第四十九話 Re:大和の騒乱は続く
第四十九話 Re:大和の騒乱は続く
折角秋の取入れも終わったので、大和の糞坊主……糞国民を討伐しようと思っていたのだが待ったが掛かっております。なにそれ、どういうこと。そろそろ、バシッと討伐しておこうかと思うんだけど。
大体、何かあると揉め事収められずに幕府というか、将軍に依頼してくるんだから、もう、将軍が守護で良いよね。何か問題なのかね。興福寺別当が守護の機能をはたしていない、つまり、国家の態を為していないという奴です。
「……であるか……」
「「……」」
斯波義淳は事なかれ主義で「はやく管領を辞めたい」しか言わない盆暗だし、満済さんは「無為御成敗」が信条の賞味期限切れの政僧なわけで、まあ、そろそろ賞味期限なんだろうね。
彼らの言い分も分かる。何故なら、俺は来年富士遊覧に出かける予定なので、征夷大将軍自ら畿内に揉め事をばら撒いて行のは良くないというのだ。
「ならば、畠山一人に任せればよい」
今起こっている事はこうだ。八月に突然今まで攻撃されていた筒井氏が箸尾氏の城を攻め焼き滅ぼした。まあ、城って言っても砦規模だが。今まで、散々幕府が庇ってきてやったのに、まあいじめられっ子が反撃したくなる気持ちは分かるが、そりゃねぇよなという行為だ。
当然、箸尾氏が反撃を開始し、現在紛争真っ盛りということなんだ。
「で、他の宿老たちの意見はどうなんだ」
「恐れながら……」
山名・一色も、筒井の行為はけしからんがこれまで幕府方として協力してきた者を見捨てるのは、将軍の権威を傷つけるときたもんだ。山犬がどの面下げて言うのかと内心思わないでもないが、まあそれが普通の対応だろうな。
「京の普請仕事など重なっており、また、遊覧の件もございますので、箸尾の討伐如きで上様にご出馬頂くほどではないと。また、宿老すべてで出陣するのも行き過ぎであると申しております」
まあ、金がかかるからな。富士遊覧に供奉するのも自腹だから、出費を抑えたいのだろう。自分の着るものや見栄を張る道具には金を掛けるのに、義理は果たさねぇんだな山犬。吝な男だ。
「では、この冬の大和遠征は中止にすると」
「はい。畠山に来春にでも出兵させて収めればよろしいでしょう」
じゃあ、よろしくね。俺は皆の気が変わらないうちに、それで良いよと言うことにした。
そういえば、俺の頼んでおいた懸念が一つ片付いた。
中納言広橋兼郷の猶子となり青蓮院で得度をする事になった本願寺の法主の息子で蓮如という十七歳の若い僧が何者かに殺されたという。
本願寺は開祖親鸞の子孫が継いでいる寺院なのだが、末寺以下の規模となっている不人気な寺院である。
浄土真宗と言えば高田門徒が有力であり、東国でも人気がある。また、京では佛光寺を中心にして「名帳」・「絵系図」によって発展をとげる。これは、有名な坊主の弟子の名簿に名を連ねることで宗門に参加できるという……まあ、ファンサークルみたいな活動だ。
本願寺はそういうポイントが無いので、不人気。血のつながりだけなのだ。今の法主の孫にあたり、嫡子の嫡子という立場の蓮如の殺害事件は、おなじ真宗門徒同士の諍いか、はたまた、身分のありそうな僧侶に対する辻斬りかと様々な噂が流れているが、犯人は捕まらず真相は闇の中だ。
まあ、俺の依頼で誰かがやったんだろうな……
将来的に、本願寺が根をはる場所って商業的にもとてもいい場所なんだよ。あと、奴らは寺内町の運営が上手い。戦争はド下手だがな。革命軍みたいな闘い方するから厄介だが、押し込んで殺すのは難しくないだろう。
とにかく、高田派は一向一揆の時も参加することなく、割と穏健な宗派だったから、そっちは多分問題ないよね。そもそも、門徒が集まってよからぬ相談を堂々とできる本願寺の『講』のシステムを潰せたことが良い結果を生むことを望む。
蓮如は子供が三十人、正妻だけで生ませている。妾ゼロなのになんで三十人も産めたかというと、奥さん四人死んでいます。まあ、子供産みすぎだよな……どんな孕み袋扱いなんだよおい。
ともかく、この世界における一向宗の危機は誰にも知られる事無く消え去った。今後、蓮如と仲良くなるはずであった一休宗純的には残念だが、俺が密偵として仕事をやるからそれで勘弁してもらいたい。
一休毛坊主も、渡り巫女だかなんちゃって尼の愛人だか妻に子供を産ませていたが、お前は禅僧だからOUTだろ! と言いたい。
蓮如の奥さんになるはずだった不幸な女性を少なくとも四人は救ったのだから、俺は良いことしたと思う。あと、死なずに済んだ門徒たちもいただろうさ。




