第六十八話 善き時悪き時:大和仕置
第六十八話 善き時悪き時:大和仕置
さて、大和の国は一国将軍直轄領となった。興福寺の寺領は今維持できている分は本領安堵、他の国人に関しては『沢』『秋山』を除いて本領安堵とした。
で、問題は守護代を誰にするかなんだが、今回の件で山城と大和が将軍家の直轄領となった。勿論、守護の影響下にある分だけだが。
北山城に関しては俺、南山城は斎藤教利を守護代とすることにした。これは、南山城において新式の「槍足軽」を編成することも目的としている。南山城は国人一揆を行うほど惣村が進んでいる。故に、各惣村毎に傭兵として二十五人組を抽出しようと考えているのだ。完全に……スイス傭兵の編成だな。
スイス傭兵の精強さというのは、専業軍人であると同時に、同じ出身地の者同士で編成された部隊単位で雇われることにもある。同郷・昔馴染み同士で出征し、それが継続していく。旧軍の郷土中心の徴兵制も似ているかも知れない。青森の連隊は粘り強く、熊本の連隊は機動力と瞬発力・応用力に富んでいるみたいな感じだな。
山城の国人出身の幕臣よりは外様の方が指導しやすいと思ってそうしたわけだ。家柄は守護代の息子だから問題もないだろう。
北大和は守護代を筒井氏にする。まあ、行きがかり上だが、その後に大和は『副将軍領』とするつもりなので、その上の存在がいることになる。俺の子供の誰かを副将軍として配置するつもりだ。まあ、畠山義就あたりを軍監に付けてやれば、相応に働くだろう。
南大和は『越智氏』を守護代とすることにした。え、斬首じゃねぇの?って思ったあなた。殺すより、責めを負わせた『秋山』『沢』が殲滅されたのに、『越智』だけ守護代になったというのは……おかしいと思われると考えませんか。生かして使い潰すのが吉。死んでも構わないしな。
これは、朝倉義景が死んだ後の信長の越前の仕置きをイメージしている。反乱が起これば越智の問題だし、戦で動員すれば汚名を晴らすために筒井同様、先鋒を必死に努めなければならないだろう。
伊賀や播磨に攻め入る予定の俺からすれば、必死に十年位働いて擦り減ってくれる存在が好ましいのだよ。
「……見事な采配でございました」
「いや、錦の御旗のお陰であろう」
宿老会議の冒頭、山犬が皴の深い顔で俺に賛辞をくれるが、それなりに俺も戦はしてるから、ネット上とかスマホの中で。まともに戦うと高くつくから、寝返らせたり、引き抜いたり、罠に欠けたり持久戦で心身削ったりすると兵を損なわずに勝てるじゃんね。
「戦場に鳴り響く太鼓の音も、見事でございますな」
「左様。味方の戦意高まり、敵の士気がみるみる落ちるのが分かり申した」
おう、今回あまり激しい戦いの無かった一色と赤犬も『太鼓』の効果は聞いたみたいだな。今後は、太鼓の音と旗などを使って指揮しようかと思う。城を囲んで、夜通し太鼓をたたくとか……こっちも寝れねぇか。
引くときは鐘の方がいいかもな。シャンシャンしている方が喧騒に巻き込まれにくいだろうか。
先ずは、今回の戦争に『参加していない』大和の国人共から集めた『矢銭』を使って短い距離だが奈良と宇治の間の街道を既定の長さで整備する。それ以外の街道はぼちぼちと勧める予定だ。
大和は国の歴史が古い事もあり、また盆地の中で遷都を繰り返した時代もある事から、律令制時代の街道がよく整備されている。なので、慌てて整備する事もないのだ。
木津川に橋を架けてそこから奈良までの街道を整備すれば、基本的な行軍速度にそれほど差は出ないだろう。そもそも、行き止まりだしな。河内半国が将軍側近の畠山庶流の守護国になれば東西の街道も整備する余地もあるかも知れない。が、今はどうだろう。
「上様、折り入ってご相談がございます」
もっちーこと管領の細川持之。このタイミングと言うと、例のアレだな。
「この度の上様の采配を拝見して確信いたしました。どうぞ、丹波半国をお納めください」
「……守護を返上する……ということであるか」
「はい!」
もっちーとは取引をした。赤松討伐後、美作は山名に与えるが、備中半国を細川に与えることにする代わりに、京に近い丹波半国を先渡しで寄越せと伝えてある。
赤松討滅は十年はかからない。播磨東半分を直轄領、西半分を赤松の庶流に渡し、美作・備前半国を山名に与え、備前半国を細川に与える。という赤松宗家解体計画のプレリュードがこの提案なのだ。
これは、管領にかかる負担を軽減する意図もある。元々軟投派のもっちーは戦下手であるし、数は揃えられても野戦で勝てるかと言うと微妙だ。特に、畿内の兵は弱いというか、戦う気が無い。なら、俺にさっさと寄越して、協力者として振舞った方が山犬赤犬の風除けになるだろうと、吹き込んだのだ。
さて、お前らはどうするんだ、他の管領と四職はさ。
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