第七話 風に吹かれて
第七話 風に吹かれて
最近、重子がグイグイ来るのでちょっと疲れ気味の義教です。いや、まだ毛が生えてないといわれて、元服していないから義円のままなんだろうか。
「実は、将軍宣下はまだなのですが、位階を賜ることができそうです」
満済さんです。どうやら、ちょっと包んであちこち働きかけたところ、毛も生えそろわぬが、とりあえず任官だけしたるわ! とばかりに、将軍になる前に任官されることが多い従五位下左馬頭に叙任されたらしい。
「それで、この後はどうなるのだ」
「……従四位に昇任が来月内定しておりますが……」
言葉を濁す満済さん。あれだ鎌倉公方の足利持氏とやらが「俺が征夷大将軍になる!」とか寝言言ってるんだよね。だから「持氏」ってのは家臣の名前なんだよ!お前じゃ無理って名前で分からないのかね?
「名乗りが『義宣』ってのは煽りなのか?」
将軍『宣』下してください!! オネシャスって意味で名乗らされるのか俺。
「……一先ずです。それと、今上の帝の体調が思わしくありませぬ。宣下の直ぐ後に帝が亡くなられるのはどうかという意図もあるようでございます」
そうかい、まあ建前はそうだろうな。治天の君は今の帝じゃないんだろ?あー 明治維新後には「上皇」「法王」が複数いないからぴんと来ないかもしれないけれど、生前に譲位して面倒な宮中行事を当代の天皇に任せて、自分は権勢をふるう「大御所」みたいなポジションが存在するんだよ。
それが『治天の君』と言われる権力を持つ元天皇。後小松上皇が院政を行っていると日本史の教科書なら書かれるんだろうね。
当代の帝は上皇の子供だが、病弱故に子が為せなかった。つまり、今死ぬと後継者争いが起こる可能性がある。故に、後小松院は自分の望む後継者が跡を継げない限り宣下先送りという意思表示なんだろうな。
「では、帝の快癒を願って元号を変えるか」
「……なるほど……」
満済さんは頷く。まあ、俺が提案して元号が変われば、実質的な将軍は俺って事を帝と朝廷が認めたことになるわけよ。家臣の分際で寝言を呟く分家の小倅には薬になる……わけもない!
自分が幕府の権威を認めないって事は、自分がよって立つ権威を否定しているって分からないのが多すぎ。で、最後は百姓持ちの国が出来上がり、根切にされるまでがセットだよね。
その流れをどう止めるかというところが、この、稀代の秀才である天台義円の頭の使い所なんでしょ。
さてさて、問題は山ほどある。先ずは、後小松院と仲良しにならないといけない。いや、将軍の権威を高めるには朝廷の権威を高めないとだめだよね。だって、委任されているわけでしょ? この小松さんはあの一休さんのお父さんでもあり、なかなか一筋縄ではいかない人だと思う。端じゃなくって真ん中渡ればいいんだよね。え、仮名文字じゃないからそれは通用しませんって……
その上で、戦国転生物が使えるチートがこの時代では使えないということを良く考えないといけない。火縄銃……伝来が百年以上先です。まだ、フス戦争ですら起こっていません。いや、最中かな。故に、ハンドキャノン? 何それという状態です。騎士の時代が終わり、銃兵と長槍兵の時代になるのはもう少し先のお話。
明はまだ全盛期だしね。そもそも、応仁の乱で京がめちゃめちゃになったり何年も後継者争いを繰り返して疲弊したり、守護が没落して守護代や国人が台頭したり……全然していません。伊勢新九郎だっていまだ幼児だよ。
楽市楽座……無理。大体、幕府の財源って畿内の座とかその辺りの特権商人の税だもん。南蛮貿易とかないんだよ。勘合貿易だって中断中。明では海禁令が始まったばかりで、南蛮船もまだ到達していないんじゃないかね。つまり、貿易ウマーは存在しない。
国友? 堺? なにそれって感じです。堺は勘合貿易の時の港に相当するので、あるにはあるけれどたいした規模ではない。今は中止中だしね。
それと、兵農分離……無理だよね。だって、年中戦争しているから常備軍の規模が必要なわけでしょ? いまは応仁の乱以前だから、むしろ、武家政治のしくみを整える事と、足利将軍家の権威と直接戦力を充実させる政策をとらないといけないよね。
足利義尚……つまり俺の孫、駄目次男の長男が自分で軍を率いて六角氏征伐に向かって風邪ひいて死んじゃったけどさ、そういう事も手掛けないといけないんじゃないかと思う。
恐らく、義教の歴史的な行動をトレースしつつ、早目に子供をたくさん作って尚且つ、将軍家の権威を高めつつ今の支配体制を崩さない方法を色々試して見る必要があると思うんだ。
赤松君の処遇は追々考えるとして、先ずは先立つものを用意しないといけない。今はみっちゃんのポッポに京の税金が流れ込んでいるはずだからね。直ぐに取り上げるのは芸が無いから、後で命と領地丸ごと召し上げるまで貸しておくことにするよ。
内側のポケットから外側のポケットに金が動いただけ。なに、大したことはありませんよ。