第八十六話 拝拝拝:伊賀へ至る道
第八十六話 拝拝拝:伊賀へ至る道
伊賀には大和経由と近江経由で移動できるのだが、今回当然大和路から伊賀に入る。だって、自分の直轄領を視察しながら移動したいじゃない。
年も改まった後に顔を出すという事で、段取り的には余裕があるのだが、正月餅配りがしたかった俺としては少々不満がある。
伊賀は阿拝郡、山田郡、伊賀郡、名張郡の四郡から成り、足利氏嫡流の譜代被官である仁木氏が守護を務めた時代が長く続いた。阿拝・山田を中心に支配をしている。山名が就任したのは永享五年からであり、仁木伊賀守としてそれ以前は世襲していた。先代が戦死し、幼年の当主で国内が不安定になったため、一時的に山名が預かったようなものだな。
じゃ、取上げても全然問題ねぇだろ……という話になる。この辺りは、満済さんや畠山満家の考えで動いているので、何とも言えないな。むしろ、お手盛りで宿老共が分け前を取って肥大化していく過程にしか見えない。
今の状況では、名波・伊賀の南二郡は国人の惣国に近く、北の阿拝・山田は仁木氏を旗頭に纏まっていると言える。故に、北は一つの軍団として編成し、南は一本釣りで個人的に仕事を依頼していく方向で考えている。
先ず向かうは伊賀国仁木氏館だ。仁木教将に会う為だ。
南北朝の頃、仁木は高一族の後を受けて尊氏の元で大いに活躍したが、当代の祖父仁木満長がやらかしをして遁世してしまい、ぶん投げられた結果、伊賀半国の守護程度でしかなくなっている。南半分は調子に乗っているというわけだ。滅ぼすか?
でも俺は優しいから、使い潰す方向で考えています。
「ようこそ我が館へ大樹」
「伊賀守、大儀であるな」
俺は、甲賀と南伊賀対策のために来ているのだが、名目上は正月の参賀への答礼的な何かで新領主を視察に来ているという態だ。長く伊賀守護を任されていた家とは言え、ここ数代はやらかして権勢も右肩下がり、そこに将軍が直々にやって来たわけだ。まあ、今は守護代家仁木氏となるわけだが。
「守護代では不服という譜代の者もいるであろうが、暫くは功を積まねばならんぞ」
「……はい。将軍家の名代である守護代は守護も同然にござりまする。山名の下に付くことを嫌っていた者たちも多く、我ら一同大変感謝しておりまする」
さて、山名はこの数年で伊賀にどのような影響を与えたのかの検証を進めねばなるまい。それと並行してだな……
「伊賀は山深き場所とは言え、天然の要害。また、京や奈良にも近い交通の要衝、様々な者が行き交いそして……」
「謀を撒いていきまする」
「そうだな。故に、京で行っている孤児の育成を進めてもらいたい」
「……『草』を育てるのでござりまするな」
孤児を集めて、忍者にするのはサスケやあずみの世界でおなじみのお話だが、当然、伊賀でもそのようなことは有る。と言うよりも、上忍と言われる国人の家に小作人や小農の育てられない子供が捨てられ、仕事を与える為には『忍者』兼行商人や職人として京やその他の大きな街に出なければ食わせられなかったからだと俺は推測している。
「孤児は伊賀に限らず、大和・伊勢からも集めるが良い。それに、腕の良いものであれば、そのまま商人・職人として我が配下の者に預けても良い」
これから、小京や寺内町を育てていくのに、商品を供給する職人やものを売り買いする商人が必要なのだが、地元の人間ばかりではこちらが取り込まれかねない。
関係を結ぶのは構わないが、あくまで主体は幕府の統治に関わる五山の末寺とその寺内町なのだ。
俺はその足で、何箇所かの孤児のいる尼寺を周った。そして……
「餅を食べよ!」
「……いいの?」
「こ、これ、直答など!!」
「気にせずとも良い、儂はそなたらが腹いっぱい餅が食えるようにするために京から参った餅翁である。これから、庵主様がお前たちの為、仕事を与える。大人になり、立派な職人となれば家族を養う事も出来るし好きな場所に居を構える事も出来よう。
商人となれば、多くの人を雇い、皆が欲しがる宝を手に入れるため、日ノ本中を旅することになるであろう。 また、女子は糸を紡ぎ、紙を漉き、やがて豊かな男の妻となり子をなすことであろう。男女問わず、勉学が好きなものは僧籍に進み、我らの手助けをすることもできよう。よいか、庵主様の話を良く聞き、立派な大人になれば、また好きなだけ餅が食えるであろう」
子供たちは餅が大好きだ。というか、この子達の中には餅を知らぬ子もいる。一口二口と頬張るたびに、笑顔が広がる。毎日餅を食べられるようになる未来……まあ、話半分だが夢見て生きるってのも大事だろ。
それが、腹いっぱい飯が食いたい……ってのはとても大事だ。ハングリーであるとうことは、恵まれて育った者には与えられない環境だからな。
そういう意味では、坊主は人工的にハングリーになる事で潜在能力を高める修行をしているのかもしれない。ハングリーね……まあ、そうじゃない奴らも坊主にはいるので、俺が修行のために追い込んでやろう。親切じゃね?
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