ライナスルート13
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タッタッタッと走る音を響かせていたが、王宮内にある小さな教会前にたどり着いたので静かに門を開けて中に滑り込む。
祭壇前にしゃがみ一心に祈り続けている目的の人物を見つけ、佇み覗き見る。
祈りの邪魔をしないようにゆっくり近づく。
しかし気がついていたのか祈りを止め、立ち上がりこちらを振り向いた。
「姉上、お祈りの邪魔をしてすみません。」
「良いのよ。慌てて来たみたいだけど、いったいどうしたの?」
ライナス様が辺境の地に向かってから10年が過ぎた、私はその日から教会に出向いてはライナス様の無事を祈っている。
あれから戦況報告が来るまで毎回の様に心配で、報告で無事が分かると泣きそうになる。そうしてライナス様が無事だった感謝と、また無事に過ごせる様にとこうして祈るのが日課になっていた。
「父上が姉上を探していますよ。」
「分かったわ。」
父様からの急な呼び出しに怪訝な表情になるが、弟と一緒に王宮に戻り父様の執務室に向かう。
執務室に入ると難しい顔をした父様が座っていた。
「2人共来たか、そこのソファーに座れ。」
言われたソファーに2人で座ると、正面の席にに父様も腰掛けた。
「お呼びとの事でしたが、何かありましたか?」
「王国の今後に関わることだから2人を呼んだ。
リリーの嫁ぎ先が決まった、異論は認めない。」
この瞬間が来てしまったかと、重ねていた手をギュッと握りしめる。一国の王女がこの歳まで、婚約者も無く過ごしていた事がおかしかったんだ。
「その結婚、了承しました。」
お辞儀をして了承の意志を伝えると、横で聞いていた弟が音をたてて立ち上がった。
「父上、僕はこの結婚反対です。姉上はずっと思っている人がいるの、父上だって知っているじゃないですか!」
父様は弟の言葉を聞くが意見は変わらないのか、組んだ脚を組み直して顎を上げて見下す様に言い切った。
「お前の意見など聞いていない、この結婚は王命だ。
2週間後に相手との顔合わせがある、それに備えて準備をしろ。」
「父上!」
熱くなる弟の手を引きこちらを向かせ、首を横に振る事で意志を伝える。
まだ不満を言いそうな弟を制して、その場に立ち上がる。
「私がお受けすると言っているのです、貴方は下がってなさい。
父様用件は以上でしょうか?無いなら準備の為下がります。」
手を一振されたのでそのまま部屋から出ると、まだ言い足りないのか弟がついてきた。2人並んで廊下を歩きながら、弟が問いかけてくる。
「姉上、本当にいいんですか?毎日教会で一心に祈っているのは、好きな人が戦場に居て無事を祈っているからじゃないのですか?」
「良いのよ。お祈りは私が勝手にしている事よ、好きな人なんていないわ。」
「そんな、何故素直にならないんですか?好きじゃなかったら、あんなに一生懸命祈らないでしょう!」
「貴方には関係ないでしょ!…私には好きなんて言う資格なんて無いのよ。
1人で戻るから着いてこないで。」
弟は何も悪くないのにあたってしまって情けない、スカートを少し持ち上げて早歩きで廊下を歩く。
部屋に戻り疲れたから少し休むと言って侍女を下がらして、ソファーに深く座る。
もう少しで私も16歳になる、一国の王女として結婚の話がでるのは当然だ。本当に今まで私の事を思って、婚約者を据えなかった父様には感謝しかない。
弟に言われた言葉が今でも胸をズキズキと痛ませる、本当に私には好きだと言う資格なんて無いのだから…。
お行儀悪いとわかっているが、ソファーにもたれ掛かり背もたれに頭を載せる。
あれから個人的に連絡を取る事が出来ないでいる。私のせいで辺境の地に送られたのだ、恨まれていても仕方ないのだ。
ライナス様は騎士団の副団長まで出世されていたのに、それも出征した事で身分剥奪されている。平民出のライナス様が副団長まで上り詰めるのが、どれだけ大変か想像を絶する事だろう。
改めて考えると私って、ライナス様の疫病神なのかもしれない。どの面下げて言えるというのか、好きなんて言えるはずも無い。
渇いた笑いがこぼれてしまう。
頬を伝うこれは自業自得の結果なのだ、私には泣く資格なんて無いのだから…。
『姫様はいつでも笑っていてください、姫様が泣いているのは皆心配します。』
懐かしい声が聞こえた気がする、どこまでも優しい人。
私なんて泣く資格すらないのに、いつも笑うように諭してくれた人。
声にならない嗚咽を零しながら、流れる涙をそのままにしばらく泣き続けた。
ただ好きな人を思って泣く事をどうか今だけは許して欲しい、今だけは…。
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