第七十四話 舞宝夢多運:馬借と馬産地
第七十四話 舞宝夢多運:馬借と馬産地
明使節船の到着は三か月遅れの六月となった。暑いよね、風まかせは中々大変です。
今度、『唐船奉行』という役職を設けるんだ。所謂、外務大臣のような役職になるのだが、今回の遣明船は俺の近習で赤松一族の『赤松播磨守満政』が調整役を担ったんだな。
この男は、赤松庶流の出身だがまあ、赤松なんだな。なので、調子に乗せると面倒なことを引き起こすのはみっちゃん同様。山門騒動の際も、飯尾某と同列に非難の声が上がった奴なんだよ。
あれだ、営業成績がいいからって妙に自分の影響力を過信する営業マンみたいな存在だな。ウザいんだが、赤松満祐が嫌そうな顔をしているので重用しているふりをしている。
赤松円心以来の宗家の欲しがる『播磨守』の官位も合えて、勘合貿易の仲介のためにこいつに与えたのは、まあそういう配慮でもある。赤松満祐は領国経営で手いっぱいだから、庶流の赤松に頼んで、兵庫の湊なんかの手配を任せたんだが……なにか?
兵庫の湊は……将軍直轄領にしてから考えたい。加古川より西は赤松庶流、東は直轄領という感じだな。だから、今の段階で満政を優遇しすぎるのは本人も勘違いするので良くないなと思う。
最近、近江坂本の馬借さんたちが延暦寺含めて大人しいのだが、嵐の前の静けさと言うやつであろうか。それも一つなのだが、実は、坂本大津の利用が減り、伏見を利用する者が増えている何でだろう?
答えは……街道整備したからです☆
伏見のキャパを拡張中なんだが、川舟で若干遠回りだが琵琶湖を抜けて宇治川経由で伏見で荷揚げ。大和路を馬でなく、荷車で口入屋で雇った人足を使って運び入れる方が安くて確実に届く。
手間賃を運んだ荷の一割から一割五分刎ねる近江の馬借と比べ、桔梗屋経由の人足は半分程度で運んでくれる。ごねないしな。
故に、一時期の気の強さも俺の足軽長槍兵にぶん殴られ、街に火を掛けられ、園城寺に放火した奴らの首を差し出させてからすっかり意気消沈なのだ。
そういえば、年末に加茂の河原に五十人分の首を並べて、立札をしておいたよ。
『この者たち、幕府に不正を訴え、罪に問われた者たちの過料が少ないと沙汰に文句を言い、其の言に同調しないという言いがかりをつけ園城寺に放火を行った賊徒である。幕府を愚弄し、関係なきものを襲った罪は極刑に値する。幸い、叡山の衆徒がその罪を問い、自ら首を差し出した者であり、
誠に是々非々を弁えた配慮である』
幕府の沙汰に暴力で反抗する者は『賊』であり、その身内ですら死罪を適当とし、自ら罪を償わせたってこった。俺が殺したんじゃないからなアピールです。悪御所じゃないよ☆
俺が悪御所なら、あいつら悪馬借だし、悪叡山じゃねぇか。
そして、今一つ。畿内に限らないが、馬産地が東国、信濃・甲斐・上野・武蔵に陸奥あたりに限られている故、とても馬の価値が高い。馬借どもが調子に乗っているのは、バブル期の頃の運送屋みたいなもんだな。
物はあるが、今ほど宅配業者が普及していないので、トラック持っている奴が強気で値段設定できたんだよ。今じゃ考えられないけどな。
なら、自前でトラック否、馬を育てればいいじゃない?
幸い、人が住まなくなった『宇陀郡』という山奥の行き止まりの場所があります。そして、甲斐守護家の武田君は甲斐の国に赴任できずに待機中なんだよ。
――― だったら、宇陀郡に武田の家を置いちゃえばよくね?
武田信重に馬の世話ができるわけじゃないが、彼に縁のある馬を育てることが出来る者や、牧を運営できる甲斐や信濃出身の者で移住する者を募ればいい。今の甲斐を実効支配する武田庶流の逸見氏と反りが合わない者たちもいるだろう。
それに、口入屋で人を募集してもいいし、経験者が存在するかもしれない。可能であれば、丹波あたりでも馬の生産を可能にしたという気はする。京の後背地であるし山がちな地形だから可能性はあると思うのだ。
仮に、甲斐守護に復帰したとしても「宇陀郡分国守護」として次男以下に与えるのも悪くないだろう。
という感じで、畿内に馬産地が生まれれば、関東や奥州に対して一定の抑止力も発生すると思われる。自衛隊が自主的に戦闘機や戦術システム、ミサイルや管制システムを開発しているのは、米国に安全保障を完全に握られない為の一つの方策でもある。
どこぞの国のように、中距離ミサイルや対地ミサイルに関しては米軍の弾薬庫で管理されていて、使用の際には米軍の使用許可が必要となっている事を考えると、正しい選択な気もする。
馬の産地を畿内に確保するのは割と大切なんじゃないでしょうか。




