第六十二話 親(おーやー):家族の新年会
第六十二話 親:家族の新年会
目出度くもあり、目出度くもない新年。今年は、家族が増えて大変なのだ。え、そりゃ、去年の間に側室たちが娘を生んだからだな。良き事かな。
「……まあ赤様だからな……」
「本当に、今年は賑やかなことでございますな」
晴れ着の産着という謎のパワーアイテムを装備した赤ん坊がズラッと俺の前に母に抱かれて並んでいる。
俺の娘の「大姫」である真理子は三歳となり、それなりにお話をする事も出来るようになっている。
「ととさま、もちをたべなさりませ」
「いや、真理こそたんと食べて大きくなりなさい」
「……もうおなかいーっぱいにござりまする」
可愛い……デラ可愛い俺の娘。餅のようなほほに薄紅色がかった目元は正月らしく少し化粧をされているらしい。それをこするから……ニホンザルみたいなんだけどな☆
真理は弟妹が沢山出来たので、めちゃめちゃ『姉』を意識しているらしく、母や乳母たちの真似をして色々指図するらしく、大変微笑ましい。その調子で俺の代わりに将軍やってくんねぇかな……
じゃあ、俺の家族ラインナップを紹介するぜ!
正室正親町三条尹子……当然子なし。今は、真理と『大姫』について熱く語り合っている。まさに生まれながらの御台所!
「もちは皆平等に配らねばなりませぬ。贔屓はいけませぬぞ」
「……あい……」
内容は三歳児向けだ。おいおい、大姫の先輩として真理子を育てて貰いたい。日野家流派はたぶん、マザコンが育つからやめた方がいい。
そして、先任正室……旧御台……いや、日野宗子と太郎次郎。
「上様、今年もよろしゅうお頼もうします」
「おお。太郎次郎のこと、よろしく頼むぞ。今年は大和に行かねばならぬ」
「なにかときな臭いお話も伝わっておりまするが」
「帝の行幸前に、ちょっとした大祓を行うだけよ。南朝の亡霊も追い払わねばキリが無いからな」
まあ、宗子は相当察しているだろう。人の出入りも駿河から戻ってからこっち、慌ただしくなっている。桔梗屋……最近やれてねぇな。まあ、ほら大和が落ち着いたら街道整備の仕事も増えるから、また頑張らねば。
「上様、お正月から難しいお顔をされますな」
側室にして宗子の妹、日野重子。そして、次郎三郎の母。まあ、次郎三郎はのびのび系だな。兄が保守的で、弟が革新的って……尊氏直義兄弟みたいで危険じゃね? 高一族はいないからまあいいか。
「新年だからこそよ。あと十年、いや十五年で日ノ本を綺麗にするのよ」
「されば、太郎殿も次郎三郎も戦に出ずともすみまするな」
「そのつもりだが、どうなるか分からぬな」
重子は「それは困りましたね」と眉を下げて笑う。まあ、笑うしかない。
姫ばかり側室からは四人生まれている。まあ、同じ部屋だが下座の方に控えている。全員中臈、上臈が公家の娘とすれば、中臈は高位の武士の娘、ぶっちゃけ幕臣の娘たちだ。
新大納言局の産んだ子が一歳と少しで波留子
大納言局の産んだ子が芙美子
右衛門督局の産んだ子が永依子
小宰相局の産んだ子が笙子である。小宰相は歴史的には義視の母である。この世界ではどうなるか分からない。
一歳になるかならないかの女児ばかりだが、あと十年もすれば、管領家の嫡子か庶流の優秀な子供の許嫁になるだろう。生まれたときからというのは避けたい。元服するまでに死ぬかも知れぬし、声だけでかい馬鹿なら婿にはいらないからだ。
小姓・近習に人を集め、その中から婿を探すという事も公にするのも悪くないだろう。つまり、俺と積極的に結びつき協力するつもりのある家なら嫡子也跡を継がせても良いと思う子供を差し向けるだろうし、距離を取る、将軍の権力が高まる事を良しとしない者たちは子を送ってこないだろう。
そこで線引きをする事も大切に違いない。まあ、赤松と山名はいらんけど。どの道、滅ぼすつもりだからな。最初に『越智』次に『延暦寺』そして、『鎌倉公方』と適切に対応したならば、後は、死んでいく管領の跡継ぎ問題に介入し、その反応を見極めつつ、淘汰を進めるという方向だな。
万人恐怖ではいただけない結果になるだろうから、常に考え方は公表し、理解できるかどうかはともかく、先ず言葉で示す事にしよう。恐怖とは、未知や不可知な者に対してより強く感じるものだ。
自分たちの行いが『公』の精神が無く、『私』ばかりであることを思い知らせることが、今の世に欠けているのだ。中世と近代の違いは『公』の精神の有無にあるんじゃないのかね。
権利を主張するなら、まず義務を果たせ!! と知らしめて行こうか。




