第六十一話 阿夷を止めないで:殲滅戦の始まり
第六十一話 阿夷を止めないで:殲滅戦の始まり
中世の封建制度というと、土地所有に対する云々という説明に終始する訳だが、とても多くの様々なサイズの「支配」と「服従」の組合せで成り立っていると考えることが出来る。
例えば、現代社会において日本国の支配領域・国土において日本国の法律が適用されないのは……大使館や米軍基地などの「国外」認定される場所を除いて存在しない。
では、中世を考えたとき、それはどうなのかと言うと、かなり違うと思われる。え、だって同時代人の感覚が分かるわけないじゃないですか。天動説とか信じちゃってるし、西欧では魚は植物の一種扱いだし、東洋では蛙や蛇は虫の一種認定だぞ。漢字に『虫』が付くのはそれが理由だ。分からないよね?
さて、話を戻すと中世には誰に従うかを選択する余地がある。国人と呼ばれる農民を支配している層においてだが。
例えば、平安時代に自分たちが開墾した土地を守るために、中央の貴族に寄進し、貴族は『ここは田畑ではなく別荘です。稲? 花を植えているだけです』というロジックで別荘=荘園とすることで税金を国に払わず、それより安い金額を貴族に納め自分はその荘園の『荘官』になる事で実際の支配者としての地位を守ることに成功した。
貴族に武家の棟梁が取って代わると、「御家人」という将軍直接の部下になる事で、さらに支払う上納金を節約した。ついでに、守る者のいない近隣の荘園も自分の領地に横領する。
ここに、南北朝なんて時代になると、守護だ国司だ寺社だと支配者が複数現れ、その中で一番自分の都合の良い存在に従う事で利益を最大化することが出来るようになった。
――― そりゃ、『悪党』とか『国人』が台頭するに決まってるじゃんね。
それを許さなくしたのが、一円支配だな。その地域の支配者はただ一人の戦国大名という事になった。国人はその大名の「被官」になるか、滅ぼされるかの二択になる。寺社も独立した存在ではなくなる。あれだ、不輸不入の件が認められなくなり同じ法の支配を受けるようになる。特権の剥奪だな。
で、大いに争ったのが織田信長だ。そりゃ、根切に焼討しないと特権を手放すわけがない。尚且つ、元々の統治者じゃないから、かなり強引に意識を変えねばならなかったという事もある。
古い支配者を滅ぼし……まあ、最初は丁寧に組み入れていたが、最後の五年くらいは皆殺しに近いな。朝倉・武田・毛利もその範囲だったよね。家臣諸共皆殺しにしていた。許しても、最終的に処分コースだったよね。
俺が帝-将軍という一つの秩序・法により日本を治めようと思えば、その事を認めないと日ノ本という国には住めません! という認識を持たせ、それ以外の場所は、律令制の時代のように化外の地として討伐の対象として、再征服するしかないと思うんだよな。
京から遠い関東や九州、まあ、奥州はどうでもいいや。蝦夷と同じ貿易先くらいに考えておこう。言葉も違うしな。旧蝦夷地なので、アイヌと共通の単語がかなり多いんだよね「とうほぐ」はさ。
俺は『皇道の狗』として頑張ろうと思うんだよな。
春には大和に攻め入る。既に用意を進めており、来春には将軍親征を行うつもりだ。当然、錦の御旗を掲げて大和に入る。帝の故郷を蛮族から奪還するんだよ。
その上で、吉野まで帝をお連れするつもりだ。道の整備や戦後の仕置きが終わってからだから何年かかかるかもしれないが、それでも道筋を定めることが出来るだろう。
その後は、伊勢行幸とそれに付随する伊賀を経由した街道の整備を行う。近江はその後にでも伊賀を引きはがしてから色々するつもりだ。その前に、山門との関係をリセットしなければならないな。
義満親父の時代、叡山には『山門使節』という役職を設置し、事務方の叡山僧侶がこれに就任している。役割としては叡山の寺領における守護の役割を果たす事になる。
これは、幕府が日ノ本を一元的に管理する上で、叡山も治外法権の領域
として認めないことを示したものなのだが、過去の成功体験というモノを人は
中々捨てることが出来ない。成功体験のゴミ屋敷化だな。
山門は神輿を担いで『強訴』と言う切り札と自分が考えている行動を取る事がある。
その昔、治天の君であった白河院が『加茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの』と嘆いたというが、前二者は思い通りにならないのはわかる。賽の目が思い通りになったらそりゃ、いかさまだろ?
俺が分からないのは、たかが国の雇われ坊主が国の主権者である治天の君に逆らうという発想が分からない。それに、仮に神を祀り、それ故尊重しろと言うのならその神の末裔とされる帝のお気持ちに逆らう公務員の坊主は必要なのか……という事になる。
ようは、お前ら呪術界における京の警備員なんだろ? なんで雇われ警備員がオーナー一族の直系当主兼現社長に逆らってんだって話だ。
――― 普通『馘首』だよな。その首の上の飾り置いて、あの世に行けよ。




