第四十八話 風と君を待つだけ:大和の騒乱
第四十八話 風と君を待つだけ:大和の騒乱
さて、大和守護の話なんだが、進めている最中としか言いようがない。一つには、駿河に遊覧する話を進めている最中であり、尾張・三河・遠江・駿河には街道整備を命じている。山城から大和に向けての街道整備の成果を示し「金になるよ☆」と斯波君たちに命じているんだな。
故に、山城内に関しては街道の整備は終了している。大和守護を手に入れ大和国内の騒乱を抑えて街道を南都まで拡張するタイミングを考えている最中だ。
今一つは、先に延暦寺と揉める方が二度手間にならないからそれまで待とうかというのもある。鎮護国家の要の延暦寺と揉めたのだから、興福寺に斟酌する事もないと思わせた方が話が早い。
それに、大和国人同士の争いが激化する方が漁夫の利を得やすいのである。阿弥軍団を中心に噂を流し疑心暗鬼にさせているのだが、上手くいくかどうか様子を見ていると言えば良いだろうか。
鎌倉時代から守護を置かず、実質、興福寺が守護のように振るまってきた大和だが、興福寺が抱える国人のような武士紛いの集団が存在する。僧兵と呼ばれる『衆徒』とその指導層である『六方』は荘官のような役割を果たしており、興福寺の氏神部門春日社においては、更に国人同様の活動をしている『国民』という武士集団が存在する。
彼らの代表的な氏族が『筒井』『越智』等と名乗るどう見ても有力国人層にしか見えない集団を形成しているのだ。
さて、南北朝の時代、興福寺は一貫して北朝支持で活動してきたのだが、この『衆徒・国民』はそうではない。吉野が近い南部の地域に住む者は南朝側についた活動を行い始める。
『越智』『二見』『牧野』『野原』氏がそれに該当する。
中でも大乗院の『国人』である『越智』は有力で、足利尊氏の弟・直義が南朝側に転じたときに頼ったこともある。
対して、北朝・幕府側で有力なのは『筒井』となる。興福寺の強訴鎮圧に功績のあった『筒井』を『衆徒』に任ずるように足利義満……禿げ親父が興福寺に命じているのが発端である。つまり、筒井氏は足利に恩義があると感じているのだ。本来、興福寺別当が任ずるものを、頭越しに命じたのだから当然だろう。
幕府に恭順な新興筒井に対し、興福寺の他の衆徒国民は反感を持ち、一条院方国民の『箸尾』氏が応永十一年筒井氏を攻撃する。幕府が仲裁に入るものの、直の上司である興福寺は「身内の問題に口挟むな」と突っぱねている。
因みに、興福寺のトップは『一乗院』と『大乗院』の門跡が務める両院体制となっている。藤原氏の氏寺である興福寺のうち、『一乗院』には代々近衛家とその分流である鷹司家の子弟が、また『大乗院』には九条家とその分流の一条・二条家が加わる事になる。
鎌倉から南北朝に掛けてこの両院で揉め、三十年ほど抗争がつづいた事もあった。血の気が多い暇人なのだろうか。
既に、守護に当たる『興福寺別当』の存在が希薄になり、両院門跡が権勢を争う状態の中、更に南朝の影響を受けた南部の『国民』が荘園を横領し始める事で、今もって大和は混乱中である。
いや、義満禿げ親父も義持兄も何度となく諫め仲裁してるんだぜ。応永十三年、十五年と大和に兵を送っているし、応永二十一年には使者を送って国民や衆徒の争いを治めようとしたんだが、使者に暴力を振るうなど、幕府を舐めた態度を崩さなかったんだよ。
流石に頭に来た義持兄貴は、大和の主だった国人衆の代表を四十人ばかり京に呼びつけ、七つの条文で私合戦を行うことを禁じた。行った場合、大和追放(ひゃっほう!)所領没収、門跡の命でも戦をせず幕府に報告しろ、また、約をたがえた者は親類縁者と言えど匿えば同罪とする……うん、素晴らしい約定だね。これに起請文を出させたんだが、どっこい問題は収まらない。
それは、北畠満雅討伐の際、南部の『秋山』『沢』氏が北畠に同調したことにも現れている。まあ、本質的に幕府を軽んじているってことだね。加えて、正長の土一揆の際も土民どもと興福寺に押し寄せ、幕府が兵を派遣する事になったりした。
一乗院と大乗院の不仲から、衆徒の間でも足並みがそろわず、また秋山・沢の追放も土民どもの抵抗で不発に終わり、結局兵糧攻めで国一揆紛いの惣一揆を解散させた。
俺? 宣下前だからあんまりよく知りません。満済さんと管領ちゃんで対応したみたいだね。因みに、秋山・沢氏の本拠地は伊賀の南、街道沿い。つまり、そっち側の街道は整備しないが吉だなと思う。
今大和がどうなってるかって……だ・い・こ・ん・ら・ん☆
だってー 俺何度も停戦の手紙書けって管領や満済さんに言われたり、万里小路時房? 南都伝奏とかいう窓口の人に頼まれたから仲介も仲裁もしたし、何度か下見も兼ねて大和にも足を運んだわけ。だが、話を聞かない。
当時のベテラン管領畠山満家は「管領の話じゃ聞かないから」っていうし放置すると幕府の権威が!! とか言って、お前の領国の河内は山挟んで隣だから影響受けると困るんでポジショントークしてるだけだろ……とは言わず、手紙書いたよ、言われる通りね。でも駄目。だから放置からの……殲滅に動こうかと思っています。まあ、駿河下向を前によい訓練になるでしょう。
さあ、ただ飯食いの諸君、ちょっと涼しくなったから体動かそうか。




