ライナスルート16
こんな都合のいい事が起こるはずが無いのだ。
愕然として1歩後ろに下がると、ライナス様が逃がさないと私の両腕の二の腕を捕まえた。
「姫様?」
不信げな声で私に問いかけるが、ガンガンと痛む胸を押さえて束縛を振り切りたくて身体を揺するが拘束は外れない。下を向いて先程の言葉を再び、口からこぼれ落ちる。
「…嘘よ。」
今度の呟きはライナス様に聞こえたのか、ライナス様は強く手に力を込めて話しかけてくる。
「姫様、嘘ではありません。」
「そんな嘘言わないでよ!」
つい声高に反論して顔を上げた瞬間、また涙がこぼれて頬を伝う。何故ここまできてこの様な嘘に振り回されないといけないのだ、やっとの思いで封印した心をかき乱されないといけないのだ。
「こんな子供だからって、適当な事言って私をかき乱さないで!」
「姫様!」
初めて聞く強い言葉にビクッとして、ライナス様と視線が交わる。
「私は姫様に、嘘など言っておりません。」
私を真っ直ぐ見つめるダークブラウンの真摯な瞳に、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。だって私はライナス様にとって、疫病神でしかないのに。力なく首を横に振りながら、今まで本人に言えなかった言葉をこぼしてしまう。
「だ…だって私のせいで辺境に、送られてしまったわ。」
「討伐部隊には志願して、自らの意思で辺境の地に行きました。」
「そのせいで折角上り詰めた、副隊長の地位を失ったわ。」
「騎士のままでは、姫様に求婚出来ないと判断して返上しました。」
「ライナスは母様の事を愛しているわ、私じゃない。」
「以前は特別だと思っていた時期もありましたが、ブライアン陛下との結婚を心から祝福出来ました。」
「でも…、でも!」
私が弱音を言う度に、ライナス様はゆっくり力強く言葉を返してくれる。その言葉はどこまでも真剣で、嘘をついている様には聞こえなかった。
しかし長年こじらせた私の感情が、その言葉を受け止めきれない。
「私はライナスに恨まれて当然の存在なのよ、私が貴方の人生を滅茶苦茶にしたのよ。私がライナスの全てを狂わせたのよ、なのにどうしてそんなに優しくするの?」
ライナス様の胸元に手を置き、必死に押さえ込んできた自らの過ちを口にしてしまった。これで本当に嫌われたと思い、下を向いてただただ涙を流しながら嗚咽を漏らす。
しばしの時間その状態のまま時が過ぎたが、二の腕を捕まえていたライナス様の両手が私の背に周り抱きしめられた。
「確かに俺の人生は、姫様と関わって大きく変わった。」
ライナス様の普段聞かない声やセリフにビクッっとすると、背に回った手が大丈夫だと伝える様に背を撫でる。
「俺は騎士のまま、何も変わらずただ老いていき、何も残さず消えていくのだと思っていた。
そんな時に、幼い姫様が俺の所に現れた。キラキラと輝く瞳でこんな俺を好きだと何度言われても、ただの憧れだと思っていた。」
見抜かれている。記憶を思い出したばかりの頃、推しに対する好きというミーハーな気持ちが強かった。
「それがバラ園の時は違った。幼い姫様を子供だと甘く見ていたら、泣きながら訴える姫様は子供ではなかった。」
あの時は母様と比べて幼い自分に苛立ち、ライナス様に1人の女として見て欲しくて泣きながら訴えたのだ。
「そして女性として見て欲しいと訴えながら泣く顔を見た瞬間、ガツンと頭を叩かれた様な衝撃を感じた。
実際ガツンとキスをされたけど。」
あれは本当に申し訳ないと心の底から思う、癇癪を起こして勢いでぶつかる様なキスを私が仕掛けたのだ。
当時を思い出して恥ずかしさで涙が止まったが、恥ずかしすぎて顔が上げられない。
頭上からクスっと笑う声が聞こえると、ライナス様は片手で私の首筋を撫でたとおもったら、顎をクイっと持ち上げて視線が交わる。
恥ずかしさで顔が火照るのがわかる、顎を固定されていて顔が動かない為、視線が忙しなく動いてしまう。
「あの衝撃的なキスで俺のファーストキスを奪ったのだから、責任を取って俺を受け入れてくれ。
それとも、こんなおじさんはもう好きじゃない?」
「ライナスはおじさんじゃない、今でも素敵で大好きです!」
条件反射で言い返してから、目の前で満足気に微笑むライナスを見て余計に恥ずかしくなる。
そっか、私だけじゃなくてライナス様もファーストキスだったんだ…。
「それならこの結婚受け入れてくれる?
姫が俺に火をつけたんだ、責任取って俺のものになって。」
本当にライナス様に私を受け入れて貰えるんだと思うと、嬉しくて止まっていた涙が再びこぼれてしまう。
「姫、はい以外の返事は聞かない。」
戸惑う私を気遣ってか、ライナス様がおどけた態度で答えを促してくる。優しい微笑みで笑うライナス様の顔に私の躊躇いが消え、ライナス様の胸に飛び込み抱きしめながら返事を返す。
「はい、私をライナスのものにしてください。」
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