜだろう……ゲームが発売してからずっと使われ続けたら、もっと……。
「……おい、もたもたすんなよ、お前」
『すみません』
梯子の途中で固まったミツを下から見上げて、カワモトは苛立った。ミツのお尻がローブに輪郭を示しているのを見て、苛立ちをぶつけるように深く考えず手を伸ばした。
思考を中断してミツは思う。
自分も、黙っているだけなら同罪だから、雰囲気を作るのはその場にいる全員だから、だから自分が雰囲気を良くしなきゃ。
(だから、伝えなきゃ。梯子のお話面白かったです。ありがとうございました。って、梯子のお話……え……?)
尻に何か奇妙な感触が触った、と思った瞬間ミツは素早くその手を払った。
「はっ……」
驚愕したように見開かれた目と目が合う。カワモトもミツもどちらも驚いていた。尻を触ったカワモトの手が空中で固まった。
やっとこさ出たのは言い訳がましい「な、なんだよ、お前。ネカマのくせに……」という尻すぼみな言葉だった。
「プライベートゾーン、オフにしといて触られたら拒否するとか、意味わかんねぇよ。触れる設定にしてる方が悪いんだろうが……なんだよ……清楚ぶって、キモ……」
気まずい空気のまま、二人はギルドに向かう。クエスト達成の報告をカワモトがしている時、隣から同じような初心者グループの声が聞こえてきた。
「今日はありがとうございました!めっちゃ楽しかったです!」
「いえいえこちらこそ!また今度やりましょ!」
「分かんないことあったら聞きます!」
カワモトが黙ってログアウトした。
ミツはギルドを飛び出した。速足で歩きながら、頭の中はさっきの出来事がぐるぐると回っていた。
突然お尻を触られたこともそうだし、思ったより早く自分が反応できたこともそうだし。生理的嫌悪感がゾッと湧き上がってきた時の感覚が何度も思い起こされた。
町から一歩外に踏み出した瞬間、思い出し引き返して城壁に触れた。ざらりとした石の感触が指に染み込む。何度も何度も擦ってみる。
すぐにヒリヒリと痛み始める。痛覚設定がオンになっている。一定以上の過度な痛みは表現されないが、リアリティのため、任意でオンオフ出来る。当然ミツはオンにしている。
辺りは暗くなり始めていた。
薄闇の中、町に入るでもなく壁に指をこすりつけているミツのことを、狂人を見る目で人が通り過ぎていく。からかいの言葉をかけるものもいる。
リアルなのが楽しいってなんだ?
土を弄って、草を摘んで、石の壁を擦ってるだけ。そんなこと現実でやればいいじゃないか。
人間関係もゲームだからって何も変わりはしない。むしろゲームになったら色んな要素で余計難しくなるに決まってる。
じゃあ自分はこのゲームで何を楽しくやってたんだっけ。無限に広がる世界に、無限に楽しみが広がっているように見えたけれど、今ではこのゲームの底が見えたような気がした。
ミツはハッと、メニューを開き、設定を確かめる。確かにプライベートゾーンという項目がオフになっていた。没入感を損ねると適当に設定をオフにしていた自分の愚かさに気付く。設定をぼーっと眺めていると、少しずつ少しずつ気持ちが楽になってきた。
世界が悪いのではなく、自分が悪いのだと思うのは凄く楽なのだ。
プライベートゾーンを全身に設定する、ぼんやり、やっと人心地がついた。
配信サイトを開くと、コメントが来ていた。
酸cos『おいっすー、今日も来たよ』
酸cos『あのミッちゃんがついに他の人と交流を……。゜(゜´Д`゜)゜。』
酸cos『視聴者1いるよー。更新されてないだけだよー』
酸cos『なんかこいつウザいな』
酸cos『初心者ソロ爆美女!?絶滅したはずでは』
酸cos『胸デカ』
酸cos『すまん、チルチル行くわ(うそw)』
酸cos『こいつマジでなに?』
酸cos『ミッちゃんが可哀そうなんだが』
酸cos『ミッちゃんの可愛さは俺だけが知っている』
酸cos『チルチル、もっと言ってやれ』
酸cos『は?』
酸cos『普通に訴えていいぞこれ』
酸cos『うちのミッちゃんなめんな』
酸cos『ミッちゃん気にすんな!キミがドブボでも俺は好きやで!でもマイクは用意しよう!』
酸cos『ミッちゃん!?』
酸cos『おーい、どうしたー?怖いよー?』
酸cos『指痛そう』
酸cos『プライベートゾーン:全身(迫真)』
視聴者が「1」とついていた。
今、人と絡むのはしんどいような気がしたが、代わりに怒ってくれていたのを見るとそう無碍にも出来なかった。
ミツちゃんねる『すみません、今気づきました』
酸cos『おー、気づいたか。変なやつに当たって可哀そう。あんま気にするな!』
酸cos『さっき壁に向かって何やってたの?』
ミツちゃんねる『あれは城壁の設定をちょっと調べてたんです。擦ったら石の粉になるから、これ擦り続けたら壁が無くなるんじゃ、と思って』
酸cos『あーなんだ。なるほど』
酸cos『変態にお尻触られて気が狂ったのかと思ったww』
ミツちゃんねる『大丈夫です。気にしてないですよー』
酸cos『人と別れてすぐ調べたいこと調べに行くの調査キチすぎるwwww』
ニコニコした雰囲気で配信を閉じ、ログアウトしてトイレに行ってからベッドに倒れ込んだ。
お尻を触られたことは、もう気にしていない。
嘘だ。気にしている。気にしていない。怒りは少なくともない。
相手は設定で触れないと思っていたし、ゲームの中の出来事だった。現実では何ともない。
だから、許す。怒ってもいないことを許すってなんなんだろう?私が許す許さないって何か意味があるのだろうか?
だから、結局のところ、そんなことはどうでもいいのだ。自分にとって下らないことだと思ったら、たったそれだけで解決する。そんなことに頭を囚われるより、もっと楽しいことで頭を満たしたい。自分にとって楽しいことで頭を満たすと、素晴らしいことばかり思いつくんだ。
ミツは起き上がり、今日の録画を編集し始めた。
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お疲れ様です。
今日は町に行って壁を調べていました。
触っていくとガリガリ削れるような感じがあるんですよ。でもある程度繰り返しているとですね、なんとなく指先に当たる感触が変わらないなって感じになるんですね。
固い下敷きに指をあてている感じ。でも砂はザラザラ出続けるんです。
調査の結果、指で掘るには限界があることが分かりました。砂は擦るたび無制限に出てきます。エフェクトみたいに。これは花粉との違いでした。このゲームのゲームらしい顔ですね。
推測ですが、宝石を削るにはそれ以上に固い石が要るように、壁に設定されている硬度の数値以上のものを当てていると削れる、というような設定になっているんじゃないでしょうか。指で削れるのは指以下の硬さの物だけ。でもこうなると気になるのが、素手で壁を破壊する、みたいなことって出来ないってことですかね?
それとも力や速度といった数値が計算に参照されているのかな?
ここら辺はまた調べたいですね。
また明日も同じところに行ってみて、擦ろうと思います。最初っから、指で削った限界まで削れているのか、それとも補充されているのか……。もし削れていたら、一週間空けたらどうなるのか……。検証には時間がかかりますね。
それではまた。




