第八十三話 旗:持氏動く
第八十三話 旗:持氏動く
さて、六月も終わりの頃、満済さんと山名常煕が立て続けに亡くなったな。合掌。
時代は変わり、暫くは山名も動かないだろうと思われる。伊賀の件は既に細川が丹波半国を差し出していることから、問題なく接収された。丹波には細川出身の近習を守護代に当てていないからな。山名は次兄である持煕を当てているんだから、文句はないよな? という裁定である。
――― 文句があるなら、宜しい、ならば戦争だ! とつながるのだが。
そして、大人しくしていた鎌倉公方・足利持氏が活動を始めた。これと同じ時期に、持氏の命を受けた一色直兼に佐竹義人と共に那須氏資が軍勢を差し向けられている。
那須氏資は上杉禅秀の乱で持氏と対立した存在であり、正長年間にも軍を差し向けられたのだが、俺と持氏が揉めている間は大人しくしていた関係で軍勢を差し向けられる事はなかった。
那須氏は結城氏や佐竹氏と並んで、関東八屋形のひとつに数えられる有力な国人領主だったが、氏資の父である資之の上那須家(居城・福原城)と資重の下那須家(居城・沢村城)に別れ、それぞれ室町・鎌倉公方について対立している。やがて上那須家は滅亡し、再統一されるが宇都宮氏佐竹氏と対立を繰り返し衰亡していくのが流れなのだが、どうする。
本来であれば、信濃・甲斐から援軍を出すべきなのだが、今はその甲斐に人がおらず、信濃も不穏な状況なので援軍は出せそうにもない。
「持氏に、問責の為の御教書を出す事に致しましょうや」
『喉元過ぎれば熱さを忘れるかてめぇ。誰の許可取って勝手に戦仕掛けてるんだこのタコ!!』とメッセージを送るとともに、「もうやだ」と言いたそうな上杉憲実にも「もうちょっと我慢してやー 持氏の首落とすまでやでー」と励ます事も忘れないようにしよう。
「ついては、この度の使者周泰を加える。久しぶりの関東で昔馴染みに会うてくるが良い」
「……畏まりましでございまする……」
いや、そんな大変なことじゃないよ。坊主は殺されないからね。だから、精々、昔なじみの鎌倉五山の僧や山内上杉方の国人共に「室町将軍は鎌倉公方討伐の為綸旨を願っている」とか噂を流すだけの簡単な仕事だよ。
事実、治罰綸旨は大和で出しているし、相手は族滅させている。一度、和解した上で、更に叡山などと謀って将軍家に仇成す行動は目に余るということを、ハッキリと情報発信すべきなんだよ。
これは、関東征伐の予備動作だから。何度も「朝敵になるぞー」と言って事を起こさず、オオカミ少年になった頃に本当に討伐を行い持氏一党を含めた鎌倉公方の血族を全て殺しつくす。
雑草も、根が残っているとまた出てきてしまうので、根から抜かないとダメだと思います。
「それと、あの穀潰しを主たる使者とする」
「……畏まりました」
「一応、問責の使者として朝廷から何らかの文を頂こう。あの男を呼べ。あれでも、一応俺の義兄だからな。使者で死ぬのも悪くない。良い切っ掛けとなるであろう」
穀潰しの義兄とは裏松日野義資です。禿げ親父のお気に入りのポンコツ甥っ子な。歴史的には、俺の息子が生まれた祝いに沢山の客がポンコツの家にやってきて「これから俺は将軍の息子の外戚」くらいの勢いで調子に乗ったので、閉門蟄居させたんだよな。
最後は謎の侵入者に殺されちゃうんだけど、義教の仕業とされている。いや、俺じゃなくって別の義教君ね。
義資君は「朝廷の使者兼俺の義兄っつーことで、田舎者の持氏にガツンと言ってやってくださいよ!」と話したところ、大いにやる気である。ポンコツのくせにプライドばかり高いところは、今一人のお気に入りであった腹違いの兄弟を思い出す。まあ、長生きできないのだよ君たちは。
さて、秋に関東に下った問責使御一行は、ゆるゆると関東に三週間も掛けて下って行った。俺の使いは一週間もかからずに鎌倉に入って、上杉憲実やその他、反鎌倉公方派と情報共有したんだがな。
朝廷からの使者という事で、未だかつてない対応を受けて気持ちが大きくなっていた裏松君は、ついに短慮の塊持氏の前でも命知らずに譴責してしまったようで、その場で残念な結果となりました。
「兄も甥の作る日ノ本の礎となれるのであれば本望にございましょう」
「まさか、帝からの使者で将軍の義兄を殺めるとは……」
はい、予想通り殺されました☆ なんで自分で手を汚すかね。朝廷の使者を殺した時点で『朝敵』だよね。さて、ちょっと巻が入っている気もするのだが、足利持氏を追討する綸旨を頂こうかと思う。
「少々準備に時間がかかる故、年内に討伐とはいかぬが、必ず兄上の仇を取ると約束する」
「「ありがとうございまする……」」
宗子は心から悲しげに、重子は「ね、わざとでしょ」と目でアピールしてきた。いや、どっちもどっちだよ。恨むなら、勘違いさせた禿げ親父を恨んでくれ。
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