第五十五話 たしかなこと:鎌倉公方の策謀
第五十五話 たしかなこと:鎌倉公方の策謀
足利持氏を「親族」と思うからおかしな話になる。系列子会社の社長で、その地域の有力企業の家系と代々親戚付き合いをして、今ではすっかりその地の名士になっていると考えれば、割かし理解できる。
例えば、正室は簗田満助の養女で族娘であったりする。利根川水系の重要な交通の要衝「野田」を抑える扇谷上杉の庶流と言われる家系だ。
母は、一色範直の姉で、これは関東に残った一色の家系の娘。当り前だが、祖母も関東の人間だ。つまり、足利本家とは本当に縁遠い。周りも同じなのだから、利益代表として関東諸将の意見を口にする事になる。
けどさ、それじゃ幕府の出先機関である必要なくね? と思わないのが持氏クオリティなのだ。元々、関東管領ありきであり、南北朝の時代に幕府の現地指揮官として関東・奥州・九州と遠隔地に置かれた役職なのだから当然だろう。
鎌倉公方は、その範囲の中で政所の出張所の名目上の責任者という立場に過ぎない。二階堂氏が務める政所の決済に代表者代理印を押すだけの簡単なお仕事だ。
それを世襲で行い、京と縁が遠ざかるにつれ自分の存在意義をはき違えることになり、今日に至っていると言えば良いだろうか。
この後、永享の乱と言われる鎌倉公方の反乱がおこる前章として、駿河・甲斐・信濃において後継者争いに介入し、所轄外の地域に自分の影響力を及ぼそうとし始めるのだ。
富士氏辺りが幼い息子を担ぎあげて鎌倉公方の支援を受けて反乱を起こすまで想定される。死んじゃうぞー
今川の件に関しては、駿河遊覧の際に噛んで含めるように俺は諭すつもりだ。だって、どう考えてもお前の愛する幼子死ぬぞ。馬鹿に担ぎ出され、周りに今川家の不満分子集めさせられて……最後は幕府の応援に討伐される
ことになる。
それでいいの? 後継がせても、多分長生きできないぞ……とな。
それにだ、兄に可愛がられ発展していく駿府を見る方がいいじゃんね。範忠が死んで後継ぐ可能性もゼロじゃない。家臣が「盆暗より、御舎弟殿にお願いする」と合議で追い出すかもしれない。
今やれば、確実に死ぬ。後であれば、可能性が高くなる。何の失態もない嫡男を排斥するってのが不味いよね。ようは、失策があればいいんだが、来年死んじゃう天下の副将軍には時間が残されていないんだよ。
それができないような副将軍ではないだろう。悪いようにはしない、俺の娘の一人も嫁がせて婿にしてもいいと思う。まあ、余り身分の高い女の娘は無理だがな。
そして、信濃にも持氏の使嗾が為されている。
元々、守護による統治を嫌って幕府直臣化を望む信濃村上氏ら国人の動きに応えたものであったが、自立志向が強い彼らは幕府の命令にも従わず関東足利氏に通じて反抗することもあった。
小笠原は上杉禅秀の乱で関東で手柄を立てた。これ以前、小笠原長秀が国人衆の反感を買い、大塔合戦に敗れて応永八年に信濃守護職を取り上げられ、ていたものを改めて守護に任じた経緯がある。
北信濃って鶏肋だと思うのだよ。善光寺があるのでその処遇の問題、また、大塔合戦の原因が村上氏ら国人が横領した土地を巡る守護への反動であったことから……まあほら、条件を付けて分けてみようかと思うわけです。
村上氏が北信濃の守護であることを認める代わりに、その統括する諸郡の横領された土地の返還に責任を持つ……という条件を付ける。まあ、それが守護の仕事なんだから、やれるものならやってもらおうじゃないか。
出来ない? 錦の御旗が俺を呼んでるってことで良いのかね。
甲斐に関しては、正嫡はこちらにいるのだが、その弟が持氏に唆され甲斐の守護を息子に補任させる代わりに、鎌倉公方の下につくという約定を取り付けていると言われている。
その素性に、なんら正統性は無いのだが甲斐に対してなんらプレゼンスを征夷大将軍が与えられないと甘く見ているのだろうか。甲斐守護の補任は征夷大将軍・室町幕府の所轄であり、鎌倉公方の辞令は意味がないって分からないのだろうか。
もしかしてオレオレ詐欺レベルかな、足利持氏よ。
それはそれで構わないよ。甲斐には切り札がある。え、そんなの、今川さんなら思いつくよね?『塩止め』です。
関東から仕入れられないわけじゃないだろうが、距離があるし路も悪いね。大体、富士川が利用できる駿府と都留を越えて移動するのでは全然容易さが違う。塩って重たいんだぜ。それに、濡れれば水分を吸って溶けたり、さらに重さが増す。どうするんだろうね、鎌倉公方に擁立された偽甲斐守護は☆
まあ、色々あがいてもらい、所詮鎌倉公方は「代替商品」であるということを周りに理解させよう。




