第七十九話 またね:上杉憲実の子『周泰』を呼ぼう
第七十九話 またね:上杉憲実の子『周泰』を呼ぼう
信濃守護小笠原政康から『持氏が村上氏と共謀の疑いあり』との連絡を受けた。持氏討伐と連動して処分する方が有効なので「ちょっと待ってて」と伝え自重を促している。
武田信重君は現在、京にいる事になっているんだが、宇陀郡に滞在中である。甲斐守護の前に宇陀の分郡守護にして『甲斐守』に任官してやったらとても感激していたな。甲斐守は一つしかないから、逸見某のような庶流が甲斐守に任官する心配はないのだよ。
なんとか伝手をたどって信濃と甲斐から『牧』を運営できる人材を集めて貰えたようで、この夏から、本格的に活動し始めている。若い牝馬と体格の良いある程度年を取った馬を引き連れて宇陀に向かっていった。
二三年すると、宇陀馬が京を席巻するということだな! 俺は、宇陀馬にしか騎乗しないと決める。すると、プレミアムが付いて高く諸侯が買うようになる……と良いね。直接見に行けるし、市に出すのも東国よりは楽なので人気が出るんじゃないかな。
「しかしながら、一郡の分国守護に『甲斐守』を賜るとは……」
「はは、持氏も腹立たしく思うであろうな」
満済さんは苦々しそうに口にするが、若手はしたり顔である。どの道、彼奴とは相並び立つことは無理だからな。てか、遠い親戚が将軍を同腹弟から奪うとか……どうして考えつくのかね。
――― 自分の血筋に頼っている分際で、他人の血筋はガン無視かよ。
そういえば、円満に嫡子今川範忠が後を継いだというのに、富士氏・嘉納氏が範政のお気に入りであった千代秋丸を担いで蜂起したのも持氏の策謀なのだろう。策謀していないと死んじゃう病気なんだろうか。
足利義昭もそうだったが、治める領地や領民がいないと、やる事が対立を煽って争わせることぐらいしかないんだろうな。はた迷惑な存在だよな。本来、東国を安定させるための鎌倉公方が不安定要素をばら撒いているって存在意義を疑われるとは思わないのだろうか。思わないんだなこれが。
遠い親戚より実の弟だろ? 阿保の持氏にはそれが分からんのですよ!
歴史上、鎌倉公方の永享の乱に斯波氏の守護代までしか中央の戦力は参加していないが、この歴史軸では……勿論俺が出る。一万くらい直卒しようかな。練兵兼ねてさ。あれだ、秀吉の小田原攻めのように子供や奥さんも連れて行こうかね。
計画建てないとな、今から楽しみでしょうがないぜ☆
建長寺や円覚寺の禅僧で、関東の有力国人の子弟はいないのだろうか。是非、こっちに招きたいものだ。調べさせると、関東管領 上杉憲実の息子のうち三人が鎌倉五山の僧となっている。このうち一人くらいは……話に乗ってくれぬものかと思うのである。
早速、義郷と教佑に問うてみたところ『周泰』という者が良いという。
「理由を聞いても良いか」
「周清殿は法名こそ名乗られておりまするが、半ば還俗されておりまする。子もおられます」
「法興殿はあまり優れたお人柄ではないと見受けられまする。周泰殿は末弟ながら憲実殿の足利学校の育成にも尽力され、人望・学識共に優れた方だと評されておりまする」
これって結構大切なんだよな。血筋と人望を兼ね備えた……禅僧ってのが欲しい人材なんだよ。どっちかだけなら、京に掃いて捨てるほどいる。
「ところで、叡山の件いかがなさりまするか」
「飯尾殿がお困りの様子」
「かまわぬ、幕府より寺社優先の奉行人など、困れば良い」
性懲りもなく再び十月に強訴に及んだ叡山は同じように打ちのめされ、ヘイトはお互いに高まる一方だ。まあ、どっちか死ぬまでというか、お前ら完全逆恨みだからな。持氏の書状、憲実経由で手に入ってるんだからな。もしなくたって、つくりゃいいんだよ証拠なんてものは。
どっちが上か下かはっきりさせないとな、叡山も鎌倉もさ。
「両方なくていい気がするのだが」
「……叡山は小庫裏が大切でございます。平安の京が起こりましてからの様々な知啓が残されております」
「だが、近年は欲と我にまみれてばかりではないか。確かに、叡山の存在は京の生活に必要な米や金を循環させるために必要な存在ではあるが……叡山でなければできない……という事でもない」
実際、徳川幕府は用いなかったし、インフレ経済をコントロールできるほどの能力をこの時代の政府は持ちえないしな。起こったら困るしかない!
だが、畿内を将軍直轄領で抑えてしまえば、それほど困難でもなくなるだろう。江戸幕府との差異は金座銀座のようなものを用意できるかどうか、あとは堂島の米相場くらいか。蔵米制度は導入する事もないから、そこまで問題にはならないだろう。
江戸の人口は百万と言われているが、その半分が『武士』という歪な都市だからな。その生活を保つために町人町があり、様々なインフラを整えたわけだ。まあ、令和でも変わらないけどな。
結局、この年も良く分からないが叡山が「ごめんなさい」をして年末を迎える事になったんだが。許す許さないで宿老が強硬に主張するので俺は「自邸を焼いて本国に退去するといいよ」とアドバイスした。
「誰の天下なのかよく考えるがよい。影で帝と大樹に反抗しているような勢力と、それを支える者たちがどんな末路を見るのかをな」
宿老たちはお互いに目配せをし、ソワソワしていた。トイレが近いのは寒いからか歳のせいか、心当たりがあって落ち着かないかのどれかだな。
これにて第七幕終了です。次幕は『和賀大乱』となります。気になる方はブックマークをお願いします。
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆⇒★★★★★】で評価していただけますと、執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします!




