ライナスルート14
約束の2週間まで残り数日という時に、城に大きな歓声が響いた。
何事かと思っていると普段はキチンとしているリナが、慌てふためいて部屋に飛び込んできた。
「姫様大変です!」
飛び込んだリナにビックリしていると、私の元まで来たリナが全身で呼吸するように息継ぎをしている。
「落ち着いて、何があったの?」
「辺境に旅立っていた一団が戻ってきたんです、もう数刻で本隊が城内に戻ってきます!」
聞いた瞬間ドアに向かって走り出しそうになるが、目線を動かしただけで身体が動かない。動かない私を不審に思って、リナが再度促す。
「ずっと無事を祈っていた一団が戻ったんですよ?出迎えに行かないのですか?」
私が飛んで行かないことを不審に思って、私の手を引き再度促すが、掴まれた手を引き抜き胸の前で手を握る。
「私は出迎えには行かないわ。」
「姫様?」
「教会に行きます、お願い1人で行かせて。」
言い残すように部屋を後にして、教会に向かって歩き出す。
一団が戻ってくる…、ライナス様が無事に戻ってくる。
泣きそうになりながら最後は小走りで教会の中に入り、ドアを閉めてそのまま崩れ落ちる。
ライナス様の無事に戻った姿を見たい…、幼い頃みたいにライナス様の腕の中に飛び込みたい…、幼い頃みたいにライナス様に気持ちを伝えたい。
王女としての役割を受け入れ割り切ったつもりだったのに、ライナス様に会えると思ったら感情が制御出来ない。ライナス様の前で泣いてはいけないと分かっていても、このまま会えば泣いて縋ってしまう、愛していると…。
本当に私は愚かだ、愛されるはずもないのに。
顔を覆いながら嗚咽を漏らす、この前結婚を決めた時に出し尽くしたと思った涙がまた溢れてくる。
この気持ちは誰にも打ち明けてはいけない、王命での結婚が決まった身だ。この思いはここで気持ちに蓋をして、鍵をかけないといけない。
涙を流しながらゆっくり立ち上がり、祭壇前に移動してしゃがみ祈り始める。
神様ライナス様をお守りくださり、本当にありがとうございます。
だけど神様は意地悪です、一団の戻る知らせがせめてもう数日後になっていれば、結婚を受け入れて心を割り切り心惑わされないのに…。
私を試しておいでなのでしょうか…、私は…。
辺境に旅立っていた一団の本隊が戻り、城だけではなく首都も歓喜の声が溢れた。
一団の代表者達が謁見に登城したのは、一団が戻った翌日の事だった。
壇上には国王と王妃、そして王子と王女も参列していた。
「此度の遠征大義であった、諸君の健闘はこの国に残っていた闇を払い平和へと導く大切な役割を担っていた。よって諸君には国より、貢献に対して報奨を用意する。」
父様の言葉を聞きつつ、段下にいる一団に目線を動かす。
1番前に昔より少し伸びた赤い髪を後ろに撫で付けたライナス様が佇む、あの事件の時の傷が額から眉にかけて痛々しく残っている。あれから10年たち、精悍な表情が月日を感じさせる。真っ直ぐ前を見つめるダークブラウンの瞳には、人柄を表すように澄んでいる。
「有り難き配慮、謹んでお受け致します。」
あの頃より少し低くなった様に感じる声に、気持ちを封じたはずなのに鼓動が高鳴る。
表情に動揺を出さないように、唇を噛み締め耐える。
報告や父様の言葉が終わり、そのまま祝いの宴に移る。ここに来られなかった団員は、既に別会場で祝いの宴をふるまわれているはずだ。
王家の一員として壇上の椅子に座り、挨拶に来る貴族や一団関係者の対応をする。
平民出のライナス様の順番は決して早くは無かったが、ライナス様の順番が来て段を登ってくる。
動揺を悟らせない為、笑顔を貼り付け手をキツく握りしめる。
「陛下にはご健勝のことと。」
「良い、この場の会話など段下には聞こえまい。硬っ苦しい言葉はもう聞き飽きた。」
母様が笑いを堪えられず、クスクスと笑い始めた。
母様の笑い声で皆の緊張が切れ、その場に笑いがこぼれた。
「ライナス、健康そうで何よりだ。此度の遠征ご苦労だったな。」
「いえ、色々な支援助かりました。無事に闇を払い終えホッとしています。」
「ライナス久しぶりね。貴方が無事に戻った事、本当に嬉しく思うわ。」
「王妃様もお久しぶりです。祝福を頂いた剣、本当に助かりました。」
両親を言葉を交わしこちらを向いたライナス様の顔には、幼い頃よく見た懐かしい微笑みが浮かべられていた。
「姫様もお変わりなくお過ごしでしたか、成長され美しく育たれましたね。」
「ライナスも変わりないでしょうか?」
震えそうになるのを堪えて答えると、ライナス様は「はい」と頷き弟に声をかけている。
こんなに近くに居るのに遠い存在になってしまった、もう幼い頃みたいに振る舞えない。
泣きそうになるのを堪えて、外交用の微笑みを浮かべてその場を乗り切った。
そうして結婚相手との、顔合わせ当日を迎えた。
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