第九十三話 あの人に会える:鎌倉公方断罪
第九十三話 あの人に会える:鎌倉公方断罪
さて、それから一月ほどたった師走の声も聞こえる頃、ようやく簗田一族を鎌倉に連れてくることが出来た。ついでに、結城や佐竹に小田、宇都宮に那須らも同行していた。沢山だね。
「京扶持衆と、国人は席を分けるように。京扶持衆は上手だ」
「……承知いたしました」
守護とかどうでもいいから。これから先は守護じゃなくなるもの多数だからね。俺は、鎌倉公方に付いた国人や守護を補任しないことにする。これから、発表します☆
「この度の、朝敵足利持氏討伐の完了と、今後の鎌倉・関東のあり様について大樹から皆に説明がござりまする」
ということで、俺は簡単に「鎌倉府の廃止と鎮守府の設置」「鎌倉公方の廃止と将軍の子弟による鎮守府将軍の派遣」「関東管領以外の守護就任の補任を今後一切行わないこと」を宣言する。
お、ざわめいているぞ。守護に補任されないと、半済もそうだが守護国内の警察権が担保されないので、調停役が不在となる。
刈田狼藉の決断権と使節遵行権だな。そもそも、幕府の尊重をしないんだから、幕府の判定を執行する権利もいらないよね? 都合がいいときだけ、権利行使すんじゃねぇよ。これからは、ワイルドな時代がやってくるわけです。
「そ、そのような無体な」
「ん、持氏を担ぎあげて、幕府に逆らっていたのはどこの誰なんだ?関東管領や京扶持衆を攻撃したのは何故だ。説明しろ」
皆さん、黙っていたのでは話になりませんよ。
「そもそも、関東の仕置きは関東管領が将軍の部下として行うもので、鎌倉公方は将軍の代わりではなく、象徴に過ぎぬ。それを、あたかも『室町殿』『鎌倉殿』等と並べ立ておって。
征夷大将軍は、帝から日ノ本の政を委ねられておる正式な官職だ。そも、臣源義教は従一位左大臣である。そなたの主であると思い違いをしておった足利の庶流の末裔は、何者であるのか理解できぬのか諸将らは」
全員沈黙……耳鳴りがするほど静かである。
因みに、持氏は従三位左兵衛督であり、斯波君と同じくらいの官位だ。つまり、管領の有力者程度だ。
「さて、そのような者に付き従うのであるから、好きに独立すればよい。官位も守護職も自称せよ。今後は補任はせぬ。黄泉におられる鎌倉殿にお頼もうすればよかろう。祈るだけなら只であるから、そなたらも余計なかかりが無くて嬉しかろう」
官位をもらう場合、無料とはいかないので、それなりの出費が掛かるのであるから、自称すれば只じゃん。
「それは、余りにも一方的ではござりませぬか。今までの忠勤……」
「鎌倉殿にお頼もうせ。室町殿は関東の諸将の事は知らぬ。これからは、異国の者として扱う故、鎌倉鎮守府に『関東奉行』と申す取次役を設ける故に、その者と面談し、京に頼みごとがあれば申し出よ」
「「「「……」」」」
冗談じゃないからね。揉めてる奴らは関東の東側だから、好きに殺し合えばいいんじゃね。西側の相模・武蔵・上野だけで十分に経済圏として成立する。貿易すればいいんだよ。
「今後はそのつもりで。異議あらば、諸将の得意の挙兵でもするが良い。攻めてくれば相手をしよう。また、鎌倉公方とその関係者を匿えば、同じように朝敵として征夷の対象とする。相まみえるのは戦場となろうな」
「「「「……」」」」
これで、関東の東で独立しても特に問題は無い。宇都宮・那須はこちらの側なので、上野から下野を通って奥州へは連絡できる。
そこに、野生の持氏が現れた。一月ほど土牢に押し込められ、頬はこけ身綺麗にさせたものの、恐らく関東諸将には別人のように目に映ることであろう。
俺は、諸将の前で、足利持氏を責めねばならない。
「貴様は、日ノ本を騒がせた賊の首魁として京に連れて帰り、斬首と処す。阿弖流為の故事に倣って族滅してくれるから、喜べ。これで、夷の英雄として語り継がれよう」
まさかの処刑、それも赤子まで。目を見開き驚きと共に、憎しみの炎が灯る。いや、縄付きだから、暴れても怖くないから。
「なっ……養老令では!」
「異民族には適用されぬ。貴様は人の言葉も理解できぬ人ならぬ者であろう。何度愚かな行いを許してやったと思っておる。貴様の様な愚物が公方などと名乗るのは片腹痛い。戯けが!」
多分、持氏は怒られたことが無いんだろう。俺の方が圧倒的に上の立場だし、年も上だ。
「ガキの頃から公方様などとおだてられ、大人に利用され、苦楽を共にした憲実の心も知らず……愚か者は、耳に心地よい話しか聞かぬ。故に、自らの道を誤る。この度の事、持氏の首を持って許す事とするが、将軍の目が関東に届かぬなどと、ゆめゆめ思わぬことだ」
「「「「恐れ入りましてござりまする……」」」」
足利持氏が「え、俺死んじゃうの?」みたいな顔をしている。ここまでやらかして死なないと思えること自体が目出度い。四回ぐらい処刑されてもおかしくない。
「お前が勅使に手を掛けた時点で、自分の首を差し出していれば、妻と娘の命は助けてやれたものを……申し開きせず、息子は将軍ごっこの元服をさせ、関東管領を攻めるような姿勢では族滅しかないであろう」
「……族滅……」
「そなたの叔父たちも同じ処分となる。皆揃って親族をあの世に送ってやる故、そこで天下を目指すが良い。次は上手くやれると良いな」
ナイスジョーク! あれ? 俺の会心の冗談が通じなかったみたいで、関東の皆さんはお通夜の様になってしまいました。これにて、一件落着☆
これにて第九幕終了です。次幕は『永享の乱』となります。気になる方はブックマークをお願いします。
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆⇒★★★★★】で評価していただけますと、執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします!




