第九十七話 君との思い出:赤松邸に御呼ばれする
第九十七話 君との思い出:赤松邸に御呼ばれする
室町の有力守護共は、何かというと京の屋敷に火をかけて退散する。
まじ、迷惑。
大内義弘の乱では堺の街に拠る大内軍を攻撃するために、足利義満ら幕府軍は堺の街を燃やすしな。
土一揆や坊主どもも良く放火しているから、
その辺り、火を掛けるのは決まりごとにでもなっているのかもしれないな。
どうやら、赤松の屋敷も燃えやすく作っているらしい。本気で辞めてもらいたい。
ここにきて、京にはある噂が流れている。兵庫湊を貰い受けるという話が拡大し、
「公方様は近々、満祐の領地のうち播磨と美作を取り上げるらしい」
という噂が流れ始めたのだ。
歴史的には満祐の弟赤松義雅が不興を買って所領をすべて没収され、
赤松庶流の赤松貞村と、管領の弟細川持賢に分け与えられている。
赤松貞村は三郎四郎の母・宮内卿局の兄なので、まあそういう贔屓が存在したのだろうと思う。
三郎四郎がどう成長するかによるが、傅役は伯父が良いのかもしれないな。
近習だし。
赤松義雅は摂津の国のうちで有馬や西成の当たり、播磨に接する三郡を有していたんだが、これも現在はそのままだな。
取り上げていないから。
わかったと思うけれど、噂は俺が流してるんだよ。思い切って動き出してもらいたいからな。
中途半端じゃ、状況が変わらない。
宿老が征夷大将軍を殺そうとする、それがどういう意味を持つのかという事だな。
――― 宿老なんていらないよね?
持っていきたいのはこの方向だ。
大内は嫁を出して姻戚関係を結び九州・大陸方面を委ねるとして、他の足利の連枝でない宿老である山名・
赤松は幕府が強力になれば用済みだ。
つまり、俺と彼奴らは生きるか死ぬかの関係にある。
リアル義教はその辺、頭から抜けていたのだろうか。
それとも、相手が窮鼠猫を噛むとは思わなかったのだろうか。
悪いことは一時期にやるということをやり切らなかったことが、秀才坊主の限界だったのかもしれない。
いつ処分されるか分からない状態なら、
平静でいられないだろう普通。
春三月、桜の花も綻び始めるころ、「猿楽の夕べ」に俺たちは誘われた。
一行は、細川持之、畠山持永、山名持豊、一色教親、
細川持常、大内持世、京極高数、山名熙貴、細川持春、赤松貞村。
そして、屋敷近くには千ほどの番衆を潜ませ、指揮するは斎藤『妙椿』教利。
邸内にも伊賀の地侍や愛宕聖が扮した使用人たちが潜んでいる。普通に、
お茶出しされて、目で「よ、お疲れ」みたいな会話をする。
「大樹、中々の屋敷でござりまするな」
「入魂の仕上がりであろうな」
山名『宗全』持豊、お前には何も知らせていないのだが、やはり赤松とグルなのか、変な警戒心を掻き立てさせる言動が目立つ。
そりゃ、忍者屋敷みたいに隠し部屋や通路が沢山あるんだから、メインの通路が変に入り組んでるだろ?
迷路かこの屋敷は。
吉良上野乃介の隠れていた屋敷みたいなのだろう。
まあ、殺されるのは招かれた客なのか、招かれざる
客なのかの違いはあるが。
さて、猿楽は今日は何段あるんだろうね。
それよりも、舞台のお陰で、武者の動く音が聞こえにくいじゃねぇか。
どうせ、飲み物にも何か仕込んでるんだろうなと思う。
「これはこれは大樹、わざわざのお越し、恐悦至極に存じまする」
矮躯の赤犬が皴だらけの顔で愛想を振りまき挨拶をする。
「宿老である赤松満祐の誘いを断るわけにはいくまい。
それに、兵庫湊の件で礼を言わねばならない」
「東が定まれば次は西に目が向かうのは必定。
兵庫の湊も、近江今浜同様、善き街にされるおつもりなのでございましょう。年寄りには難しゅうござりまする」
と本心を隠し俺に話しを合わせる。マジ、これは騙されそうだわ。
多分、こいつの利益を損なわなきゃ、そこそこ上手くやれた仲で行けたんだろうな。
でもな、将軍の権威を高めるには、今の外様の有力守護は削らにゃならん。
与しやすいのは赤松、山名は時間を掛ける。戦わず立ち枯れ狙いでも
構わない。細川も山名もしぶといのだけが取り柄だ。それを考えると、
頭に血の上りやすい赤松一党は与し易いのかもしれないな。上手く使い
熟せずすまなかったが、お前の代わりには斯波も大内もいるしな。
いつ牙をむくか分からない赤犬を飼い続けるのは面倒なんだよ。
やがて、舞台が始まり酒宴がはじまる。酒を口に含み、袖に吐き出す。
舌がピリピリする。やはり何か入れられているようだ。
四半時ほどすると雷鳴の様な音に、舞台と客席の周りに慌ただし気な
人の気配が広がる。
――― さて、どちらが生き残るか 開幕だな
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