第六十話 勝手に寂しくならないで:時代遅れの考え方
第六十話 勝手に寂しくならないで:時代遅れの考え方
大和南部、伊勢南部と街道で通じ吉野にほど近い宇陀郡に盤踞する『秋山・沢』の一族を討滅する計画を内々に宿老に伝えると、老害共が騒ぎ始めた。これだから事なかれ主義は困るのだよ。
「上様、一度許した者を討滅するのは如何なものでしょうか」
「……それだ……」
「何がでございましょう」
一度許したというのは、向こうが非を認め態度を改める前提で罰する事を先延ばしにしたのだ。つまり『執行猶予』だ。執行猶予期間中に再び罪を犯した場合、遡って前回と今回の刑罰を重ねて執行される。
つまり、反逆二回でもれなく死罪だ。何でわからねぇのかな。お前ら将軍と帝舐めてんだろ。
「以前に反乱を起こしたことに関してその場で罰しなかっただけではないか。格別の慈悲をもってだ。それを、奴らはまるで最初から罪などなかったかのように思っている。故に、何度も反乱を起こす。違うか」
「そ、それは……」
「なに、そなたらの今までのかじ取りを責めているのではない。古き者共はいまだに京の帝と吉野の帝がいる前提で考えている。自分たちが生まれそだった時代はそうであったからな」
人は時代の子というのはそういうことだ。少しずつ世の中が変化していく。生まれ育った時代の常識が変化しても、それに気が付くことができない。南朝なんてのはもう何年も前から存在しないのだが、それが存在した時の常識で判断し行動するのだ。
「二人の帝がいた時代、互いに対立する者同士が朝敵であったから、帝に対して弓引く行為が問題にならなかったな。今はそうではない。違うか?」
「「「……」」」
お前らもそうだよ馬鹿野郎。自分たちが許さずとも、相手側の勢力に寝返られると、-1じゃなくて+1から-1だからトータル-2減る事になるから大目に見てやって来たって時代が長く続いた。今は、ただの-1で、一度消してしまえば-1で終わるのだ。
それを、-2の時代の常識を当てはめるから何度も-1が繰り返されてこっちが疲れちまうし、勘違い野郎がいつまでも消えやしない。足利持氏とかその最たるものだろう。
「帝とその委託を受けた征夷大将軍、それを補佐する三管領四職が務める宿老の言も軽く考えているような夜郎自大な蛮族は滅ぼしてやるのが世の為よ」
「……それは……」
「ん? 簡単なことだ。日ノ本にはただ一人の帝と、その臣下の頂点である征夷大将軍が治める場所以外は天下でもなく日ノ本でもない場所であるということよ。なに、日ノ本の民を害する異民族を討伐するのは征夷大将軍とその幕閣の仕事であろう? 何か問題でもあるのか」
全員顔面蒼白である。許したからと言って罪が消えてなくなるわけではない。従わぬ者は日ノ本の民ではないので、討伐されるのは当然。
阿弖流為だったか、坂上田村麻呂の話を聞いて下った後、京で斬首されていたな。それが当然だ。帝に従わぬまつろわぬ民の王を殺さねば、いつまでも争いが終わらないではないか。
まずは『越智』そして、『鎌倉公方』を滅しなければただ一つの天下とはなりえないというのが、今の日ノ本の状況だろう。
「あやつらの見ている空と、帝と幕府が見ている空は違う空であるのよ。それを、有利になれば反乱し、不利になれば降伏するを繰り返すようなことが続かないと知らしめることに何の問題があるのだ」
だってさ、応仁の乱とか一向一揆で死ぬ何万、何十万の人間からすれば、秋山・沢の一族数百人の命とかどうでもいいじゃんね。住民は全員京で競売だけどな。
そのうち、赤禿や山犬も同じ道に追い込んでやる。
「う、上様のお言葉誠に至極にございまする。我ら宿老、上様と心を一にし、まつろわぬ者どもを討伐し、帝の御心を安寧にするため粉骨砕身する所存でございます」
「「「「……然り……」」」」
会議が始まる前に、仕込んでおいたもっちーの出来レーストークで審議は終了した。
満済さんと満家はどこか諦めたような遠い目をし、赤禿と山犬は少々青い顔をして引き攣っているようにも見える。斯波君は体調不良で欠席、一色は「やったるで!」と絶対殺すマン状態である。
あと、細川持之よ『兄貴、やりましたよ!!』みたいな表情でこっちをチラチラ見るのはやめろ! お前も出陣するんだからな。当代の管領だから当然だ。畠山に河内方面を塞がせ、筒井・一色を先陣に一気に大和を制圧、なんなら金剛峯寺にも挨拶しておくか。あと根来寺もな。
政に口を差し挟んだり、南朝を騙る賊徒を囲い込むことは帝に弓引く行為であり、蛮族として根絶やしにする……とでも言えば良いな。
法主や門跡に貴族や管領の血縁者が居ようが関係ない。そいつら最初から死に人だからな。俗世と関わり合った時点で大問題だわ。
『秋山』『沢』族滅しようそうしよう。
これにて第五幕終了です。次幕は『山門騒動』となります。気になる方はブックマークをお願いします。
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