第四十四話 こたえ:湯起請と悪将軍
第四十三話は誤って重複して投稿しておりますので削除しております。欠番扱いでお願いします。
第四十四話 こたえ:湯起請と悪将軍
おっすおら義教、餅公方から悪将軍に進化したっぞ!
そりゃ、今まで「仲がいい」とか「長く居座っている」って理由で、「斟酌」してきたのを一切やめたからな。確証が無くても「これ確信犯でしょ」ってのは、俺が判断して『嵌める』ことにしている。だって、証拠はないけど印象では確実なんだもん☆
そこで登場するのが『湯起請』です。神意に問うという体裁で、言い訳を一切許しません。神様嘘つかない!!
最近、義持兄の正室にして叔母の日野栄子が亡くなったな。ご意見番的存在だったと周囲も自分も思っていたのか、俺に色々言ってくれて気持ちは有難かったのだが、義持兄の政策を踏襲するとだ、一層馬鹿が増長するので俺の首の後ろがうすら寒い事になる。
赤松君の家で「赤松踊り」を見るという正月の嘉例も今年から中止したしな。そりゃ、少年足利義満が赤松に保護されていた時代に喜んで見たという事で、歓迎の意を込めて将軍訪のたびに見せられるのだが……あれだ、一度で十分です。この後、斬り殺されるのかと思うと、全然楽しめません。
世間では俺が益々勢いづいていると認識しているが、それは違う。世の中には「御成敗式目」という武士のマナーブックのようなものがある。明らかに問題がある行動……地頭が横領して三年以内に返還しない場合、地頭の任を解くとかだな。それでも、三年は猶予があるっている優しい配慮……には罰則があるが、基本的には子供を諭すような内容だ。
これを基本的に守らない奴らばっかりなんだよ。なんでかって? やっぱ罰せられないからやったもん勝ち。ドラレコや監視カメラが入る前の昭和な時代を考えてみたまえ。あと、DNA検査な。
世田谷の殺人事件もとある三国人の関与がほのめかされているが、指紋押捺もDNA採取もしていないから国の外に出たら追跡できない。ビザなしなら指紋押捺+DNA採取義務付けにしないと危険じゃないのでしょうか。外国人の犯罪天国になってるじゃんね。これでは警察が持ちませんのことよ。
まあ、概ねこの時代もその通りなわけです。だから、まず京から始めようではありませんか。帝と俺のお膝元から、やったもん勝ちルールを排除し、文句があるなら武力討伐に移行するというわけだ。最初は小者からこつこつ処分していこう。最後は山犬討伐だ。
長年溜まりに溜まった裁判沙汰を、将軍自らパパッと判定していくのだよ。
「……その、この舞台のようなものは何でございましょうか……」
「御白州だな」
この御白州というのは、能舞台には存在する。舞台の周りを白い石の地面で囲うのだが、庭一面ではない。だが、この濡れ縁の先の庭は全て白い石を敷き詰めてみた。石庭みたいな感じ?
「この畳の部分に、吟味方が座る」
そうです、時代劇に出て来た御白州を俺の脳内記憶を元に再現しています。民事の場合、被告と原告と証人、刑事の場合、被告と証人がこの場に現れます。普通は、結論が出ていてその場で申し渡しをするだけなんだが、当然、不服のある者たちもいる。声がデカい、コネや賄賂がある者が勝つのがこれまでの訴訟であったが、それを許さないということを知らしめるための「将軍親裁」だ。
「……上様が宜しければ、構いませぬ」
と、政所の奉行衆は渋々認めたのだが、実際これは効果があった。裁判官が高い位置から閻魔大王よろしく判決を申し渡す舞台効果はこの時代にも有効でした。
それまでより、スムーズに沙汰が下せるようになり、御白州大人気。もう、手放せません! くらいの夜中の通販のMCみたいなことを皆申しております。江戸町奉行所だって、余程の重大事件以外は与力が沙汰を下すのであって、一日何回も「おうおうおうおう、黙って聞いてりゃ……この背中の桜吹雪!散らせるもんなら散らしてみろい!!」と冬寒そうにもろ肌脱ぎするわけではありません。せいぜい、週一回です。
というわけで、今日は俺の出番が回ってきた。最近、談合して米相場を釣りあげている商人がいるそうで、内偵の結果、とある坊主がその元締めをしているということが判明した。
商人でもなく、身分のある寺の貫主であるからそうそう厳しい吟味もできないということで俺の所に話が来た。
身分があるので、白州に茣蓙というわけにもいかず、床几に座らせている。
「どれもこれも事実無根でございます。拙僧は潔白にございます!!」
俺は鷹揚に頷く。
「よくぞ申した。では、その潔白を神意によって証明しようではないか」
「湯起請入りまーす!!」
「「「湯起請入りまーす」」」
笑顔で準備を始める中元小者たち。周りを怪訝そうに見まわす坊主。
「な、何が始まるのでございますか」
「見ればわかるであろう?」
米を炊くほどの大きさの窯に湯が張られ、竈が形作られると薪をくべられ湯が沸騰し始める。このステージに突入した時点で有罪確定なのだが、俺にも情けがある。
「……さあ、御坊の潔白を証明されよ」
「こ、これは……」
人の頭ほどもある『石』が入っている。軽い罪なら、火傷とバーターで許す事もあるが、今回は背後に叡山が存在するので、絶対有罪にするマンだ。
「神意に御坊が叶えば、火傷もせず軽石のように持ち上がるであろうよ」
話は終わりとばかりに、俺は桟敷を立ちあがりその場を後にした。
さて、件の坊主が釜の沸騰する湯に手を入れたかどうかは述べないが、『湯起請で罪を認めた』という事実だけは京に知らされた。
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