第九十五話 グッバイ:鎌倉公方族滅
第九十五話 グッバイ:鎌倉公方族滅
さて、新年が目出度い。子供も増えたんだよ実は。
この二年程で、男児ばかり三人が生まれた。重子の子は未来の義政、朝日局の産んだ子が政知、今一人、宮内卿局が生んだ男児がいる。
これに、大姫筆頭に、三歳から五歳くらいの子供が七人いるわけで……もう滅茶苦茶です。
「大樹、新年あけましておめでとうござりまする」
「「「「「おめでとうござりまする」」」」」
「皆の者も、健勝で何より。さあ、堅苦しい挨拶は抜きにして、食べようではないか」
既に、子供たちは最近大流行の磯辺巻を頬張っている。全員がハム太郎。
「大樹、四郎五郎にお声をかけてくださりませ」
未来の義政、お前は坊主になって庭とか別荘とかいっぱい作ると良いと思うぞ。少なくとも、嫁は選べよ。気が強い女は止めておけ。あと、銭ゲバ。
「畏れ多いことにござりまするが、五郎六郎にもお声を……」
朝日局は幕臣の娘故に、公家の娘の上臈の中に入ると萎縮してしまうのは仕方がないだろう。まあ、餅食って、酒飲んで気を大きくしなさい。
この子は未来の堀越公方足利政知君です。だが、関東には鎮守府をおくので、多分第二代か三代目の鎮守府将軍になると思うぞお前は。
山内上杉、駿河今川、大内の嫡男には娘を嫁がせて親族にするつもりなので、それなりに楽ができると思う。堀越公方は取越苦労と音が似ていて嫌だな。縁起でもねぇ。
目の前で新年を祝う家族を見ていると、本当に持氏君一家は哀れに思わないでもない。親父と関東モンが悪いんだけどね。子供に罪はないが、許すと神輿を与える事になるから、そこは曲げられません。俺は、池禅尼になる気は無いからな。
それに、今年は朝廷も色々あるんだよ。
今年は帝の傍に義妹の正親町三条豊子が嫁ぐことになっている。三条公冬の養女となり女御としてなので、正室待遇になるのも問題ないだろう。これで、俺とぞのっちは義理の兄弟・相婿になるわけだ。
帝は尹子と同じ十六歳、豊子が十三歳だから丁度良い年齢だと思う。尹子は……そろそろ娘量産計画を発動するタイミングだが、俺が生き残る事が先決だな。
しかしその前に、関東平定の祝いの宴席が、何故か仮病中の赤松君から誘われるのだ。確か、息子の名義で呼ばれるのだが、今その息子十一歳なんだよね。時間が前倒しだから明らかにおかしくなりつつある。
赤松満祐もあと数年で六十となる。子供は幼く、そして立場は義持兄の時代と比べるとかなり微妙だ。赤松は幕府の武力装置として、また京に近い場所で山名・細川・畠山に対する牽制役として謂わばバランサーであった。
その三家は現在代交代の直後であり、将軍家の直轄領は山城・大和・伊賀・丹波半国となり、動員力も二万を超える戦力を持っている。番衆だけで一万以上派遣できるのだ。赤松君の存在意義ってないよね。播磨を差し出せば、一国くらいは安泰に守護を任せてやらないでもないが、多分それは満祐にはできない相談だ。
一時期、良い夢見ちゃったからね。侍所に所司代ね、宿老として美味しいパイを分け合ったからな、山名と畠山とさ。
――― そろそろ終わりでもいいよね?
そして、松の内も明けた一月末、鎌倉公方とその一党が鴨の河原で信濃村上と同様に斬首された。
俺は、直筆でこの処分についての征夷大将軍としての姿勢を示すことにした。
『あしかがもちうじ、このもの、みかどからあずかりし日ノ本のまつりごとの権を、しょうぐんになりかわりもとめんとほっし、侍どもをしそうしよをみだしそうらえば、その罪三ぞくにおよぶもの也。この一罰をもち百のいましめとする --- もちくぼう』
この高札が皆に読まれ、俺が『万人恐怖』ではないことを知ってもらえれば良いかと思う。まあほら、歯向かえば必ず殺すと書いて『必殺』だと理解出来ていない者も多い。
それと、俺の姿勢に覚悟を決めた奴らもいるはずだ。




