第六十六話 大和路を下って:大和親征
第六十六話 大和路を下って:大和親征
大和への親征は、永享五年の春を飾る一大イベントです。木津川に橋が架かり、これからは気軽に大和国へも足を運べるというモノです。
今回の主なメンバーを紹介します。幕府の番衆一番・五番・七番隊の動員五千人、先鋒が一色義貫の三千、そして赤松二千、山名二千、細川五千です。
他に、河内の国境から畠山三千が侵入、伊勢との国境に土岐持頼が三千の兵で展開する。高野山方面は仕方がないが、伊勢に逃げ込む者たちを捕らえさせる目的だが……
「伊勢路を……でございまするか」
「道沿いの木々を切り倒し、街道を塞ぐように何百何千と並べ立てる。人も馬も容易に通過できぬようになれば、この集落も容易に森に変える」
「……人が住めぬようにするわけですな」
その通りです。米軍がベトナム戦争で村落を焼いて回ったが、あれは、その後背に無数の村落を抱えている状態では限界があった。今回と全く異なるだろう。
『秋山』『沢』氏に従属していた村落全て、朝敵として殲滅するという意思表示だからな。まあ、こんなの人が沢山住んでいる場所じゃできない。あくまで方便であり意思表示だ。
燃やした家が人が住まぬ間にどの程度で森に帰っていくか。福島原発で人が住まなくなった周辺地域、チェルノブイリのその周辺が森に戻るのに十年とかかっていない。熊野に近いこの地域なら更に早いだろう。
人の痕跡は消え、森に飲み込まれる。抵抗する人間が住まう場所も、隠れる場所も消えてなくなる。
山の中では米も塩も手に入らない。『交易』しなければ山の中で自給自足など一人二人ならともかく、集落を作るほどの人間を支えることが出来ない。たしか、縄文期の日本の総人口は二万人程度だったはずだ。今は千五百万人を数える。ビバ定住農耕生活。
狩猟採取生活で幕府に抵抗できるような能力を維持できることはない。どんな阿弖流為なんだよお前ら。
山野に入り込んで討伐するなんてのは、楠木正成の赤坂城攻めのように苦労が多くて功が少ないのでやりません。今回は「総力戦」つまり、本拠地ごと磨り潰すので結果として国人領主として存続できなくなることになります。OK?
大和に入り、先ずは興福寺に本陣を置く。『箸尾』と『越智』を最初に討伐する為だ。共に興福寺配下の国人であったのだが、いつの間にやら興福寺の領を横領し自立しつつある。
興福寺が強気に出れていた理由は、藤原氏の氏寺であるから。さらに言えば、摂関家や殿上人のほとんどが藤原氏の係累であり、藤原氏から『破門』することが出来る興福寺は強気に出ることが出来た。
――― 俺んちは藤原じゃなくて源氏だから関係ないよね?
日野さんちは藤原の庶流の家だから関係あるかもだけど、知らんがね。俺の子供たちは足利さんの子だから問題ない。宗重? 桔梗屋で働け。今まで何年も我慢してきたので、大和に関しては興福寺をはじめ好きに処断させてもらおう。
そして本陣には二旈の錦の御旗。今日このために拵えたものである。
『将軍親征』であり『朝敵討伐』なのである。大和とその周辺の国の主だった国人と寺社には将軍からお手紙が出されています。内容は簡単に言うと……
『南朝を騙る賊が帝の故郷に盤踞しています。今までは興福寺の顔を立てる為に委ねていましたが、最近は筒井君など直接幕府に仲裁を求める者が後を絶ちませんし、幕府の仲裁を守らぬ者や、南朝を名乗る賊に適時加わる者もいます。それは『朝敵』と言えましょう。
帝の御心を安んじ奉る為、今回は久しぶりに将軍直々に軍を率いて賊を討伐します。何度も許しているうちに勘違いさせてしまったようなので、今回は国人の一族を撫で斬りにし、幾つかの郡は完全に焦土にします。逃げ出した者たちをかばい立てした場合、同様に朝敵と認定し討伐の対象となるので注意してください。
また、大和の地侍どもは信用できないので、筒井君以外は一切参加を認めないので、手のひら返しで参戦するのは迷惑なので自宅で謹慎していてくださいね。余計なこと、便乗した略奪など行った場合、これも朝敵と見なします。てか、お前ら基本的に全員朝敵だから大人しくしてろ
――― 征夷大将軍 従一位 源朝臣義教からの命令だぞ☆』
てなもんです。
「上様、興福寺の僧都どもが面会の願いを」
「……お前らも自宅待機。第二回大仏殿焼討大会がしたいなら構わないが、お前らの話を聞く理由はない。用があれば、討伐終了後、京に戻った後、書面で面会の希望を出して改めて出直せと伝えろ」
「ははぁ!」
なに飛び込みで会えると思ったんだよ。天龍寺とかだったら別だが、藤原さんちの寺の坊主とか完全他人だろ? 分を弁えろよな。
という事で、平城京にほど近い『箸尾』が先鋒筒井君と一色義貫の軍勢の攻撃により初日で陥落した。というより、『朝敵』認定されたことで従う地侍どもも巻き込まれてはかなわないと自主的に謹慎したようで、一族以外の兵が集まらなかったとみられる。
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