第七十八話 眠れぬ夜:九州管領戦死す
第七十八話 眠れぬ夜:九州管領戦死す
今年の初め渋川満直が少弐一族と戦い戦死した。え、誰っていわれると少々切ないのだが、 九州探題兼肥前守護だよ。対馬に逃げた当主を迎える為に頑張ったらしい。
六月、少弐嘉頼の姿が筑前でみられ、大内と戦ったと報告も着ているのだが、当代の九州管領は渋川教直……偏諱を与えたが弱冠十歳だ!!!
どないせいっちゅうねん。
遣明船が戻ってきて「うえーはっは、儲かったにだ」と誰かが嘯いているの聴いちゃったのだろうか。少弐は博多の商人や対馬の宗氏と密貿易で頑張ってくれ。その時は、倭寇ということで討伐してやろうかと思う。
そういえば、筥崎社が燃えたってよ☆ 筑前国一宮、宇佐八幡宮、石清水八幡宮と並んで三大八幡宮というらしい。大友と少弐に修繕できるか否かで筑前の主が誰か決まると思うんだよね。きみたちに直せるのだろうかね?
幕府と大内で金出して修復してしまえばいいんじゃないかな。だれか、適当な所縁のある奴いないかね。
「大内の身内が相国寺におりまする」
『義郷』が教えてくれる。まあ、俺も調べてはいたんだが、顔見知りである方が話をしてもらいやすいだろう。俺はさっそく、義郷を相国寺に送り出し、『盛蔵主』と号する大内持世の弟を招くことにした。
この男は、大内持世の二人の弟のうちの一人で、還俗して『大内教佑』と名乗る事になる存在だ。このまま大内に戻すと直ぐに前線指揮官を任され何年か後に戦死してしまうので、それは辞めておこうと思うのだ。
「これからは『教佑』と名乗り、大内と幕府を繋ぐ橋となれ」
「畏まり申し承りまする」
という事で、坊主の近習更にゲットです。
ついでに、持世と跡目争いを起して敗死した持盛には二人の息子がおり、在京中であるので、一人を僧にすることにした。本来は『大内教幸』を名乗り、何度か反乱を起こす男である。後年、『道頓』を名乗る、何年か一度ダイブで盛り上がる地名と似ているのだが関係あるのだろうか。
「上の甥は頭脳は明晰でございまするが、いささか才に溺れるところがございます。お手元に置いていただき、少し鍛えて頂ければと思いまする」
叔父の『盛蔵主』から見ても、危なっかしいところがあるようだな。
渋川の当主も少年であり、少弐も年若い当主であるから、少し状況を動かさない方が良い気がするのだ。討伐は一時中止し、現在大内が抑えている博多の街を確保する方向で考えてはどうなのだろうか。
打ち払うたびに舞い戻る蠅のような存在なんだろうな……少弐。
西を落ち着かせる前に、畿内と関東が俄かに騒がしくなってきた。駿河遊覧で顔を合わせずじまいであった足利持氏が再び蠢き始めたようだ。
京に『叡山が持氏の依頼で、義教呪詛の祈祷をしている』という噂が流れ始めている。黙っていれば調子に乗るであろうし、詰問すれば「やってねーし。てか、証拠あんだろうな?」と言い返されるのは目に見えているんだけどな。
何もしないわけにいかぬので、近江の六角・京極に依頼し、叡山を包囲し兵糧攻めにすると同時に、寺領を接収し申し開きが出来なければこれを預かるという事にした。この辺りがきっかけで寺領の横領が始まるのかも知れないなとは思う。まさにマッチポンプな俺。
「暑いのに、よく神輿なんて担げるものよ」
「大樹、今少し御下がり下さりませ」
鴨川に涼みに来たつもりだったんだが、叡山から神輿がやって来るというので見学に来ています。頑張れ七番組長槍隊!!
馬借どもを叩きのめしたのと同じ要領で、穂先の無い長柄で神輿の担ぎ手を容赦なく叩きのめすのが気持ちいい。神輿が暴れるのを見に来た京童どもがやんやの喝采を浴びている。
――― 叡山ってやっぱ嫌われてるんだな。元天台座主として胸が痛い。
「貴様ら!! 神輿にそのようなことをすれば、禍が降りかかるぞ!!」
はい、流民上がりの長槍足軽兵にこれ以上の禍って死ぬことぐらいかな?恵まれた環境で生きてきた下級僧侶らには、生まれ育った故郷を石もて追われ、喰う物もなく死にかけた経験なんてないからそんな温い事が言えるんだろう。
「馬鹿者!! お前らが担ぐ神輿を落す方が幾倍も禍が降りかかるであろう。それ、もっと強く叩きのめすがよいぞ!!」
「「「「ははぁー!!!!」」」」
半円状に囲み、三間半の長柄で糞坊主どもを滅多打ちにする。何人かは意識を失い昏倒、痛みで蹲る者もチラホラ……すでに神輿を担ぐもの、周りで気勢を挙げる者も半分ほどになっているだろうか。
「それそれ、大樹を呪詛するだけでも大罪ぞ! 神意を騙り京や帝を騒がせることも大罪!! 大祓じゃ!!」
「鬼は外!! 鬼は外!!」
「京から出ていきやがれ!!」
やがて周りの観衆から石まで投げつけられるようになり、神輿は回れ右をしてお山に帰っていきましたとさ。めでたしめでたし。
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