第三十六話 これは大騒ぎ:七月右大将拝賀式
第三十六話 これは大騒ぎ:七月右大将拝賀式
目出度いことが続き、赤様を見に尹子さんの訪問も頻繁になってきた。そして、すかさず側室も増加中!! いつヤルの今でしょ☆ とばかりに、幕臣どもが娘を押し付けてくる。
斎藤朝日妹の暁子とか、玉川宮という南朝方だが幕府に恭順している宮家の娘である賜子とか……まあ色々だ。なので、手狭になってきたので場所を移るか増築するかの選択になるだろうか。まあ、元服までは同居したいのだが、二三年すれば傅役を付けてどこうという話になるだろうから、中々厄介ではある。
「上様、いもうとの豊子にござります」
「とよこでおじゃりまする」
「……ようきたな、豊子殿。さあ、こちらに参られよ」
どう見ても完全に幼児です。餅がもらえるから付いてきちゃった?その後ろに尹子と同年代の童女も付き添いでやってきているので、……館の子供指数急上昇☆
この豊子ちゃんとお付きの童女の誰かは俺の側室にそのうちなるんだよね。なんか、やりずらいわー 色々な。子供のころから知っている娘を嫁にするって嫌じゃないか普通。そういう性癖は俺にはない。
俺は、お付きの者には尹子から、妹豊子には直接磯辺巻の餅を与える。
「これが、最近お奨めの餅じゃ」
「はい、黒い紙ごとたべるのでおじゃりますか」
「おお、それは紙漉きで拵えた海苔じゃ」
「のり……でございますか。あの苔のような」
「うまいぞ、硬くなる前に皆も食べるがよい」
「「「「「はい」」」」」
こうして童女軍団は黙々と餅を食べ始める。まあ、なんだ、団子とか餅はこの時代では「ケーキ」みたいな扱いだと最近気が付いた。この時代は玄米食が当たり前で、白米はお菓子みたいなもんだからな。
江戸期に上級武士から白米におかず複数という食事が始まり、明治に向けて徐々に普及していくわけだな。この時代は将軍様も玄米食だし、玄米食わないと一汁一菜では栄養が足らない。まあ、俺は三菜くらいつくけど。野菜は健康にいいからじゃなく、米や雑穀だけで腹が膨れないから嵩増しで
いれるもんだしな。マジで。
つまり、餅がもらえるというのはとても特別なことなのだよこの時代はね。だから、正月に祝いとして餅をつくわけだ。
何だか小声で「公方様に嫁げば毎日お餅が……」とか「姫、まようてはなりませぬ」とか豊子周辺から聞こえてくる。あれだ、駄目な男の妻になるより、良い男の妾になれって時代だな。
――― 日本一いい男、征夷大将軍 正二位。年末には従一位で、来年は内大臣になるはず。じゃないと、源氏長者になれないからね。
満済さんもちょっと苦渋の顔。将軍の近習という、馬廻のような側近が二十人ほどいるのだが、その中で三管領に四職の庶流の息子同士が張り合ったりして鬱陶しい。三管領はともかく、四職とか親父も余計な物を設けてくれた。赤松も山名も使いにくくてしょうがない。そこに一色も入れておこう。
どうやら、供奉する順番で揉めているらしい。何なら止めようか?
確かに、管領なら年齢とか管領を務めた長さ順とかで調整できる気もするんだが、四職の当たりだとどうなんだろうね。畠山持国と一色持信の間で揉めているのだそうだ。持信の兄の一色義貫がごねているという。
一色義貫は北畠満雅討伐や侍所別当を務めるなどの実績から、拝賀式の供奉行列に際しては先陣を務めることを強く望むが容れられず、二番目に配されることが気にらなかったらしい。子供か!!
「家の恥辱」とした義貫は当日、病気と称して参加しないと言い出した。俺は『次の鎌倉公方討伐で先陣を切る気なら一番でもいいよ』と言ったのだが、それは嫌らしい。なにそれ、出したり引っ込めたりすんなよ先陣。
一色君は、この後散々表立って俺に逆らい続け、最終的には鎌倉公方に味方した一族を匿ったことを責められて大和遠征中に討伐され敗死している。その後、一色家は所領を分割相続させられ、没落していくことになるらしい。
赤松パグ満祐ほど、黙って唯々諾々と命令に従えないプライドの高さと「連枝だからこのくらいは」という甘えた考えがいくないね。
そもそも、四職とかって侍所別当を務めたことがあるというだけの家柄で、今川や土岐も務めたことがある。幕府の警察庁長官と防衛大臣の兼任のような職責だが、家柄じゃなく相伴衆の中から能力と信頼度で与えるべきじゃないのかなと俺は思う。変な家格作んな禿げ!!
赤松・山名は足利と縁遠いからその辺ドラスティックなんだが、三管領と一色は自分たちの都合のいいように距離感を変えるので腹立たしいな。都合がいいときは親戚面して、都合が悪いときは他人の家って何なんだよ。最初から他人の方が使いやすいわ!
細川とか、最後の方は「俺の方が足利将軍家より上の血筋」とか意味わからない優越感持っていたよね。細川晴元あたりさ。漏れなく没落したけど、三好長慶GoodJob☆
山名を纏めると良いことが起こりそうにもないので、赤松を滅ぼすついでに色々考えよう。播磨の東半分は将軍直轄、西は赤松の生き残り、美作と備前を与える代わりに、京に近い領国を半国ずつ二か国取上げるか。
歴史的には、俺の死後、三か国を管領畠山持国に認めさせ、赤松家は一瞬消えるんだよな。俺の死んだあと土倉相手にゴゾゴゾやって借金棒引きにしたりして自分の利益を稼げるだけ稼いだのが山名宗全だ。
赤松の次はこいつの処分を考えないとな。山名が三か国取るっておかしいだろ。山名じゃなくて山犬だわこいつら。




