第八十四話 哀しみを、そのまゝ:義資の後始末
第八十四話 哀しみを、そのまゝ:義資の後始末
将軍からの依頼を受け、朝廷が送り出した使者を足利持氏が殺害したという事実は、瞬く間に日ノ本を席巻した。今頃、鎌倉はハチの巣をつついたような状況だろう。
「周泰からの使者は如何に」
宿老会議(というか、もう宿老らしいのはいないんだけどね)において、年長者であり侍所頭人を務めた赤松君が先導してくれる。この会議意味は特にないから、話を持って行ったという事実だけが重要。
「詳しいことは今だはっきりせんな。事実は裏松義資が会見の場で足利持氏に害されたという事だけだ」
その前後の話はたいして重要ではないだろう。
「征伐、如何為されますか」
「先ずは、仔細の申し開きをさせようかと思う」
「手温うございまするぞ!!」
いや、山名さんちの持豊君よ、自分は担当外だからって強硬論を述べるのは止めてくれ。お前は兵士出さないんだから黙ってろ。
「この度は武衛殿が中心となり討伐となりましょう。武衛殿の御意見や如何に」
関東征伐に、義郷の息子が当主となって向かうんだが、自分は行かないってことで、甲斐常治に叱責された入りするんだよな。管領の当主に相応しく無いとか言われてさ。今回は、大丈夫だ。働き盛りだからな。
「勿論、懲罰に向かいまする。が、未だ甲斐守護が赴任できておらず、信濃の守護小笠原も単独では迎えますまい」
「甲斐守は将軍と共に甲斐に向かう」
「「「おぉぉ……」」」
はい、こんな感じで良いかな?
「大樹自らが御出陣とは。帝を敬わぬ者を懲罰するは、征夷大将軍の任にありますれば、当然でございまするな」
一色義貫のお追従が嬉しい。これで、時期と規模は将軍の親裁となる。関係ない赤松・山名は口を差し挟ませる必要がなくなる。
追手をまきながらの帰還となった『周泰』が二週間ほどで京に戻った。
「無事で何より」
「……申し訳ござりませぬ大樹」
「いや、義資の事は残念であったが、そなたが無事で何よりである」
「勿体なきお言葉……」
まあ、部下を慰労するくらい当然だよね。因みに、裏松義資は贈正二位右大臣となった。正三位大納言からの二階級特進。ついで、裏松家は名家から羽林家に家格が上がっている。
「義兄も黄泉路で右大臣となったことを喜んでいるであろう」
「……左様でござりまするな……」
いや、冗談で言ってるんだからね! 真面目に取らないでよね。やっぱり、死んだら終わりですから。でも、実家の家格が上がったのは宗重姉妹は『兄上のお陰でございまする』と色んな意味で感謝していた。特に重子。
「管領殿はどのように」
実の父であり、止めたくてしょうがない関東管領上杉憲実の真意は如何に。
「流石の父も、この度の鎌倉公方のあり様に『万策尽きた』と申しておりまする。大樹の御意思に従い、粉骨砕身いたす所存でございます」
「左様か。そちの父には苦労を掛ける……が、根から絶やさねば関東の平穏も民の幸せも叶わぬ。持氏が一党、その親族含め関東から追放するつもりの遠征となる。時間をかけ、出来る限り公方の下に身内を集めさせよ」
俺は「鎌倉公方に同心する」と見せかけて、土壇場で裏切ってもらう方が面倒が無くていいと思っている。その方が暴走するからな持氏が。
「では、管領にはそのように伝えまする」
「来春、富士を共に見るべしと伝えてもらえるか?」
「……承知いたしました……」
近習には関東攻めの件は特に口止めをしない。ここで、姿勢をはっきりさせねば、勘違いして俺が弱気だと思う者も出て来るからな。持氏討つべし、但し、申し開きがあれば話を聞くことは聞くということだ。
既に、年末が近い状況で兵を動かすのも難しい。何より、駿河に下向し、甲斐に武田信重を送り届けねばなるまい。今川と三河の奉行衆に『妙椿』を指揮官に付けて駿河に配置する。
さて、新しい駿河の街はどのようになっているか……関東管領上杉憲実の目にどのように映るかも楽しみだ。
「では、駿河下向は来春ですな」
馬の出産ピークが春先だからね。甲斐守としてもその後、田植えの後くらいが良いんだろうな。まあ、宇陀では田植えほとんどないんだけれどね。米はどこでも取れるが、馬産地はお前の所だけなんだからなと念を押しておきたい。
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