第七十三話 波浪波浪:遣明船が帰ってくる
第七十三話 波浪波浪:遣明船が帰ってくる
さて、明から提示された貿易内容は、以前の内容からするととても少ない内容に制限されていた。当てが外れちまったよ。
明は銀を国内で取得できない為、海外から輸入していたんだな。それでは、経済の拡大に銀の増加量が追い付かなくなった。それで、銀貨銅貨を廃止して、紙幣の流通に切り替えるようにしたようだね。
銀や銅を海外から輸入する事が気に入らなかったというのもあるみたいだが、大国としてのプライドだとしたらどんなもんかと思うのだ。
その昔、オイルショックの後くらいにアラビアのとある国の外相と日本の経済界の人が話した時のこと。「日本は石油が取れないから困る」と伝えた時に、外相はこんな事を答えた。
「日本には世界が欲しがる自動車や家電製品、文化や歴史が沢山あります。日本でしか作れない工業製品も沢山あります。それに引き換え、我が国は石油しか採れないのです。そんな中で、日本が石油まで取れてしまったら、私たちは何を売れば日本の物が買えるというのでしょうか」
という話だ。日本が欲しいものを売り、自分が欲しいものを日本から買う。それが貿易なのだが、『朝貢』という形をとっているので、それも出来ないわけです。
使節が寄越した親書には、朝貢ありがとう、また来いよ的なコメントが記載されていたのだが、その他に貿易を制限するというか、条件付けする内容が記載されていた。曰く……
(1)遣明船の入貢は十年に一回とする
(2)人員は三百人に限る
(3)船数は三隻とする
(4)刀剣の積載量は三百を限度とする
なんて制限がある。なにこの縛り。やたら『三』が続くし。
一応、話は聞くだけ聞いたんだが、あれだな、プレゼン用の資料で、恐らく上の意向に合致した物を書き連ねたもんだろうな。
――― だって、現場でこんなの確認するわけないだろ?
会社でもそうだが、独裁的な企業のトップが『指示』という名の命令を出すと、下は必死にやるか、やっているフリをする。
上見て仕事しているだけの、生まれとコネで上に行けるやつは無難に部下に指示を丸投げするし、下のことが分かっている奴は、適当に流して「やっときましたー」って報告書だけを出す。
これはその類のものだと……まあ、思うわな。
歴史的にも、この二十年位後に出た宝徳の遣明船は九隻だった記録が残っている。行った先でなんか揉めたみたいだけどね。
俺はその時考えた……これ、それぞれ別の国って事で朝貢させればよくね?
「足利」「大内」「細川」「大友」……全部別の『国』って事にしようじゃないか。日本国内は将軍の許可制。で、税金として利益の二割幕府に収めさせる。どう? 悪くないんじゃないかな。取締るより管理して利益を享受するほうがお互いの為だよね。
で、これには続きがある。
明から使節が漏れなく付いて帰ってくる。この時に、同じ「京」に迎えるのは無理がある。時代劇のセットの使いまわしじゃないんだから。
なので、大内は山口、大友は博多。細川は堺を大々的に再開発して自分の国と名乗った場合の「京」を作り出してもらおうと思う。
何なら、「今川」もそうしてもいい。
そもそも、琉球王国って石高二十万くらいの国なんだから、日本の大名クラスなら余裕でそれを上回る規模の国を作れるわけじゃない?
貿易で儲けたい? ならば、一国の京と呼べる街と人の賑わいを作り出してみせろと……動機づけをしたい。
別に向こうの作り上げたルールに則って仕事しているだけだから、何も問題ないよね。そういうこと考えろって事じゃないのかこれは。
二年前に琉球経由で「代替わりしたなら挨拶に来い」と言われ、永享四年に久しぶりの遣明船ということで、幕府のみならず、大名寄合船を加えた大船団で出港したものが、五隻の明使節船を伴い今年の三月に兵庫に到着すると予定されている。
思えば、遣明船の復活を決めてから、九州の戦が激化したんだが……今後どうするかは同時に課題なんだよな。
とりあえず、大内は山口で、少弐と大友は博多で稼ぐように棲み分けする事が良いのだろうか。渋川……無理だな……守護を委ねられている肥前も統治できていないのだから。人間、欲が絡むと尋常じゃない力を発揮するからね。少弐や大友には多分敵わないだろうな。




