第八十話 小東京:山口に征西将軍義昭立つ
第八十話 小東京:山口に征西将軍義昭立つ
今年も餅を沢山配った。足利義餅に改名することを真剣に考え……たりは流石にしない。え、だってさ、畠山餅国とか、大内餅弘とかになるんだぞ。やだよ、そんな守護大名。
さて、畿内も少々落ち着いてきたが、今少しだな。
大和と山城、丹波半国が直轄領になり、京に向けての街道が整備され流通がかなり良くなった。物が集まりやすくなれば京の物価も落ち着き、それに伴い、治安も衛生状態も改善される。
長槍隊は各番組に二百名ほど配置することにした。ある意味、本陣を守る『壁』の役割だと考えさせることにした。徐々に引き上げるかもしれないが、三間半の槍は行軍速度を低下させるので、あまり多くは配置すべきではないかもしれないな。
吶喊を一時的にとどめる守備的な装備だと言えるだろうか。火縄銃も長槍も防御的装備と言うのは、弱兵と言われた尾張の傭兵足軽の特徴を前提とした装備なのだろう。信長の軍は戦の前後の略奪禁止だから、勝利の余禄が少ないからというのもある。
大概、強い兵を謳う国は……貧乏なんだよ。甲斐に三河、山がちで貧乏だよねイメージ的に。
そりゃ、山名の山陰の兵士なんて京で暴れたいよな、略奪し放題だからな……絶対、呼び寄せんな!!
宇陀郡の『牧』の件も順調だし、武田信重の甲斐守任官の件も関東では話題となっていると言われる。曰く……
「大樹は、味方した者に手厚い」
はい、関東管領、禅僧経由で噂を流させています。だって、持氏君は社長じゃなくて出張所の所長さんだよ。なにが違うかって、支店なら本店同様に決裁権限があるんだが、出張所はただの別棟扱いだから、決済権限なんてないんだ。専用の決済印がない。鎌倉公方そのものだね。
だって、関東の代理人は関東管領山内上杉の仕事だからな。俺に人事権の無い名誉職の血縁者なんて知らんがね。という、当たり前の事実を周知させているだけなのである。思い込みは改善しないとね!
異母弟の大覚寺義昭と只今面会中です。
「大樹様、ご機嫌麗しく存じまする」
「なに、母は異なれど兄弟ではないか。兄と呼んでかまわぬのだぞ」
「……畏れ多いことにございまする」
さて、何か後ろ暗いことでもあるのか、義昭君は目が泳いでおります。
「そなたも三十、儂は四十、老い先短い身であるが、幕府を手伝う気はないか」
「……ど、どのような仕儀でござりまするか」
十歳から大覚寺で僧侶となり二十年、こいつが俺に成り替わって将軍になるには既に時遅しなんだが、三年後の永享十年、持氏と同時期に「挙兵」したとして『治罰綸旨』を出され『朝敵』認定されている。
その前に、あれだ、日野の馬鹿息子を歴史的には処分しているので、その養弟であり関係者であると目された義昭はしばらくして京から姿を消して、土佐から日向に逃げる事になったようだ。
幸い、この世界では俺は相変わらず祈祷に大覚寺から義昭を呼び、その後食事を供にするくらいの関係ではあるので、出奔はしないんじゃ無いかと思う。
「還俗して征西将軍として山口に下向してもらいたい」
「……は……思わぬ事にございますな。大覚寺の門をくぐり二十余年、武者の真似事など今更できませぬ」
何言っちゃってるの、義円君だってそれよりもっと長く坊主してたんだぜ。
「いや、大内の抑えになってもらいたい。それに、大覚寺の門跡を務めるそなたであれば、商人や朝鮮・明人ともそれなりに渡り合えるであろう。何より、山口は『西ノ京』となる」
「西の……京でございますか」
「ああ、東の京は駿府と定めておる。海路と陸路を整備し、広くまつろわぬ者共に目に見える『京』を示してやるのよ」
「つまり、王化でございまするな」
義昭ではなく、義昭は流石に良く分かっているな。でも、あの男も大乗院の門跡なんだが……近衛の血がだめなのか?
王化とは、王道に基づく世の中を変革する事を意味する。王者の仁徳により万民を感化し世の中をよくすること。徳治主義とも言うな。俺の場合は『得』知主義だ。
「小さな皿の中身を取り合うのではなく、皿自体を大きくして沢山の料理が並ぶようにする……と言う方が、帝から民まで広く喜びを分かち合える事になるであろう」
「……然り。大樹の申されること、愚禿もお助けしたく存じまする」
その後、坊主どもを集め俺たちは西国対策を考える事にした。大内に「太らせてから食おう」と博多の件は先送りにし、山口を先ずは富ませること、その為に九州管領の上に『征西将軍』として「足利義昭」を下向させる事を伝える。
なに、関東の仕置きが終わる五年くらい先には九州にとりかかれるだろうさ。それまでは、兵を養い、内政重視でお願いします。