第六十九話 その日が来るまで:猿楽と斯波君
第六十九話 その日が来るまで:猿楽と斯波君
さて、もっちーこと細川持之の「丹波半国直轄領に」という発言は宿老どもに大きな影響を与えている。まあ、言い出しっぺ以外は何も話していない。そりゃ、言えないよね……
例えば、山名は十カ国に復帰する気満々であり、それが宿願であるから口にする事が当主として禁句であろう。畠山も能登を弟に譲り、河内・紀伊・越中の守護に過ぎず、その辺りも「管領なんてもう無理」という発言に繋がって来るのではないかと考えている。
畠山の河内・紀伊の当たりが宗教勢力も多く、雑賀庄のような海賊に近い惣村も存在するわけで、それほど必要である地域でもない。河内の大和と隣接する地域で将軍領が欲しい気がするが、まあ、先々の義就登場までお預けでも構わない。
赤松は……三カ国の守護に過ぎないので無理がある。一色義貫の丹後・若狭・三河・尾張知多分郡守護は若狭を取上げて、三河は……と考えていると信長上洛前後の一色になってしまうので凡そ四職とは思えない規模になってしまう。
――― やっぱ罪を被せてってそれはかわいそうな気がする。
一色君は赤松ほどじゃないけど、戦強いからね。下が育つまでは今のままで行こうと思う。
斯波っちは……考え中だな。俺が目を掛ける朝倉教景は、持氏の反乱まで台頭しないしな……その前に六角を締めあげるかな。
長享延徳の乱と称される「六角征伐」は近江国内の山門領の横領などに端を発する将軍親征なのだ。時期的には五十年ほど下るのだが、横領をしていないわけがないので、今でも実現可能だろう。
あ、義教ひらめいた☆
この後、山門騒動が起こるな。そこで、近江守護六角氏とその被官である国人共が近江の山門領やその他の御料・寺社領を横領しているということがわかる。
山門の行為は罰せなければならないが、その原因となっている近江の国の横領もまた正さねば片手落ちの処罰となるだろう。そうだよね。
故に、お手紙を書いて期日を切って「横領した物を返せ」と諭す事にしよう。そうしよう。そして、「やれるものならやってみろ」という話になるので、俺は時間をかけて説得する。
先ずは伊賀甲賀の奴らに「近江は将軍直轄領になるけど、直臣になりませんか?」と勧誘を行う。この辺り、妙椿教利が上手くやるだろう。謀臣っぽい雰囲気がある。俺の中では。
で、勿論、近江の中でもリクルートをして、京極は守護半国残しても良いですよと北近江をある程度任せるつもりでさらに勧誘。先ずは六角を孤立させる。
佐々木道誉の家系で、鎌倉幕府の頃からの守護、さらに言えば、足利に協力してやった同盟者であるという事で重きをなした家柄だろうが……赤松・山名ほどではないが独立心の強い守護ではある。
伊庭ちゃんとか守護代だけど最近落ち目だから……勧誘できないかな。
「上様、大和の仕置、これで済みましたでしょうな」
満済さん、ご無沙汰しております。そろそろ引退してもいいんじゃないでしょうか。〇長の野望だと「あ、そろそろ死ぬから兵士外しておこう。消えちゃうと嫌だから」みたいな存在だ。
「武衛は如何思う」
「……はっ、暫く、時間がかかりましょう」
斯波義淳、前管領で色々あったが今はめっきり力を失くしている。嫡子義豊が夭逝したからかもしれないが、体調もすぐれないよう見える。既に弟である後嗣持有と重臣の甲斐氏に家政を委ねている。
斯波氏の後嗣問題に将軍が介入し、もう一人の弟瑞鳳を還俗させて、斯波義郷として家督を相続させたりするのだが、そんなことを俺はしない。この件も応仁の乱に導く一つの要因に繋がるのだが、他を弱めるのではなく、将軍家を強化する方向で動かすのが吉だ。
それに、六角討伐には斯波君は活躍してもらわねばならない。向こうが自分の先行きに不安を感じているのなら、任せておけと安心させ恩を売る方が効果がある。
「そなたの体が戻るのも時間がかかりそうだな」
「……でしょうか。次郎の事……お頼み申し上げまする」
「ああ、武衛家が盤石でなければ幕府も立ち行かぬ。左衛門佐には格別の期待をしておるのでな。是非とも将たる器を見せてもらいたいものよ」
人間心が弱くなると涙もろくなるのだろう。散々、俺を陰で馬鹿にしていたこいつもすっかり心を許している。え、先日、管領退任後すっかり疎遠になっていたのを向こうが猿楽興行にかこつけて頭を下げてきたから受け入れたまでだな。流石に『大和親征』の話を聞いて、腹の底から冷えたんだろうさ。
――― 容赦しない性格だってな
俺が狩猟の禁制を発したにも関わらず狩猟を止めなかったり、しょっちゅう我儘を言って斯波氏の宿老である甲斐氏には管領の「器に非ず」と言われる残念な男であったからな。小心なんだよこいつは。だから早死にすることになったんだろうな。
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