第六十五話 哀しいくらい馬借:長槍隊出動せよ☆
第六十五話 哀しいくらい馬借:長槍隊出動せよ☆
今日は『馬借』討伐にやってきました! 例の長槍百人隊と、番衆の当番組で、神輿を担いてウェイしている馬借どもを打ちのめします。
マッチョでデコトラ運ちゃん風の馬借どもが大いに気勢を挙げている。確かに、長い棒(穂先を外してあるのでロングスタッフ風)を抱えた如何にも流民風の男たちの列を指さし、大声で笑う者もいる。
「なんだ、あの乞食どもは!」
「長い棒を持って鳥追いの真似事か?」
いいえ、馬借追いです。お前らも、小汚さはいい勝負だぞ。
近江坂本の馬借以外にも、京の近辺には商業集積地である淀・木津・伏見・鳥羽、若狭小浜、越前敦賀、大和の生駒・八木に近江は大津も有力であった。義満親父の日吉社参拝に供奉した際には馬匹二百を提供している。また、年貢・関銭に対する強訴の際には数千を集める事も出来る。
恐らく、全員が馬借ではなく近隣の農民など影響下にある者たちも集めているだろうから、一向一揆のような数=戦力数ではないだろうとは思うが、その三分の一くらいの戦力なのだろう。数万石の大豪族・有力国人並の戦力と言ったところだろうか。
京で暴れているのはそこまで動員されているわけではなく、コンビニの駐車場で屯っているヤンキーみたいなものなので、大したことではない。神輿も、ちょっとヤンチャするついでに勝手に持ち出した者だろう。
斎藤教利の号令一下、数を増した流民足軽は前進を開始する。五列×五列の二十五人に一人の小頭、それを二組束ねて先任の小頭が五十人を指揮する。
その五十人を五組編成し足軽頭が指揮し、二組五百を足軽大将が指揮する。
今回の足軽大将は斎藤教利である。
流石に、整然と並ぶ長槍兵を前に馬借どもの空元気も消し飛ぶ。こちらはやるべきことがそれぞれ決まっている集団だ。正面から二百五十人の組が近づき、左右に別れた百人ずつが半包囲の体制を整える。予備戦力が五十人しかいないが、相手は非武装のヤンキーだから問題ないだろう。
その背後には、今月当番の五番組の奉公衆たちが様子を見ている。
勿論、状況次第では馬借どもを追い散らす為である。
「かかれ!!」
「「「「「おう!おう!おう!!!」」」」」
京の街に『懸り太鼓』が鳴り響く。ドンドンドンと音に合わせ、正面の二百五十人が前進を開始する。最前列の者は槍をやや斜めに掲げ、その背後の者たちは真上よりやや目前に掲げゆっくりと前に進み始める。
あれだ、機動隊が横隊で威圧するように前進するのに似ている。気勢を挙げたり、威勢のいい大声が聞こえるが、太鼓の音と整然と前に進む足軽の足音を乱す事は出来ない。
あと十間と言ったところで最前列の者も斜め上に槍先を持ち上げ、そして、馬借の少し手前で立ち止まると……思い切り撓った槍の先を雨霰と頭上に叩き落とし始めた。
「い、いてぇ」
「や、やめ、やあぁぁぁ」
二列目三列目の段列も穂先を前に振り下ろしながら、前列の左右に詰め密集し馬借を叩きのめしながら前進し始める。立っていられず、頭や顔を腕で庇いながら、背を向け、這いずりながら後退する。
槍を握り奪い取ろうとする者は、残りの槍足軽たちに滅多打ちにされ、突き飛ばされる。一人に五人十人で滅多打ちにされるうちに、それを見て恐れた者たちが後方から崩れるように逃げ始める。
だが、見逃してやるほど俺たちは甘くない。
「それ、狼藉者を捕えて縄をうて!! 一人つかまえれば一貫文を褒美でやろう」
周りを取り囲んでいた番衆たちが、褒美を目当てに盛んに馬借を取り押さえていく。この辺りは、バイトの足軽ではなく、固定給の番衆の仕事だ。
「「「「応!!」」」
どの道、捕まえた馬借どもに支払わせる罰金のようなものだ。当然、体には江戸幕府よろしく『入墨』を入れさせる。その費用も当人持ちだ。
芸州流にしようかと思っている。最初は「一」次に「ナ」、さらに重ねると「大」、最後には「犬」と四回目までは許すが、五回目は斬首刑にでもしようかと思う。
ただ殺すのではなく、段階を重ねて最後に「回心の余地なし」という証明を「顔」に入墨することでさらし首にしたとき分かるじゃん。そういうことって大事だと思うのだよ。
さて、この一連の神輿馬借騒ぎで二百人余の馬借を捉えることができました。勿論、顔面タトゥーに罰金一貫文で許してあげる事にしたヨ。ああ、なんて情け深い公方様なんでしょう俺。
え、近江坂本の馬借が賃料を上げたって? 知らんがね。その辺り、他の馬借との相場の兼ね合いもあるから抑止されるんじゃね。俺のせいじゃない。




