第九十話 君が戻って来るなんて:関東に向かう
第九十話 君が戻って来るなんて:関東に向かう
暑さも一段落した九月、俺は再び駿河に向けて下向するが、目標は鎌倉、そして鎌倉公方の首だ。生かして捕えて、京の河原で斬首だな。
「此度の戦は長引きそうでござりまするか?」
この夏、第二子を生んだ重子……時期的には義政君になるのだろうか。宗子は一応やる事はヤッテンダが……年齢? ちょっと無理かもな。とは言え、御台としての仕事がある。
「今年の年末は関東で過ごすやもしれぬ。戦はすぐにでも終えようが、仕置きを終わらせねば京には帰れぬからな」
「……寂しいことでございます……」
「文を書く。代わりを頼むぞ」
「……ご安心下さりませ。尹子殿と仲良く家を護りまする」
尹子ももうそろそろ子が産める年齢になるから、頑張らないとだな。娘三連発でオネシャス!
京の護りに三隊を残し、先行する隊に加え、三隊を率いて駿河に向かう。実働、五千少々だろうか。まあ、俺だけで戦をするわけではないので問題はないだろう。軍監に、俺の近習の坊主を派遣してある。報連相が大切なんだが、生抜きの奉公衆や有力守護の子弟は、独断が多いから使いにくい。
鎌倉時代じゃねぇんだから、名乗りを上げて個人の武勇とかどうでもいいんだよ。どの道、朝敵認定してるんだから、まともに立ち向かう奴らがいるわけがない。既に、持氏が逃げ込みそうな三浦氏だ扇谷上杉やその家宰の太田からは「来たら捕まえとくよ☆」と書状が着ている。
もし、それを裏切るようであれば、揃って朝敵として上杉憲実に討伐させればいいことだ。喜んで、国人領主共が首に殺到するだろう。大きな手柄首だからな。
「大樹、生かして捕えること叶いましょうや」
「彼奴はビビりだから、出家したらしいぞ。自分は坊主だから殺されないとでも思っているらしいな」
息子は良いのかよ!可哀そうだが、十二歳でも六歳でも首は貰い受ける。養老令? 朝敵に年齢制限はない。
小笠原と武田には出兵時期を知らせてあるし、斯波一行は俺たちより前に駿河に入る予定だ。街道だって渋滞するからな。
勅使である裏松義資を殺害した旨、何の申し開きもしない足利持氏一党に対し、朝廷は『治罰綸旨』からの『朝敵』認定を正式に行い、征夷大将軍足利義教に、帝に変わりこれを討つように命じられた。
京扶持衆には管領細川持之から、また、関東の諸将には先の関東管領上杉憲実から「足利持氏一党に同心するもの、これ皆朝敵也」と書状をばら撒かせている。もっちーは他人事だが、憲実は敵の数を削らないと自分が大変なので、必死にできる限りの国人たちに連絡している……らしい。
我々は箱根を越えて足柄から侵入することになり、甲斐勢は武蔵に侵入。小笠原勢も碓氷峠を下り上州へと侵入を開始する予定だ。
「鎌倉公方に同調しないのであれば、少数でも参陣せよと先触れを出せ」
関東各地に、既に何度も使いの者が出ているのだが、こんな時に契約社員の伊賀の皆さんが活躍してくれているわけです。勿論、駿河に入っている桔梗屋関係者も活躍中。
「今頃、憲実殿も平井城を出ておられるでしょうな」
あいつの卒業コンサートみたいなものだからな。確か、足利持氏一党を処分したのを機に病んで出家して諸国を彷徨うようになるんだよな本来上杉憲実はさ。
でも、勿体ないからな、文官としても統括者としても文化人としても有用な男だから、まあ、追い込まれ過ぎる前に持氏と決着つけられるなら、心理的には有効に作用するんじゃないかと俺は思う。二年前倒しは、メンタル的に良いだろう。
なにしろ、手を下すのは俺だ。別に命じるだけだがな。関東の諸将の前で、持氏をキッチリ処断してやろう。
今まで、鎌倉公方が独自に行っていたであろう任免に関しても、全て室町で扱うことにする。鎮守府将軍は征夷大将軍の部下だからな。並び立つのではなく、関東の武士との窓口に過ぎないと、正式な朝廷の役職で知らしめる必要があるだろう。
鎌倉と室町は別物と考えられる頭の出来が理解できない。
永享の乱の後、関東は旧利根川を境に東側を持氏の子供の生き残り永寿王転じて成氏が『古河公方』となり、上総・下総・下野・常陸の国人を取り纏め西の関東管領上杉と対抗していくのは歴史の流れだ。
持氏の血統だけでなく、それ以外の足利の血統を関東から排除する必要がある。半年、一年は関東に滞在し、鎌倉公方の残党狩りを俺が直接指揮する必要があるだろう。
暗殺ね……大丈夫! いつも鎖帷子を着こむようにしているからね最近。近習達も充実させたし、裏切りでもなければ多分大丈夫だと思う。思いたい。
お話の続きが気になる方はブックマークをお願いします。
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




